【 それは細い糸のような 】
◆InwGZIAUcs




531 名前:それは細い糸のような ◆InwGZIAUcs 投稿日:2006/11/19(日) 23:45:52.80 ID:iz/0a7ZS0
 身を裂く程冷たい風も和らいだ頃、新学期を控える前の生徒達は長期休暇についており、各々その休暇を
謳歌しているに違いない。そんな中、私は学園長の部屋の前に立っていた。私が学園長に呼び出されたのは
他でもない、今期の成績についてだろう。深呼吸をして心の準備をしていると、その部屋の中から学園長の
声が響いてきた。
「お入りなさい?」
 それはもう摂氏零度を下回るような冷声で。私は恐る恐るドアを開け、礼を欠かさず入室する。
「生徒番号百十万四千百六十六番、レイシア・ブレイブス。私があなたを呼び出した理由……解っているわね?」
 それはもう。痛いくらいに自覚していますよぉ。
 私は神妙な面持ちで頷いた。美しい薔薇には刺がある、なんて格言がぴったりお似合いの学園長。
その眼差しは声以上に冷たい。
「レイシア? 今期の成績知りたい?」
「え? ええ、まあ」
 学園長はレイシアと書かれた、つまりは私の成績帳をおもむろに広げ見た。
「魔法の実技は優秀のようね。でも他の実技は目も当てられないわ。そうね……落第かしら?」
 それはもう手加減なしの事実をきっぱり告げる学園長に私は苦い顔をするしかない。数秒の沈黙は、
反省と後悔が具現化したように重く感じられた。
 もうこうなったらもう一度一年生でもなんでもやってやるんだからー!
「嘘」
「へ?」
 相変わらず学園長は真顔。とても冗談を言っているようには見えない……。
「冗談よ。でもまあ確かにこのまま進学させることは出来ないわ」
 まるで心中を読むような学園長の言動に、半笑いをしながら次の言葉を待った。
「進級試験を行うわ」
「は、はい!」
「大蜘蛛の糸を貰ってらっしゃい」
「大蜘蛛の、糸ですか?」
 大蜘蛛の糸と言えば様々な用途に利用されている道具の原材料である。確かスパイダラスと呼ばれる人外の
生き物、つまりはスパイダラスというモンスターから採取することができるという事は、誰もが知っている常識であった。

533 名前:2 投稿日:2006/11/19(日) 23:46:04.55 ID:iz/0a7ZS0
「もちろんお店で買うのは論外だし、誰かに分けて貰うのも無し」
 一瞬頭を掠めた事を指摘される。私は一筋の汗を隠して「そんなことしませんよぉ」と言ってはみたけど、
少し声が裏返っている事も自覚していた。
 あうう、学園長の勘がよすぎて怖くなってきた。
「これに巻き付けてきなさい」
 その言葉と同時に、棒が宙を泳ぎ手元にやってくる。三十センチ程の、何の変哲もない棒だが、
その先っぽには学園長の印鑑が付いていた。
「期間は一週間、それまでに成し遂げること。わかったかしら?」

 進級試験頭の日数を計算をしてみる。
 んーここからスパイダラスさんの住む森まで箒で一日でしょ? ということは往復を考えて、五日間で
なんとかすればいいのよね。うん、なんとかなるなる!
「それにしても大蜘蛛の糸かー」
 失敗するわけにはいかないけど、意外と簡単な今回の試験内容に私は正直ホッとしていた。
筆記試験でないのがありがたい。
 早速、私は一週間分の旅荷物を用意して箒にくくりつけていた。ちょっと危ない箒の乗り方だけど、
学園長も言っていたように、実技にはちょっとした、いや、かなりの自信がある。
 箒に括り付けるのに少し戸惑っていると、同級生のサリーが近寄ってきた。そばかすのよく似合う
三つ編みの女の子で、私と仲が良い。
「あ、いたいた。どこに行くのレイシア?」
「今から大蜘蛛の糸採ってくるの。少し学校空けるんだ」
「そうなの……お茶を誘おうと思ったけど。また今度かしら?」
「うん。なるべく早く帰ってくるつもりよ」
 やっと括り付け終えた私は箒に跨り、サリーに軽くウインクする。
「あらあら、襟が立っているわ。せっかく可愛い魔女服も台無しよ」
 そう言ってサリーは私の服の襟を直し、ついでに髪の毛も整えてくれた。
「うん、可愛いわ。ああ、惚れちゃいそう」
 とてもおとなしくて良い子なんだけど、こんな風にちょっと変な所がある。
「じゃあ行ってくるね! さあ、ぱっぱと終わらせちゃうぞ!」

