【 怪人蜘蛛妹 】
◆VXDElOORQI




591 名前:怪人蜘蛛妹(1/3) ◆VXDElOORQI 投稿日:2006/11/20(月) 00:16:28.58 ID:HWHuUK8t0
「お兄ちゃーん! 助けてー!」
 仕事を終えくつろいでいると、突然助けを呼び声が妹の部屋から聞こえてきた。
 ちょっとしたことですぐ俺を頼ってくる甘えん坊の妹だが、さっきの叫び声は尋常じゃ
なかった。俺は急いで妹の部屋に向う。
「おい! どうした!」
 扉越しに声をかけると妹はそっと扉を開け、こう言った。
「ク、クモが出たの」
 予想に反して大したことではなかったようだ。
「お兄ちゃん、どうにかしてよぉ」
「まったくお前はいつまで経っても甘えん坊だな」
 妹の頭を少し乱暴に撫でてから俺は妹の部屋に入った。
 ざっと部屋を見回して見てもクモは見当たらない。
 もう部屋の外へ行ってしまったのか、それともまだどこかに隠れているのだろうか。
「もう部屋にはいないみたいだぞ」
 実際はまだどこかに隠れているかもしれないが、そう言ったほうがきっと妹は安心する
だろう。
「待ってよお兄ちゃん。クモはまだこの部屋にいるよ」
 この部屋にいると言われても、見当たらないものは俺にはどうしようもない。
「どこにいるんだ?」
「ここだよ」
 何度、部屋を見渡してもクモの姿は確認出来ない。
「不安なのはわかるが、もうクモはいないんだ。夜も遅いからもうおやすみ」
 そう言って妹の頭をもう一度撫で、妹に背を向け扉へと向かう。
「だからここだって言ってるの!」
 突然、大きな声を上げた妹に驚き振り向こうとした瞬間、俺は糸みたいな物で縛られて
しまった。
 なんとか首を動かし妹のほうを見ると、そこには手のひらから糸を出している妹の姿が
あった。
「……お前は誰だ」
 妹はいつも通りの屈託のない笑みを浮かべている。

592 名前:怪人蜘蛛妹(2/3) ◆VXDElOORQI 投稿日:2006/11/20(月) 00:16:57.73 ID:HWHuUK8t0
「何者って、私は妹だよぉ?」
 手のひらから糸を出している以外は妹そのものに見えた。
「お兄ちゃん。今日も私のお友達殺したでしょ。いい加減、我慢の限界だよ?」
 その言葉を聞いて俺は確信した。
「妹、お前乗っ取られちまったのか」
「うん」
 妹は先ほどからの笑みを崩さず、コクンとうなずいた。
「そうか。なら俺は――」
 体を縛る糸を力任せに引きちぎる。
「お前を殺す」
 言葉が早いか、体が動くのが早いか。勢い良く床を蹴り妹に肉薄する。
「お兄ちゃんに私を殺せるのかなぁ?」
「愚問だな」
 俺はその言葉と同時に渾身の拳を妹の下腹部に叩き込む。いや正確には叩き込もうとし
た。
 下腹部に当たる寸前、妹は両手でとっさに俺の拳をガードしたのだ。
 だがその結果、今妹の両腕は力無く床に転がっている。腕のあった場所からは赤い血が
溢れ出し、床を赤く染めていた。
「次は胸をぶち抜く」
「お兄ちゃんに出来るかなぁ?」
 妹の言葉を無視し再び脚に力を込め床を蹴る。
 もう一度。今度は頭目掛けて拳を伸ばす。
 両腕を失った今、もうガードは出来ない。そして最初にガードをしようとしたところを
見るとは、妹には俺の攻撃を避けるスピードはない。俺の勝ちだ。
 だが、その確信の拳は妹の腕によって止められた。妹の背中からは新たに四本の腕が生
えていた。
「人間の腕は貧弱だけど、この腕は人間の腕とはわけが違うよ。お兄ちゃん」
 妹の笑顔は崩れない。
「さっきまではまだ体が馴染んでなかったけど、今度はそうはいかないよ。お兄ちゃ
ん!」

593 名前:怪人蜘蛛妹(3/3) ◆VXDElOORQI 投稿日:2006/11/20(月) 00:17:21.91 ID:HWHuUK8t0
 先ほどまでとは想像もつかないほどのスピードで攻撃してくる妹。
 なんとか攻撃を避けてはいたものの、妹はどんどんとスピードを増し、そろそろ避ける
のも難しくなってきた。
「いくらお兄ちゃんでも、このスピードからは逃げられないよ!」
「逃げるだと? 俺が絶対に逃げないんだよ。俺の心に正義の炎が燃える続けている限り
はぁッー!」
 俺の目はしっかりと妹を捕らえ、そして右ストレートを妹の胸目掛けて繰り出した。
 拳はガードをしようと胸の前でクロスさせた妹の腕を砕き、そして胸に突き破った。

「お兄ちゃんはやっぱり容赦ないね……」
「言っただろう。胸をぶち抜くと」
 妹は倒れてもなお笑顔を崩さない。
「でも私で終わりじゃないよ。第二第三の妹達がいつかお兄ちゃんを殺すわ」
「そのときは、そいつら全員返り討ちにするだけだ」
「お兄ちゃんらしい……」
 それきり妹が動くことはもうなかった。


 妹は起き上がると不満に満ちた目を俺に向けこう言った。
「お兄ちゃーん。私もう怪人やだよー。針金で作った変な腕もつかないといけないしー」
「わかったわかった。じゃあ次は俺が怪人な」

おしまい



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