【 神薬と霊薬と恋の病と 】
◆InwGZIAUcs




63 名前:神薬と霊薬と恋の病と1 ◆InwGZIAUcs 投稿日:佐賀暦2006年,2006/10/23(佐賀県民) 23:53:23.06 ID:EilG3WXw0
「やっときたかい。待ったぜ主(あるじ)様」
 半永久的に光をともす橙色の魔法の小さな灯り。それ以外に光源はなくその部屋は仄暗い。
「しかし随分小さなご主人だぜ」
「……」
 世界でも有数の険しさと、人間を敵視する魔物が住まう岩の大山。それは、その山頂に岩をくり抜いて造られた
祠での出来事だった。一人で喋っているのは出口の狭い石壷。さらにその表面には、彫られたような、
顔に見える模様があった。
 黙って聞いているのは、その壷の言うとおり一人の少女であった。しかし、その少女に外見上十四、五歳に
伴う仕草などは全くみられない。ただ無表情に壷を見つめているだけである。だが壷は理解をしていた。少女が
この山を一人で登り切ることの出来る、極めて強力な魔法使いであると。
「霊薬ネクタリス?」
「違う。俺は霊薬エリクサリスだ」
 彼女は一言、壷に「ありがとう」と告げ、踵を返し祠から去ろうとした。が、それは俊敏に動いた壷によって阻止される。
「ちょっと待ってくれ! それはねえよ」
 ぷかぷか浮いた壷は、彼女の進行方向を遮ると、その体を揺らしながら抗議をする。魔法を掛けられた道具が
意志を持ち動くのは珍しい事ではあったが、無いことでは無いため、彼女も驚くことはない。
「なあ! 嬢ちゃんは俺を発見した。もう俺の主だ。そう決まっている。つまり俺のご主人様としてここから出してくれよ。
こんな狭くて暗くて寂しい所にはもういたくないんだ……」
 ぶっきらぼうな態度も、いつの間にか萎れた花のように縮こまっていた。そんな壷を彼女は手に取る。
「わかった。ついてくるといい」
その言葉がよほど嬉しかったのか、壷は地球の周りをくるくる飛んでいる月のように、彼女の周りを飛び回る。
「嬢ちゃんよろしくな! あと、名前は何て言うんだい? 俺は霊薬エリクサリスって名前が一応あるらしいが、
そんなもの名前だと思っちゃいない。そりゃあ肩書きだ。嬢ちゃんが俺の名前を決めてくれるとありがたいというか
ご主人様に決めて貰おうと思って――」
 弾丸とも言える彼の言葉の波を割って治めるように、彼女は自分の名前を口にした。
「私はリース」

65 名前:2 投稿日:佐賀暦2006年,2006/10/23(佐賀県民) 23:53:54.13 ID:EilG3WXw0
 そして、と、リースは飛び回る壷をそっと手の平におさめた。
「あなたの名はレオス、私の父の名」

 霊薬エリクサリス。その名と双肩をなすのが霊薬ネクタリス。二つの薬は様々な神話や伝説に登場し、その知名度は
この世界において知らぬ者などいないと言える。大抵、物語の中で二つの霊薬は、意志を持ち魔法を行使して
主(あるじ)を癒す。エリクサリスは肉体の傷を、ネクタリスは精神の傷とあらゆる毒の症状を癒した。そして二つの霊薬
を混ぜ合わせた時、神薬ソーマが完成し、死者をも蘇らせるという。
 そんな知識など、当然リースも知っていた。生きる目的も、その中にある。


 彼らが出会って一年と少しが経とうとしていた。
「なあ、リース。まだ霊薬ネクタリス探すのか?」
 霊薬エリクサリス、つまりはレオスがリースに話しかけた。様々な所を見て回れるレオスに不満など無いが、
見つける目的など知らされていない彼は、そろそろ霊薬探しに飽きてきた所だった。
「探す」
 レオスは、またなんでだよと聞こうと思ったが、その前にリースが口を開いた。
「私は、私を探している」
 そういって、今日も情報収集の為、彼女は新たに訪れたこの町一番の酒場へと足を踏み入れた。


 安い宿屋の一室。頭痛に苦痛の声を漏らすリースがシーツにくるまっていた。
「大丈夫かよリース……」
 レオスは何もすることができず、ただリースの周りをくるくると回っていた。情報収集の為に酒場を訪れた彼女は、
その場にいた荒くれ共に可愛いだの綺麗だのと持ち上げられ、半ば無理矢理酒を呑まされたのだ。回る視界の中
レオスに支えられ、リースは宿を目指した。その時、宿から黒い影も動いたのだが、彼らは知る由もない。
 酒にめっぽう弱い自分をこの時初めて知ったリース、さらに二日酔いというさらなる苦痛が、

