【 Heaven's Call 】
◆9w1Pjwtxyc




842 名前:Heaven's Call【1/3】 ◆9w1Pjwtxyc :2006/11/26(日) 04:34:29.97 ID:x9OPTokN0
 その奇妙な電話がかかってきたのは、高校の担任教師から停学を言い渡されて五日目のことだった。
自室で反省文を書いている最中、電話のベルが鳴った。
母は仕事に行っていて、当然家には俺一人だ。
俺はしぶしぶ腰を上げ、受話器を取る。
「もしもし」
「……高志か?」
人間にしては不自然な、ノイズ混じりの声が聞こえてきた。
「……どちら様ですか?」
「ははは、わからなくても無理ないか。あれからもう何年も経つもんなぁ」
急に冗舌になる、ノイズがかった声。
俺はいよいよ不審に思えてきた。
「あんた誰だよ。いたずらなら切るぞ」
電話の主は、あまりにも意外な返答を寄こした。

「俺だ。お前の父親だった男だ」



843 名前:Heaven's Call【2/3】 ◆9w1Pjwtxyc :2006/11/26(日) 04:35:52.56 ID:x9OPTokN0
 父は三年前に交通事故で死んだ。酒酔い運転の車が歩道に乗り出し、会社の同僚と飲みに行く途中の父を撥ねたのだ。
その父が今、あの世から電話をかけてきているのだという。
「どうやら俺は、あの日死ぬべき人間じゃなかったらしい」
父を名乗る男はそう言い放った。
「あの世に向かう最中にな、俺を殺した死神が青い顔してこう言ったんだ。
『アナタヲ殺ス筈デハナカッタ。アナタノ横ニイタ男ヲ殺ス筈ダッタ』ってな」
その死神の話では、父の隣にいた同僚はその日その場所で事故により死ぬ運命にあり、彼の死をその死神が担当していたのだという。
だが手違いで車は俺の父を撥ねてしまった。
「心底あきれたぜ。俺は無実の罪で死んだのか、とな。その死神を殺してやろうとも思った。
……けどな、気付いたんだよ。そこでその死神を殺したところで何の得もない。むしろ『許す』ことにこそ意義があるってな」
「……何が言いたいんだよ?」
「お前さ、今停学中なんだって?」
「は? なんで知って……」
言いかけてやめた。おそらく何もかもを分かっているのだろう。
学校の窓ガラスを割ったというのが冤罪だということも、無実の罪を着せた教師を憎んでいることも……。
「無実の罪を着せられて、たいそう怒っているだろうな。けどな、「神」ですらこうなんだから、人間が過ちを犯すのは当然のことだ。
教師を責めたところで何の意味もない。だからここはひとつ穏便に……おっとそろそろ時間だ。また電話するよ」
そう言うや否や、一方的に電話は切られてしまった。

 ――心なしか最後の方の言葉は、それまでのノイズがかった声とは違う、人間味あふれる声で響いた気がする。
きっと、それを伝えるためにわざわざ電話をしてきたんだろう……。


844 名前:Heaven's Call【3/3】 ◆9w1Pjwtxyc :2006/11/26(日) 04:37:25.87 ID:x9OPTokN0
 電話から数時間後、心底申し訳ないといった表情で、担任教師が家にやって来た。
窓ガラスを割った真犯人が見つかったという。
玄関先で何度も頭を下げる姿を眺めながら、俺はあの電話のことを思い出していた。
「……顔を上げてください。先生」
俺は笑顔で語りかける。
「そうやって素直に謝ってくれるなら、許してあげるつもりでしたよ。はじめから」
俺は笑顔で語りかける。
教師の表情が安堵へと変わり、そして――
「……素直に謝ってくれたならね。変声機、最後どうかしたんですか?」
教師の表情が凍りつく。
俺は渾身の右ストレートを教師の顔面に叩き込んだ。


【終わり】



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