【 ヤミクモ 】
◆dT4VPNA4o6




596 名前:ヤミクモ (1/9) ◆dT4VPNA4o6 投稿日:2006/11/20(月) 00:20:22.38 ID:3qvT3Mmk0
 「これで、20人目か……」
 年配の警部が遺体を見ながらつぶやいた。
「もう、何を考えてるんでしょうね犯人は……」
 若い巡査が何か諦めた様な口ぶりで、それに答える。
 二人がいるのは繁華街の裏路地、その細い道の上空に被害者の遺体はあった。
 浮かんでいる訳ではない。遺体は地上から遥か高いところに、何らかの繊維で
絡め取られていた。繊維は両側のビルに張り付き、吊られた遺体は壊れた
マリオネットのように所々がひしゃげていた。
「また心臓か? 」
 現場を離れながら、警部が尋ねた。
「鑑識にまわしてみないと何とも……。まあ、間違いないでしょうが」
 後ろから巡査が追いすがる。
「帰るぞ、後は本店様の仕事だ」
 
 この異常な殺人事件が発生したのは二月前。以来、20人が一様に同じ手口で
殺害されて来た。
 被害者は皆、全身を強い力で締め上げられての圧死。しかも殺害後、心臓をえぐられ
持ち去られていた。
 それだけではない。遺体は例外なく謎の繊維に絡め取られて、誇示するかのごとく、
街路樹に、煙突に、ビルの谷間に、吊るされていた。
 警察は威信をかけて犯人を追っていたが、その対応を嘲笑うかのごとく、
犯行は続いていた。

 「犯人は何を考えてるんでしょうね? 」
 巡査は先ほどと同じ事を口にした。
「気狂いの考えなんかわかるものか。……何も考えてないのかも知れんしな」
 警部は吐き捨てるように答える。
「案外、ゴシップ誌の書いてること正しいかもしれませんね」
「例のクモ男の記事か、アホらしい。鬼太郎でも呼ぶか? 」
「そんな……まあ、もし怪物なら僕達の出番はありませんけどね」

598 名前:ヤミクモ (2/9) ◆dT4VPNA4o6 投稿日:2006/11/20(月) 00:22:05.91 ID:3qvT3Mmk0
 『恐怖の連続殺人事件 犯人は蜘蛛男!    か』
 『被害者ついに20人を突破! 問われる警察の捜査体制』
 『連続殺人事件の犯人を本誌がスクープ!   も』
 夕刊紙『日刊新報』のここ最近の見出しである。世間を騒がす凶事にゴシップ誌が
食いつかないはずが無く、夕刊紙をはじめ連日のようにこの件の記事をトップに持ってきていた。
 
「どうして私の記事がボツなんですか!」
 『日刊新報』の編集部に怒声が響き渡った。だが、誰も別に気にした様子は無かった。
編集部ではこれは日常的なことだからだ。
「蝶野君、何度も言っているだろう。君の記事は確かによい出来だが、夕刊紙には向かない。
君の記事は、まあ、いつも言ってるが余所行きなんだよ。あれでは読者は買わんよ」
「じゃあ、売れればクモ男でも良いと言うんですか!
この事件はもう、その辺の殺人事件とは訳が違うんですよ? 軽々しく扱うべきじゃありません!」
 蝶野の呼ばれた女性はなおも食い下がった、後ろから眼鏡の青年がためらいがちに
声をかける。
「あの、蝶野さん、編集長は新聞全体の事も考えなくちゃならないですから……」
「黒巣くんは黙ってて!」
 一言で後輩の意見を封じ込み、蝶野は更に編集長に意見しようとしたが、
「ああ、私はこれから編集会議だ。すまんがこれまでだよ」
 わざとらしく立ち去ろうとする編集長に彼女は尚も話を続けようとしたが、
言い澱んでいる内に立ち去られてしまった。
「ああっ、もう! 」
 取り残された蝶野は憤って頭をかきむしり暫らく棒立ちしていた。編集部の人間は
巻き込まれるのを恐れて取り合おうとしない。約一名を除いて。
「あの……蝶野、さん? 」
恐る恐る声をかける黒巣青年のネクタイを引っ張り蝶野は、
「黒巣くん、取材に行くわよ」
 そう言って、編集部を後にした。

