【 プリン 】
◆VXDElOORQI




67 名前:No.13 プリン(1/5) ◇VXDElOORQI 投稿日:06/10/30 00:40:59 ID:JOPAXJ7C
「お兄ちゃん! 私のプリン食べたでしょ!」
 俺が部屋でくつろいでいると、妹が怒鳴り込んできた。
「食った。うまかった。ごちそうさま」
「もう! いい加減にしてよ! いつもいつも私のおやつ食べちゃうんだか
ら!」
 妹はそう言って近づいて来ると寝そべっていた俺の腹に蹴りを入れてきた。
「痛いじゃないか」
「ベー! 勝手にプリン食べた罰ですよーっだ!」
 子憎たらしく舌を出し、俺を馬鹿にする妹にちょっとイラッと来たが、ここは
我慢だ。ここで怒っては兄としての威厳が失われてしまう。そんなものがあるの
かは疑問だが。
「はっはっは。プリンくらいでそんなに怒るんじゃない。今度買ってきてやるか
ら」
 年上の余裕とやらを撒き散らしつつ妹の頭をクシャクシャと撫でる。これで兄
の威厳もばっちり守ったぞ。多分。
 俺がいい気分で妹の頭を撫でていると、妹はその手を力任せに振り払った。
「そんなこと言っていっつも買ってくれないじゃない! バカ!」
 すると今度は渾身の右ストレートを俺の頬に向けて繰り出してきた。俺はそれ
を華麗に避ける――ことが出来なかった。
「グッ」
 俺は思わずうめき声を出し膝をついた。
 効いた。今のは効いた。どこに効いたのかと言えば俺の堪忍袋に効いた。この
一撃で完全に俺の堪忍袋の容量をオーバーした。
「やってくれるじゃないの」
 俺はゆっくりと立ち上がる。
「お兄ちゃんが勝手に私のプリン食べるのがいけないんでしょ!」


68 名前:No.13 プリン(2/5) ◇VXDElOORQI 投稿日:06/10/30 00:41:20 ID:JOPAXJ7C
「だから買ってやるって言っただろうが!」
 言うが早いか、手を出すのが早いか。俺は妹の腹に向かって拳を突き出した。
妹はその拳を後ろ足を引き体を横にずらして避けると、その勢いのまま体を回転
させ俺の側頭部に裏拳を叩き込んできた。
 それをまともに喰らい、思わずよろける。
「私に勝てると思ってるの? 今まで一回も私に勝ったことないじゃない」
 余裕の笑みを浮かべた俺をあざ笑う妹。
「今なら許してあげる。だから早くプリン買ってきて」
「お断りだ」
「え? なんだって? 聞こえないよ」
 妹は嫌味たらしく耳に手を当てて聞き返してくる。
「お断りだって言ったんだ」
「そう。ならしょうがないね」
 地を蹴る音がした瞬間、妹の掌底が腹に直撃していた。肺から空気が無くなる
のが自分でもわかる。思わず崩れ落ち膝をつくが、妹の攻撃は止まらない。崩れ
落ちた俺の側頭部に容赦なく回し蹴りが迫る。急いでガードしようとするも体が
思うように動いてくれない。蹴りは直撃し、俺は壁際まで追い詰められた。
「とどめだよ。お兄ちゃん」
 そう言うと妹は飛び上がり、一直線に俺に向かってきた。妹の十八番のとび蹴
りだ。
(今だ)
 俺は素早く体を起すと妹の攻撃をかわす。
「まだ動けたんだ。少しは成長したんだね」
 綺麗に着地しこちらに振り向いた妹は驚きの色を顔一面に表していた。
 それもそうだ。俺の手には妹のパンツが握られているのだから。さっきまで妹
が履いていたパンツが。


69 名前:No.13 プリン(3/5) ◇VXDElOORQI 投稿日:06/10/30 00:41:39 ID:JOPAXJ7C
「え? え? あれ? なんで? なんで! なんでお兄ちゃんが私のパンツ持
ってるの!」
「お前がとび蹴りをするために飛び上がったときに頂いた」
 そう。妹が俺にとどめの一撃を浴びせようと飛び上がった瞬間、俺は素早く妹
のパンツをかすめ取ったのだ。片足でも地面に足がついていては出来ない。だか
ら妹のフィニッシュブロー、とび蹴りをする瞬間を待っていたのだ。
「お前こんな可愛い縞々パンツ履いてたのか」
「返してよ!」
 妹は再び俺に飛び蹴りを食らわせようと飛ぶ体勢に入った。
「いいのか? そんなことして? お前今パンツ履いてないんだぞ?」
 そう言うと妹の動きがピタっと止まる。妹は今、スカート。しかもパンツを履
いていない。そんな状態で激しく動き回ったり、ましてや飛び上がったりしたら
どうなるか妹にもわかったようだ。
「お兄ちゃんの卑怯者! 変態!」
 妹はスカートを押さえ涙目で俺のことを睨んでいる。形勢逆転だ。
「降参するか?」
「降参なんてしないもん!」
 この状況になってもまだ強気の妹。ちょっと懲らしめてやるか。
「このパンツどうするかな。そういやお前のこと可愛い可愛いって連呼してたや
つがいたな。そいつ売るかな」
「やめて! お兄ちゃん! 降参する! 降参するからもうやめてよ!」
 妹はペタリと座り込むと泣きながら俺に懇願してくる。やっと負けを認めた
か。
 いいね。このシチュエーション。と、言いたいところだが、流石にやりすぎた
な。反省。どうにかして謝らないと。どうしたもんか。
 考えること数秒。この手でいくか。というかこの手しか思いつかないから、


70 名前:No.13 プリン(4/5) ◇VXDElOORQI 投稿日:06/10/30 00:42:00 ID:JOPAXJ7C
これを実行するしかない。
「いいか、俺が戻ってくるまでそこを動くなよ。動いたらどうなるか。わかる
な?」
 妹にそう指示すると泣きじゃくりながらも首をコクコクと縦に振った。
 それを確認した俺は部屋を後にした。


 しばらくして部屋に戻ってくると妹は言い付けどおり部屋で待っていた。が、
泣き疲れたのか。妹は部屋の真ん中で体を猫のように丸くして眠っていた。
「おい、起きろ」
 俺は妹の頬のペチペチと叩いて起す。
「ん、んにゃ? あ、おにいちゃん」
 本当に猫みたいなやつだな。
「これ、返すよ」
 パンツを差し出すと妹はものすごい勢いでそれを奪い返した。そしてキッと俺
のことを睨んできた。
「あと、これやるよ」
 俺はコンビニの袋を妹に差し出す。妹は警戒しながらも俺が差し出した袋を受
け取った。そしておそるおそると言った感じで中を覗き込む。
「あ……プリンだ」
「その。あれだ。勝手に食って悪かったな。それで勘弁してくれ。な?」
 もっとちゃんと謝るつもりだったんだが、いざとなるとどうしてもこんな謝り
かたしか出来ない自分が情けない。
 妹はなにも言わずにただじっとプリンを見つめている。
 やっぱこれくらいじゃ許してもらえないか。あんなに泣かせちゃったわけだ
し。やっぱやりすぎだったよなぁ。


71 名前:No.13 プリン(5/5) ◇VXDElOORQI 投稿日:06/10/30 00:42:19 ID:JOPAXJ7C
「お兄ちゃん」
 憂鬱な気分になりながら部屋を出ようとすると妹が呼び止めてきた。
「ん?」
 その声で振り返るとそこには満面の笑みで、俺に向かって飛びついてくる妹の
姿があった。
「だーい好き!」

おしまい



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