534 名前:3 投稿日:2006/11/19(日) 23:46:16.48 ID:iz/0a7ZS0
 自分で自分を励ますと、重力から解放された私の身体は箒事宙に舞い、少し冷える空気を裂いて清々しく青い
空を駆け出していく。が、すぐに急ブレーキをすることとなった。
 慌ててサリーの元に飛び降りる。
「あ、あのさ。一番近いスパイダラスの森ってどっちだっけ?」
 その言葉に一抹の不安を覚えたであろうサリーは、苦い笑みを浮かべていた。

「へ? どういうことですか?」
「だから、お前さんに蜘蛛の糸は渡せんと言っているズラ」
 私は寒風のような言葉に棒立ちになってしまった。
 事の顛末を整理してみる。私はサリーに教えて貰ったとおり、順調にスパイダラスの森へとやってきた。
このモンスターは人間と共生関係を持っていて、基本的に人間を拒まないし、人語も話すことが出来る。
早速そこらにいたスパイダラスさんに案内してもらい、大蜘蛛の糸を製造している工場のような場所、
つまりは大樹の穴に来たの……だけれども。
 そう、蜘蛛の糸をせっせと紡いでいたスパイダラスさんから返ってきた答えは期待していたモノではなかったのだ。
「お前さん。大蜘蛛の糸を奉仕物か何かと勘違いしていないズラか?」
 蜘蛛にしてはやたら愛嬌のある丸々とした身体が特徴的で、思わず縫いぐるみのような錯覚に陥るが、
そのスパイダラスさんはやたら現実的な言葉を返してくる。
「その……てっきり来れば貰える物かと」
「話しにならんズラ。普通それに見合う虫を持ってくるものズラ」
 そう言って糸を造る作業へとそのスパイダラスは戻っていこうとした。が、慌てて呼び止める。
「ちょ、ちょっと待って下さい!」
「何だい?」
「その虫ってどこにいるんですか?」
「黄金虫って虫ズラ。オイラ達の生活範囲内にはいない高級食ズラ。糸を欲しがる人間は必ずそれを
用意してくるズラ」
 黄金虫位見たことはあるけど……どこに生息しているかなんてさっぱり解らないよ。
「あ、あの、他にその糸を頂ける手段って無いんですか?」
 ここで貰えなかったら進級できないもん! 引き下がるわけにはいかない。

535 名前:4 投稿日:2006/11/19(日) 23:46:26.66 ID:iz/0a7ZS0
「そうズラなー……よし! こうするズラ。最近オイラ達は雀人(すずめびと)の被害に困っているズラ。
それを解決してくれたなら糸をいくらでもあげるズラ」
「す、雀人?」
 それは雀と人間を足して二で割ったようなモンスターである。身体は人間より一回り大きいが、
当然のように彼らも人語を話す事が出来る。
「そうだ。それができないなら残念だけど糸は渡せないズラ」
「その依頼、受けさせて下さい!」
「ほんとにやるズラか? 危険ズラよ?」
 自分は魔法使いで自信もあると告げると、そのスパイダラスさんは詳しい説明をし始めたてくれた。

