24 :NO.06 CANDY (1/4) ◇DzHpA/9hyM:06/11/05 19:46:10 ID:NrvaQBzG
美奈は私の姿を見つけてベッドの上で怒って見せた。
「お母さんおそいっ!」
パジャマ姿の娘はそこの場所にすごく似合っていて逆にそれが私を奇妙な
気持ちにさせた。
ベッドの前に設置してある有料テレビでは動物たちの優雅な映像が映し出されて
いる。どうやら相当暇をもてあましていたようだ。私は軽く申し訳ない気持ちになった。
「病院は暇なんだから早く来てほしいんだ」
「ごめんごめん。今日、近くのスーパーが凄く安かったの。物が無くなるかもしれないか
ら先に行っちゃおうと思って。ほら、いつも病院から帰るときは遅くなっちゃうでしょ?だ
から、ちょっとでも長く美奈といたくて、それで遅れたのよ」
美奈はすでに私が持ってきたレジ袋をあさっている。
どこまで聞いていたのか解らないが、機嫌がよくなったのならそれでいい。
美奈は取り出したキャンディを口に放り込んで包みを器用にゴミ箱へ投げ捨てた。
「お母さん?」
「ん…なに?」
「これ。このキャンディいつも1個づつ持ってくるじゃない?これなに?貰い物?」
「うん。そういうの作る知り合いがいてね。いつもここに来る途中に会うんだ。そのとき美
奈の為にって1個づつくれるの」
「ほぇ。なるほど。」
ちょうどその時、看護婦がドアを開けた。昼ご飯の時間だからだ。それをみて美奈は口
の中のキャンディを噛み砕いた。
「あ、お母様。今日もいらっしゃってたんですね。」
看護婦はそう言って押していた台から一人分の昼食を取り出した。
「お邪魔してます。顔を見せないとと美奈がうるさいもので毎日来るようにしてるんですよ」
25 :NO.06 CANDY (2/4) ◇DzHpA/9hyM:06/11/05 19:46:22 ID:NrvaQBzG
美奈はその間にベッドに設置されている机を自分の方へ近づけた。
そうですか、と看護婦は小さく微笑んで美奈のほうを向いた。
「美奈ちゃんは毎日お母さんに会えていいね。お母さん好き?」
「うんっ!」
美奈は無邪気な笑顔で答えた。こういう時、私は母として幸せな気分になる。
「じゃあ、美奈ちゃん。またね。お母様、ごゆっくりと」
部屋から出て行く看護婦に小さく手を振った。
美奈は皿の上の鮭を突付いていた。病院では魚がよく出るせいか骨を取るのが
うまくなったように見える。
「お母さん。さっきのキャンディ、その人の手作りなんだよね?」
「ん?そうだけどどうかした?」
「中に入ってるシュワシュワがシュワシュワして無いから、そう言っておいてほしいんだ」
中身の粉末の刺激が少ないから改良しろ。という事だろう。
「わかった。言っておくわ。美味しくないと意味ないもんね」
「うん。ありがとう」
そういって美奈はまた食事に戻った。もともと食事中は会話をしないように言って
いたので、美奈はもくもくと食べ続けた。
私は外を見た。敷地内で遊ぶ子供たちが見える。ゴールポストもないのにサッカーをしているらしい。
26 :NO.06 CANDY (3/4) ◇DzHpA/9hyM:06/11/05 19:46:33 ID:NrvaQBzG
「美奈ちゃんのお母様来ていますか?」
そう言ってドアを開いたのは美奈の主治医だ。私に用があるらしい。
私は美奈に合図をして部屋を出た。外では主治医が深刻そうな顔をしていた
「どうしました?先生」
「美奈ちゃんの事なんですが、」
私は主治医の顔を見て息を呑んだ。
「美奈ちゃん。明日で退院できます。えと、それとですね…」
翌日、いつもの通りその部屋に行くと見慣れたパジャマ姿が叫んだ。
「お母さん遅いっ!」
昨日より1時間早く来た私に美奈はやはりそう怒った。相当暇なのだろう。きっ
と耐え切れないくらいに。それも今日で終わるのだ。
「美奈。昨日先生に聞いたんだけど、今日、退院していいらしいよ」
「うっそ!?って昨日聞いたんなら昨日言ってよ!」
「驚かそうと思ってね。」
美奈は元気にベッドの上で飛び跳ねた。
ひとしきり喜んだあと、私が持ってきていた袋に気付いて中身を覗いた。
「おお。今日はあのキャンディが3個も入ってる。退院祝い?」
私は頷いた。
27 :NO.06 CANDY (4/4完) ◇DzHpA/9hyM:06/11/05 19:46:46 ID:NrvaQBzG
「これからも毎日3個づつくれるそうよ」
嬉しいような嬉しくないような顔を見せた美奈はすばやく封を開けて
ひとつを口に入れボリボリと噛んだ。
「ううぅ。シュワシュワが改善されてない!この粉さえなかったら美味
しいのに!」
美奈はくやしそうに指をぱちんと鳴らした。
「ここを出たら真っ先にその人に会いに行こうよ。私が文句言ってやる!」
その人と美奈を会わせるわけには行かない。私は胸が痛くなって顔を伏せ
た。それと同時に頬を涙がつたった
それに気付いた美奈は私の顔を覗いた。
「お母さん。どうしたの?私が退院できて嬉しくないの?」
「馬鹿ね。嬉しくて泣いてるのよ」
「本当に?」
「本当よ。それよりも今日、家に帰ったら美奈の好きなハンバーグ作るからね。」
「やった!嬉しい!お母さん大好き!」
喜ぶ美奈に言えるはずがなかった。
毎日、主治医から渡される飲み薬入りキャンディを1日に5個も10個も服
用しなくちゃいけない日が来てしまうなんて事は。
おあり