【 地獄の一丁目 】
◆K0pP32gnP6




576 名前:品評『地獄の一丁目』1/3  ◆K0pP32gnP6 投稿日:2006/11/25(土) 15:47:46.77 ID:exB8MQLd0
 今日、俺は自殺した。
 別に学校でいじめられてたとかではない。
 このまま生きている事に意味を見出せなかっただけ。面白い事なんてこの世には無い。
 別に周りの人間の事なんて考えなかったね。死んだ後のことも。
 いまさらだけど、自殺なんてしなきゃ良かった。

 俺は高校の屋上から中庭に飛び降りたはず。
 しかしなんだここは? 裁判所の被告人席?
「この人の罪状は?」
 黒っぽい着物を着た若い女が言った。
「殺人、他人に対する心的傷害です」
 メガネを書けた、こちらは黒いスーツの痩せ男。
「そこの男の子。それじゃ、何か言いたい事は?」
 黒い着物の女は微笑みながら言った。
「ここはどこだ?」
「地獄の一丁目。天国か地獄か決めるところだよ」
 微笑を崩さず女は言った。
「地獄……って。じゃあ、あんたは閻魔か?」
「違うよー。閻魔見習みたいな感じ。閻魔さん達は地獄に行った後のことを決めるから」
 地獄のシステムは良く知らないけど、なかなかしっかりしていそうだ。
「他にご質問は? 無ければ先に進ませていただきますが」
 黒いスーツの男が冷たく言った。
「裁判所みたいなもんか?」
「そうそう。よく分かってるじゃん!」
 裁判所か。その割には、
「弁護士はいないのか?」
「いません」 
 黒スーツが即答。
「ま、待てよ。じゃあ」
「地獄行きはまず避けられないね」

577 名前:品評『地獄の一丁目』1/3  ◆K0pP32gnP6 投稿日:2006/11/25(土) 15:48:16.20 ID:exB8MQLd0
 閻魔見習が笑顔でいった。
「じ、地獄なんてものが本当にあるなんて知らなかったし、知ってたら自殺なんてしなかった!」
「殺人が犯罪と知らなかったら人を殺してもいいんですか?」
 冷静に黒スーツが言った。
「検察官、黙って」
 今までにない冷たい無表情で閻魔見習が言った。
 ていうか、弁護士いないのに検察はいる、って。不利すぎる。

 閻魔見習と地獄の検察官と俺の三人しかいない裁判は数時間続いた。
「……というわけで、君は地獄行きね?」
 閻魔見習はやはり笑顔だった。
「最初から、決まってたんだろ?」
 皮肉っぽく言ってやった。
「まあ、ね。形式上こんな長くなっちゃうけど」
 少し申し訳なさそうに、見習は言った。

「ただ覚悟してね」
 一転、閻魔見習は力強い目をした。
「自殺は殺人と同じだし、君の周りには悲しむ人も沢山いたんだよ? 重罪は必至だね」
「周りの人って、関係あるのか?」
 俺の質問には検察官が答えた。
「周囲の人間に対する心的傷害。重罪で」
 検察官は「す」と発音しようとしたが、それを遮るように見習が言った。
「なんで、そんなに辛い生活してたわけでもないのに自殺しちゃったの?」
「辛い生活でもなかったけど、楽しくもなかった。なんか生きてる意味ねぇなー、と思って」
 見習いは軽蔑するような目で言った。
「なにそれ。そんな下らない理由?」
 俺にとっては下らなくない、よな?
 反論しようとしたが、検察官の携帯が鳴ってタイミングを逃した。ていうか携帯あるんだ。
「ちょっと、検察官携帯切っときなさいよ!」

578 名前:品評『地獄の一丁目』3/3  ◆K0pP32gnP6 投稿日:2006/11/25(土) 15:48:40.99 ID:exB8MQLd0
 検察官は無視して電話に出た。
「もしもし」

「はい、分かりました。ええ、伝えます。では」
 電話を終えた検察官は閻魔見習を見ていった。
「この少年の罪状が変更になりました」
「え?」
 見習は目を丸くした。
「殺人“未遂”と他人に対する心的傷害“未遂”です」
 検察官淡々と告げた。
「そう。未遂なら執行猶予ね。六十年位でいいかな?」
 未遂? 執行猶予?
「地獄行き執行猶予ってなんだ」
 俺の言葉はあっさり無視された。
「いい? もう自殺なんてしないでね。大変な事になるから。少なくとも六十年間は」
 閻魔見習は今までになく真剣な表情で言った。

 全く状況が把握できない俺はしばらく黒い着物の女を見つめていた。
「退廷はそちら扉からどうぞ」
 検察官が言った。裁判終了のようだ。でも、次はどこに行くだ?
 俺が扉に手をかけると、後ろから閻魔見習が言った。
「扉から出たら君はここの事を夢だと思うかもしれない。でも、無駄な自殺だけは絶対にやめて!」
 

 目を覚ますとそこは病院のベッドだった。未遂ってそういう事か。
 なんか説教くさい夢を見た気がする。地獄がなんとか。
 ただ、学校の屋上から飛び降りたという自分の状況を考えると、夢ではない気もする。
 もしこれが夢じゃないなら、この世界もなかなか面白いじゃないか!



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