 なんだか少し大変なことになってきたかも……。
 工場にいたスパイダラス、実はこの群れの長で、モクさんというらしい。彼によると、雀人はたまにやってきて
スパイダラスをさらっていくらしい。今まで雀人に捕食されたことのないスパイダラス達は、きっと彼らの嗜好が
変わっただの、いやいやハンティングの練習をし始めたなど、様々な噂を流していた。そんな雀人を追っ払う、
もしくは捕まえるのが私の仕事なんだけど……こういう時に限ってなかなか雀人の襲来は無い。そんな事ない
方が一番いいには違いないのだけれど。
 そんなことを思いながら、人もゆうに通れる幅を持つ大樹の枝を歩いていた。大樹のはいくつもの穴が空いており、
そこでスパイダラスさんは生活を営んでいる。彼女も客人として、その一室を借りていた。
「それにしても良い眺め」
 一際高い大樹からは、このスパイダラスの森を一望できた。とても素晴らしい景色。しかし今日で学校を
経って五日目……そろそろ雀人さんが来ないことには、本当に試験に落ちちゃうよー。
 もうこうなったらモクさんに前借りするしか、などと考えていると、スパイダラス達の警報と思われる
サイレンが鳴り響いた。
「キューーーー!」
「キュキュキュキューー!」
 慌てて外に出ると、サイレントと思っていた音は、スパイダラス達の鳴き声であった。彼らと話していると、
人語は人と話す時だけに使うという事をついつい忘れてしまう。
 そんなスパイダラス達は、慌てて巣の中へと戻っていった。

536 名前:5 投稿日:2006/11/19(日) 23:46:38.15 ID:iz/0a7ZS0
「ちょ、ちょっと待って!」
 一匹のスパイダラスさんを捕まえて事情を聞く。
「何があったの!」
「雀人だよ雀人!」
 私の問いにそれだけ叫ぶと彼は樹中へと消え去っていった。
 ……ついに来たのね。
 一瞬弾んだ心臓を落ち着かせ、常備している箒に跨った。木々の隙間に一瞬見えた影を目標に、
私は空へと舞い上がった。

 空の主とも呼ばれる雀人さんは、狙いを定めて急降下するタイミングを伺っていた。
 でもそうはさせないよ!
「雷様の一撃――ライトニングアロー!」
 雷撃の呪文を雀人さんの眼前に走らせる。その牽制に驚いた彼は、こっちを向いて目を細めた。
「邪魔するなピヨ!」
 威圧的な声にちょっと愛嬌を感じてしまう。でも今はそんな場合じゃない。
「スパイダラスさん達を狙うのは止めてほしいの」
「人間には関係ない事ピヨ!」
 雀人さんは人間でいう腕の位置にある羽翼を大きく広げると、鋭い羽を飛ばした。
 あれに刺さったら多分痛いわよね。
 雨のように降りかかる羽を避けながら魔法を繰り出す。
「雷様の一撃――ライトニングアロー!」
 手のひらから迸る雷の光を神速で避ける雀人さんは、まさに空の主と呼ぶに相応しい機動力と言える。
威力は低いが広範囲攻撃の羽と、威力は高い低範囲攻撃の雷矢。素早い雀人相手に、その相性はよいとは言えない。
 うーん、広範囲の魔法だと森に被害が出ちゃうし……一番早い雷矢でも当たらないとなると、どうしたものだろう?
 策を練る間にも、羽は振ってくる。少しずつだけど、服にも傷が増えていた。
「さっさとどっか行くピヨ!」
 雀人が羽をばたつかせて起こした風は、まさにあっち行けと言わんばかりに強い風であった。しかしその時、
懐に何か棒の様な物が入っている事に気が付く。

537 名前:6 投稿日:2006/11/19(日) 23:46:50.91 ID:iz/0a7ZS0
 棒? そうね……良い事思いついた!
 なんとか風から逃れ、雀人の上に箒を走らせる。そして棒を彼に目掛けてぶん投げた。
「その物は意のままに――フロート!」
 棒を難なく避ける雀人を見越して、物を操作する呪文を唱えた。コントロールされた棒は弧を描き、
重力を無視して再び雀人に突撃する。が、その棒を疎ましく思ったのか、雀人は呆気なく棒をはたき落とした。
 でも、それだけで事は足りた。
「雷様の一撃――ライトニングアロー」
 一瞬止まった雀人。彼は棒が囮だという事に気付いていなかったのだ。命中した閃光は放電し雀人さんは落下していく。
「あ、いけない!」
 このまま落下したら死んじゃうよね。
「フロート!」
 間一髪! 私の魔法はなんとか雀人さんを捉える事ができた。

