【 ハンター 】
◆daFVkGT71A




507 名前:ハンター ◆daFVkGT71A 投稿日:2006/11/19(日) 23:28:09.64 ID:9GcysuMB0
どうやら奴は逃げ切ったようだった。大きく息をつき、周囲を見回している。
「馬鹿な奴だ」
あいつから逃れたことで完全に安心しきっている。奴は普段の警戒心を解いていた。
ゆっくりと近づく。
まだ気づいていない。
「今日こそは絶対に逃がさない」
実のところ、最近はよく奴に逃げられていた。もうそろそろ歳か。そう思っていたところに舞い込んできたチャンス。掴まない手はない。
息を殺して慎重に進む。いつもなら大体このぐらいの距離で奴に気づかれる。老体に鞭を打ち、追い駆け回さなければならない羽目になる。
だが今回は違った。
やはりさっきのが堪えているのか全く気づいていない。
「ちっ!」
奴が俺の反対側に向かって動き出した。一瞬最悪のケースも考えたが、どうやらまだ大丈夫。気づいていないようだ。
しかしそれでも面倒なことに変わりはない。時間が経てば経つほど奴は体力を回復し、警戒心も強めていくだろう。そうなったが最後、今の俺では絶対に捕まえられない。
現に動き出したということはそれだけ体力を回復したということでもある。
少し急ぐことにした。焦らないように、それでも冷静に、素早く。そう言い聞かせながら追いかける。

どれくらい歩いただろうか。奴はまったく止まる気配を見せず、歩き続けている。俺はもうかなり疲労していた。
(クソッ! こんなことならもっと早く勝負を仕掛けるべきだった!)
心の中で悪態をつく。俺は既にタイミングを失っている。このままではいつか気づかれていつものように逃げられるのが落ちだろう。
だからといってこのまま引き下がれるわけがない。俺は無駄に体力を使っていた。
(このままじゃ状況はさらに悪くなるだけだ。もう遅いかもしれないが勝負をかけよう)
そう思い、奴に向かって走り出そうとしたとき、突如奴の動きが素早くなった。
(気づかれたか!? ……いや、十分に距離はとってある。気づかれている様子もない)
奴はまるで何かに誘われるように一直線に走り出した。後ろに、またしてもタイミングを逃した俺が続く。
しばらく進むと暗い家が建っていた。奴は迷うことなく入っていく。
(ここが奴の住処か?)
そうして俺も奴を追い、中へ入った。

「床がネバネバで動けねーーーーーーーーーーーー!!!」
俺と奴の絶叫が家の中に響き渡った。



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