599 名前:ヤミクモ (3/9) ◆dT4VPNA4o6 投稿日:2006/11/20(月) 00:24:42.89 ID:3qvT3Mmk0
 もっとも取材などしようがなかった。警察はこの件に関して緘口令を敷いたらしく、
末端の巡査からの些細な情報すら聞き出せないようになっていた。
 仕方なく二人は喫茶店に入って二人だけの編集会議を始めた
「売れ行き優先なのは理解できるわ。なら、なお更あの事件のことを詳細に
報じるべきじゃない? 」
 先ほどの件がまだ気に障っているらしく、蝶野は黒巣に同意を求めた。
「ええ、まあ、でも蝶野さんのはちょっとウチには固いですよ」
「この期に及んでまだ風俗記事を載せる編集部の頭はとろけ過ぎだと思うけどね」
 黒巣は苦笑いでそれに答えた。
「取材ができないならこの事件の分析でもしましょうか、ま、警察がとっくにやってるんでしょうけど」
蝶野はそう言いながら、ファイルを取り出した。
「殺された20人、公表された情報が正しいとしたらまったく共通項がゼロ。
中年のサラリーマンからソープ嬢まで、まあ幅広くやったものだわ」
「感心しちゃだめですよ」
「別に関心なんかしてないわよ。普通、通り魔的な殺人事件でもある程度、被害者に共通性は見出せるはずよ。
ところが今回の件はヤミクモに犯行を続けてるようにしか見えないわ」
 しかめ面で蝶野はファイルをめくる。その行動を見ながら黒巣は言った
「ヤミクモ……ですか。その名のとおりやっぱり犯人はクモ男だったり」
「ちょっと、貴方までそんなことを言い出すの?」
 うんざりした様子で蝶野は黒巣に向き直った。
「でも、犯行に必ず使われるあの繊維、あれクモの糸にそっくり何だそうですよ。
警察は化学繊維の研究者で怪しいやつを何人かピックアップしてるって……」
「ちょっと待って、何で黒巣くんがそんな話知ってるの? 警察の発表ではそんなこと言ってなかったわよ」
 黒巣からの意外な情報に蝶野は怪訝な表情を見せた。
「え? ああ、いや、そ、その、そう鑑識に知り合いがいまして……」
 ――誤魔化されたか――そう思いながらも蝶野はそれ以上の追求は無駄と判断した。

600 名前:ヤミクモ (4/9) ◆dT4VPNA4o6 投稿日:2006/11/20(月) 00:26:37.37 ID:3qvT3Mmk0
 その夜、女が逃げていた。
 彼女は町で発生している、連続殺人を知らないわけではなかった。
だが一度動き始めた都市は昼であろうが、夜であろうがその機能を停止することはない。
そして彼女はその都市の夜の機能を支える人種だった。
 警戒していないわけではなかった。だが、百万人を超えるこの都市でいかに殺人鬼がいるとわかっていても、
まさか自分が狙われるとは誰も思わない。
 そして、それらの要因が彼女の人生を終わらせようとしていた。