 ここは私の客室。ぐるぐる巻きにされた雀人と、モクさんをはじめとしたたくさんのスパイダラスが、
野次馬のように集まっていた。
「で、なんでスパイダラスをさらっていたの?」
 質問に答える気配のない雀人。なんだかちょっと腹立ってきた。
「もう! 答えないと焼き鳥にしちゃうよ!」
 手の平に光球を灯して脅しをかけてみる。すると流石に雀人が口を開いた。
「わ、わわかったピヨ! 話すから焼き鳥は勘弁ピヨ」
 初めからそうすればいいの!
「私たちは最近気付いた事があったピヨ。それは大蜘蛛の糸が我々の巣造りにとても適した素材だという事ピヨ。
だから連れて行って糸を吐いて貰っていたピヨ」
「じゃあ連れて行ったスパイダラスは無事なの?」
「無事ピヨ。でも逃げ出すスパイダラスも多いピヨから、その度新しいスパイダラスを捕まえていたピヨ」
 その言葉に、周りのスパイダラスが雀人を罵倒する野次を飛ばした。それは伝染するように広がり、
その場は騒然となった。
 まあ無理はないと思うけど、このままじゃ……。ひょっとしたら種族間の戦争じみた争いが起きて
しまうかもしれない。私は頭を悩ませたが、その時名案が頭に閃いた。

538 名前:7 投稿日:2006/11/19(日) 23:47:02.05 ID:iz/0a7ZS0
「ちょっと皆静かにして! 私に一つ提案があるの!」
 静かになるスパイダラス達は私に注目した。雀人も私の方を見る。
「雀人さん。まず連れ去ったスパイダラスを返す事と、皆に謝罪を」
「……悪かったピヨ。ごめんピヨ。反省ピヨ」
 こちらも意外と素直。知性を持つモンスターは人より素直な性格の持ち主が多いと聞くが、
それを目の当たりした気分だった。
「そこで提案です。雀人さんはハンティングは得意なのよね?」
「ピヨ? まあ何かを捕まえる事は得意ピヨ」
「なら、黄金虫を捕まえる事もできるかな?」
「虫は専門ピヨ。造作も無いピヨ」
 満足して頷く私の様子を見守っていたモクさんが口を開いた。
「レイシア殿。まさか――」
「駄目かしら? 雀人さんが捕まえてくる黄金虫と交換で糸を分けてあげたらいいかなと思うんだけど?」
「それは構わないズラが……」
 モクさんの不安は解る。いきなり信用はできないよね。
「雀人さん。黄金虫と糸を交換するって約束できますよね?」
 私は雀人さんに確認を取る。
「むしろそれであればこちらからお願いしたいピヨ! さらったスパイダラス達もすぐに返すピヨ! 
我々雀人だって悪戯に敵は増やしたくないピヨ!」
 何だか可哀想になるくらい、雀人は縮こまって弁明をしている。
「……モクさん。信じてあげよ?」
「うん、解ったズラ。皆もいいズラ?」
 モクさんは周りのスパイダラスに確認をとると皆も一様に頷いた。
 雀人さんの縄は解かれモクさんと雀人さんが握手をすると、周りにいたスパイダラス達のぽこぽこという
可愛い音の拍手がわいた。
「ありがとうピヨ。皆にも伝えてくるピヨ!」
 そう言って雀人さんは飛び立っていった。
 ふう、これで一件落着かな?

90 名前: ◆InwGZIAUcs 投稿日:06/11/19 23:51:43 ID:PtTq9e36
 私が本来の目的も忘れて達成感に浸っていると、モクさんが足をちょんちょんと突いた。
「レイシア殿、今回はお世話になったズラ。明日にでも糸を紡ぐズラ。工場に来るズラ」
「あ、そうだった! ありがとうございます!」
 こうして私は無事進級試験を終える……筈だったのだけど。

「というわけで、棒を無くしていまし――ぶっ!」
 言葉の代わりに大蜘蛛の糸が巻き付いた棒が飛んできた。学園長が投げたその棒は、躊躇うことなく私の
顔面にぶつかり転がった。学園に戻った私は、早速学園長に報告しに来たのである。
「生徒番号百十万四千百六十六番、レイシア・ブレイブス? 私はあの棒に魔法を掛けておきました。
スパイダラス以外の者が糸を巻けばすぐに切れてしまうように。……ハァ、私はあの棒に糸を巻いてきて
貰いなさいと言いった記憶があるのですが?」
「は、はい。私にもご、ございます」
 そう、雀人さんと戦った時に使った棒、あれは学園長の渡した棒であった。涙目の私をよそに学園長は続ける。
「大体! あらかじめ参考書の一つでも調べて、黄金虫を用意しておけばこんな事にはならなかったのではなくて?」
 はい、グウの音もでません。
「まあ、確かにその糸は現地で巻いて貰った物に違いないから今回は合格としておきましょう」
「え? なんで解るんですか?」
「その枝はスパイダラス達が好んで使う樹の枝よ。更に言うなら、その独特の巻き方は店で売られる前の状態。
つまりはスパイダラスに直接捲いてもらったという何よりの証拠」
 まるで推理でもするような言葉に思わず感心する。
「へえー、凄いですね学園長」
「あ、の、ね? 一年生で履修する範囲の知識よ」
 その威圧的な視線はきっと人を殺せるに違いない。まさに蛇に睨まれた蛙状態の固私に、学園長は椅子ごと
背を向け呟いた。
「もういいわ、来期頑張りなさい。あなたにお似合いのその糸を持って行きなさい」
「はい! し、失礼します」
 一礼すると、私は逃げるようにその場を後にした。

「と、いうわけだったのよ」

91 名前:9 ◆InwGZIAUcs 投稿日:06/11/19 23:52:09 ID:PtTq9e36
 その次の日、私とサリーは中庭のベンチとテーブルでお茶を楽しんでいた。もちろん話題は今回の
進級試験の事についてである。
「あらあらレイシア、それは大変だったわね。でも無事進級できてよかったわ」
 上品に笑うサリーは、心底嬉しそうだった。自然と私も笑みがこぼれる。
 それにしても気になる事があった。
「なんでまた大蜘蛛の糸だったんだろう?」
 ちょっと引っかかっていた試験内容。通例なら筆記試験を行う場合がほとんどである。
「まあ、学園長の気まぐれかな?」
 そんなたわいない結論をだした私をじっと見ていたサリーは、思い出したかのように呟いた。
「……学園長、その糸のことあなたにお似合いって言ってたのよね? ごめんね、私の推論だけど、
それって多分あなたの進級がその大蜘蛛の糸程度の細さで繋がっている、とでも言いたっかたんじゃ……なんてね。
深読みしすぎかしら?」
「はは、サリーそれ笑えないよ……」
 なんとなく核心を突いていそうなサリーの言葉に、冷や汗を感じながら、私は味のしない紅茶を飲み干した。
この時ばかりは妙に勘の良いサリーが恨めしい。
「来期頑張ればいいじゃない? 私もお手伝いするわ」
 成績の良いサリーは確かに心強い。
「そうね、来年もっと細い物でも頼まれたりしたら敵わないもんね」
 そんな冗談をかわしながら、私たちの午後はすぎていく。


 レイシアは知らなかった。雀人の件の功績が、モクさんから手紙で学園に伝わっていた事、
もしその功績がなければ棒を無くした彼女は落第していた事、そしてまさにそれは蜘蛛の糸の綱渡りであった事を……。

終わり



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