彼女に追いすがるものは地上にはいなかった。ビルの壁にへばりつき獲物を追い詰めていった。
それは、人間のようではあった。足があり、指の付いた手もある。
だが背中から二対の脚が突き出ている人間などいようはずがない。
やがて彼女は追いつめられた。もはや哀願する気力さえも失っている。
一方追い詰めた異形の者は、人の顔に乗せた眼鏡に獲物を写してニタニタ笑っている。
「もう、終わりですか?」
ニタニタ顔をそのままに、異形は両手の間に糸のような物を発生させていた。
「じゃあ、イタダキマス」
異形はその糸を女に投げつけた。果たして彼女は抵抗しようとしたかどうか。
悲鳴を上げる暇も与えず、糸は彼女を絡め取り、あっという間に全身を砕き死に至らしめた。
異形は遺体に近づくと、その杭のような脚を胸に叩き込み、心臓を抉り出した。
「ヒヒヒヒヒ! ヘヘヘヘヘヘ! 今日の獲物はジョウモノダ!」
誰もいない深夜の公園の隅に異形の笑い声が響き渡った。
ひとしきり笑い終えると、異形の者はその心臓を食べ出した。それはさながら飢えた獣のように一心不乱に貪るのであった。
「食事の後は、飾り付けですねえ。今日はどうしましょうか? 」
独り言を言いながら、異形は遺体を飾りだした。その日の額縁はアスレチックに決定した。

603 名前:ヤミクモ (5/9) ◆dT4VPNA4o6 投稿日:2006/11/20(月) 00:28:27.63 ID:3qvT3Mmk0
 21人目の犠牲者の現場に取材に行った蝶野はその帰り道から、誰かに付き纏われているような気がして妙に落ち着かなかった。
 振り返っても誰かが付いてきている訳ではなかった。
だがあらぬ方向からの視線にさらされている気がしたうえ巻こうとしても途切れなかったため、気が気ではなかった。
「もう、こうなったら」
 彼女は急に路地に入りまた別の路地にすぐに入った。人通りの少ない場所である。
偶然を装って入るにはその場所に果たして入ってきた人物は、
「黒巣……くん? 」
 声をかけられた黒巣はあわてて蝶野に向き直った。
「あ、あ、蝶野さんやっと追いつきましたよ。現場に置いて行かれたんで焦りましたよ」
「えっと、ずっとつけて来てたの黒巣くん? 」
「え? ああ、多分そうかも……。僕、芸能は担当しない方がよさそうですね」
 そう言って頭をかく黒巣に一瞥をくれながら蝶野は、蝶野は視線の主を探したが黒巣以外に人は来なかった。
『でも、さっき振り返った時も黒巣くんはいなかった様な。見落としていたのかな?』
釈然としないながらも、そう納得するほかなかった。
「まあいいわ。黒巣くん、帰るわよ」
 
 だが、蝶野に対する視線は途切れることはなかった。また、彼女もそれを感じながらもどうにもできないイライラを鬱積させていた。

 そんなある日、蝶野は意外な情報を仕入れた。
「これがそうなの? 」
「そ、ああ、持ってくなよ。これまだ公開しちゃだめなんだから」
 懇意にしている知り合いの刑事から、事件現場付近で複数目撃された不審者のモンタージュを見せられ彼女は薄ら寒さを覚えた。
 やせた顔に眼鏡を乗せたその人物は黒巣に似てなくもなかった。
「まあ、そんな顔の奴がいたとしても、まだ犯人と決まったわけじゃないがな」
 そんな刑事の言葉も、彼女は上の空だった。

604 名前:ヤミクモ (6/9) ◆dT4VPNA4o6 投稿日:2006/11/20(月) 00:30:03.95 ID:3qvT3Mmk0
 さらに数日が経過した。あの日以来蝶野はなんとなく黒巣を避けていた。
無論、格段の根拠があったわけではない。だが一度強くなった疑念を晴らそうとする気には成れなかった。
まさか同僚に『あなたは殺人鬼か』と尋ねるわけにも行かず、日増しに強くなるような気がする視線に彼女は軽いノイローゼ気味になっていた。

 その日、資料の片付けに手間取り彼女が会社を出たのは午後十一時を過ぎていた。さっさと帰ろう、そう思った矢先、例の視線が彼女を襲った。
だが、いつもの様などこかから見定めるような視線ではなかった。もっと露骨に狙いを定めたような、冷たい視線に彼女はとっさに振り返った。

 男がいた。
 中肉中背、特徴らしい特徴もなかった。
 ただ一つ眼鏡をかけていること以外は。

 男がニタッと笑うのを見て蝶野は駆け出した。逃げた根拠などどうでも良かった。
視線の主を見つけたら一発殴ってやろうと決めていたことは完全に忘れていた。
あれがそうだ、そうに違いない、警察、そう警察に助けを求めないと……。
そんな事を考えながら交番までの最短距離を走ろうと角を曲がって、そこには先程の男がいた。
「ウソでしょ……何でよぉ」
 声が震えているのが自覚できた。今にも腰が抜けそうだったが、
もし尻餅をついたらそれで終わりなのは、切れてしまいそうな理性がかろうじて理解していた。
「どうしたんですか? そんなに慌てて」
 ニタニタ笑いながら男は話しかけた。言い知れぬ恐怖を感じ、無駄と思いながらも蝶野は背を向けて再び逃げようとして、
「うわっと!」
 場違いな、間の抜けた声にぶつかった。
「え、あ、く、黒巣くん?」
 蝶野がぶつかった相手は、つい先程まで彼女が最も疑念を抱いていた黒巣その人であった。

605 名前:ヤミクモ (7/9) ◆dT4VPNA4o6 投稿日:2006/11/20(月) 00:31:49.70 ID:3qvT3Mmk0
 犯人が黒巣ではない事は彼女にとっては良かったが、依然危険な状況に変わりはなかった。
彼女を追い回していた男は相変わらず、少し離れた場所に佇んでいる。
「えっと、あの、何かあったんですか? 」
 戸惑いがちに黒巣が尋ねる。
「あっ、あの、あの変なやつが、なんか、付きまとってきて、その……」
「あの人ですか、ああ、じゃあ逃げましょうか」
「ちょっと待ってアイツは……」
 蝶野は最後まで台詞を言うことができなかった。黒巣は蝶野の腕をつかむと脱兎のごとく走り出した。
いつもの少し弱気な彼からは、想像も出来ない様な速さだったが、
「ちょっと、黒巣くん待って! 走っても無駄なの、アイツは……」
 逃げても先回りしているのよ。そう言おうとして蝶野は黙った。それではまるで怪物ではないか。
自分が否定した蜘蛛男に襲われそうになったと言うのか。
身の危険とはまた違った不気味さを感じ彼女は押し黙ってしまった。

どれくらい走ったか、黒巣は立ち止まりあたりを見回した。
「えっと、逃げ切ったみたいですよ」
 確かに周囲にそれらしい人物はいない。
ほっと息をつき礼を言おうと、黒巣の方に顔を向けた蝶野は、再び凍りつくことになった。
「しつこい変人だったんですか? まあ、もう大丈夫でしょう」
 話し方は、いつもの黒巣だった。
だが、その目つきはいつもの情けない視線ではなく見たこともない、冷たい視線だった。
「蝶野さん、あの怪我とかないですか? 」
 しかし彼女に向き直ったときには、もとの目つきに戻っていた。
「う、ううん、何でもない、何でもないわ」
 きっと見間違いだろうと、彼女は思い込むことにした。
「今日はもう帰ったほうがいいですよ、ホラ、タクシーが来ました」
 黒巣はタクシーを止めると彼女を乗せたが、彼は乗ろうとはしない。
「黒巣くんも一緒に乗ってったら? 」
「今日は僕、宿直なんですよ。それじゃあお休みなさい」

607 名前:ヤミクモ (8/9) ◆dT4VPNA4o6 投稿日:2006/11/20(月) 00:33:02.59 ID:3qvT3Mmk0
 戸網は始めての狩の失敗に苛立っていた。いつもの様に追い詰めていつもの様に魂の檻である心臓をいただく。
それだけのはずだった。始めて見た飛び切りの極上だったのに。
 あの時現れた男が、それを台無しにした。どんなに逃げてもビルを伝えば追いつくはずが、その日は追うごとに距離を離されついに見失ってしまった。
どんな手品を使ったかは知らないが、とにかく彼は獲物を逃す羽目になった。
 そのとき彼の前に先ほどの男――黒巣が立ちふさがった。
「アンタ、人の狩りを邪魔してくれたな」
 戸網は背中から二対の脚を出現させた。人通りはない、もう一々人目を心配する必要もなかった。
「分かっていて出てきたのか、たまたま出てきたかは知らないが、まあどうでもいい」
 黒巣は微動だにしない。放心したと思い込み、戸網は歩みを進める。
「網なんか一々使うものか、俺の狩りを邪魔した罰だ、アンタはなぶり殺しだ!」
 そう言って黒巣に飛び掛った。杭のような二対の脚が黒巣に迫ったが、それが黒巣に
ぶつかる直前、彼は空中で動きを封じられた。
 何が起こったのか、戸網は理解できなかった。ジタバタもがくが脚はまったく動かない。
「随分と人の巣で暴れてくれたものだな」
 目前に迫った脚のひとつに手をやりながら、地から響くような声で黒巣は喋った。
「お前のような雑魚一匹、見逃してやってもよかったが、気が変わった」
 脚に置いた手に力がこもる。みるみる内に脚はひしゃげていった。
「俺の獲物に手を出したやつは、死ね」
 言い終わるなり、黒巣は戸網の脚を引きちぎった。同時に拘束が解けた戸網は地面に落ちてのた打ち回った。
「ぎぃああ!! あ、ああ、アンタ、同類か! 」
「貴様と一緒にするな」
 何の警戒もなく近づく黒巣に戸網は苦し紛れの糸を放ったが、またしても糸は空中で封じられた。
「くそ、くそおお!」
 戸網はたまらず逃げ出した。

608 名前:ヤミクモ (9/9) ◆dT4VPNA4o6 投稿日:2006/11/20(月) 00:34:19.72 ID:3qvT3Mmk0
 いつの頃からか戸網は自分が普通ではないことに気づいていた。
そして偶然人を殺したときに、心臓の味を知った。それ以来人を襲っては心臓を喰らい、生来の破滅的な欲望を、死体を飾ることで満たしていた。
 自分と同じ化け物が他にもいるなど戸網は思いもしなかった。しかも相手は自分なんかよりはるかに強い、逃げ惑うしかなかった。
 突然、戸網は行き止まりに突き当たった。ここは通りだったはずだが。そんなことを思いながらも、別の道に入ったが、又しても壁に突き当たった。
「逃げても無駄だ」
 何処からともなく声が響いた。慄きながら彼は再び走り出し、そして壁にぶち当たった。今度は完全に行き止まりだ。
 引き返そうとして振り返り彼は絶望した。今走ってきた道は、いつの間にか壁で遮られていた。
「そ、そんな……馬鹿な……」
 四方を壁に囲まれて、へたりそうになりながらも彼は壁を登って逃れようとした。
だがほとんど上らないうちに体はどんどんと重くなりついに動かなくなってしまった。
「クモの巣で動き回ればどうなるか、知らない訳ではあるまい」
いつの間にか目前に黒巣がいた。一瞬浮かんでいるように見えた彼は極細の糸にぶら下がっていた
「クモの巣で動き回れば、ホラ、自分の体をよく見ろ」
 言われるがまま、戸網は唯一動く首をめぐらせ自らの体を見た。その体は、
「ガンジガラメダ」
 それが戸網の聞いた最後の言葉だった。
黒巣の指が少し動くと同時に、全身を拘束していた鋼より硬い糸は彼の体を圧迫するまもなく、一瞬のうちに微塵にしてしまった。
「運が悪かったな、他のならどうでも良かったが」
 誰もいないはずの路地で、まるで警告するように黒巣は語る。
「アレは誰にも渡さん。あの女に手を出すやつは誰であっても許さん」
 誰もいないはずの暗闇はその言葉に何処からともなくざわめいた。
「蝶野は俺の獲物だ」
 そういい残し、黒巣は闇に解けていった。    <終>



BACK−怪人蜘蛛妹 ◆VXDElOORQI  |  INDEXへ  |  NEXT−アラビアの蜘蛛 ◆Awb6SrK3w6(投票選考外作品)