66 名前:3 投稿日:佐賀暦2006年,2006/10/23(佐賀県民) 23:54:59.67 ID:EilG3WXw0
二度とお酒を呑むまいという思いに拍車を掛けていた。
 そして、夢も見た。灼熱の夢を、運命がの歯車が狂いだしたあの日を。村は焼かれ滅びた。伝説の物語の
主人公のような、つまりは青年時代二つの霊薬を手にする冒険をした偉大な父と共に……。

 幼いリースは焼け付く家の中、魔法によって拘束尋問される父の姿を影から見ていた。
「霊薬のありかを教えたまえ」
 黒いローブとフードで顔まで隠した男。それがリースの父、レオスを拘束していた。目の水分を奪う炎よりも、
リース眼には、その黒い姿の方が何倍も心に焼き付いていた。
「闇導師か……」
 父レオスが発した言葉、闇導師。その存在は霊薬の伝説に付きまとう。神薬ソーマをあの手この手で奪おうとする
導師のことである。その時のリースには、彼が何者なのか全く理解していなかった。理解していたとしても、
実在する事を信じている人などそうはいない。
 そんな中、リースは駆け出し、父の前で両手を上げて叫ぶ。
「お父さんをいじめないで!」
 そんなリースを見た闇導師はローブの奥に潜む眼を光らせた。
「な、リース! 早く逃げなさい!」
「ふん、お前は用済みだ」
 それだけ言うと、リースの背後で父レオスは炎上し……炭となった。
 闇導師の光る眼がリースに迫る。と、その時、リースの中で何かがはじけ飛んだ。
意識は遠ざかっていくのに、闇導師の声だけはハッキリと脳に刻まれていく。
「お前の感情は封じた。霊薬ネクタリスによってのみ封印が解かれる。霊薬ネクタリスを探せ。霊薬ネクタリスを探せ……」

 頭に響く闇導師の声でリースは目が覚めた。頬は少し濡れていた。枕元にはレオスが心配そうにのぞき込んでいる。
「大丈夫かリース?」
 二日酔いによる頭痛も治っており、行動するのに支障は無さそうである。「大丈夫」、そう言ってリースは昨夜の事を
思い出す。お酒を呑まされはしたが、今回は有力な情報も手に入れることができた。

68 名前:4 投稿日:佐賀暦2006年,2006/10/23(佐賀県民) 23:56:13.53 ID:EilG3WXw0
メモした紙を取り出す。「霊山マルドゥス」メモにはそう書かれていた。
 

 霊薬を祭る山はそれこそ五万とあった。しかし、それはあながち全てが嘘というわけではない。霊薬は一度その液体が
空になれば、意志も枯れただの石壷となる。すると、五万とある霊山の一つにまたあらたな霊薬が生まれ、主を待つ。
というサイクルがこの世界で繰り返されていた。そして今リースの向っているマルドゥス山は、数十年も前に山頂が
一瞬激しく光ったという。それが霊薬の誕生を示すかどうかは解らないが、そこに足を向けるだけの価値はある。
しかし、有力と判断したのは父レオスが冒険を終えた頃に一致したからである。
 リースは魔法を駆使しながら山を登る。通常どうやっても普通なら通れない場所も、魔法があればなんとか通ることが
出来た。もちろん襲いかかる魔物も多い。
「リース! 後ろだ!」
 レオスの声。リースは振り向く間に高速で魔法を行使する為の詠唱を終え、彼女が杖を後ろにかざした瞬間には、
その杖先から紫電が走り魔物を焦がした。
 このようにサポートするレオスは、大いに活躍した。この一年、レオスはリースの相棒のように冒険してきたのだ。
彼は今のように魔物が近づけば危険を知らせ、怪我を負えば魔法でその傷を癒した。
 登山道はほぼ洞窟になっていたこの山、頂付近まで上り詰めたリース達の目の前に大きな空洞が現れた。
そこはとても広く開けており、こういった場所に大抵住むものがいる。ドラゴンである。しかしそこにあるのは砕けた壁、
血、動かない漆黒のドラゴン……そのドラゴンを見下ろす黒いローブを着込んだ人間だった。
「早く来たな……この山の主であるドラゴンを殺し、先に霊薬を手に入れてからお前の霊薬を頂くつもりだったのだが」
 リースは忘れる筈もないその姿に少しも焦ることは無く、それどころかこの山で再会する事を予想すらしていた。
「闇導師。あなたは霊薬を揃える為私を利用した」
「そうだ。お前以外にも何人か強力な魔法使いをマークしていた。まあお前がそのエリクサリスを手に入れてからは、
お前にマークを集中させていたがな」
「その事を私も利用した。私はあなたを殺す。そしてネクタリスを飲んで自分を取り戻す」


69 名前:5 投稿日:佐賀暦2006年,2006/10/23(佐賀県民) 23:56:44.10 ID:EilG3WXw0
「できるものならな」
 その言葉を待たずにリースは魔法を唱えていた。
「大気すら凍れ――アイシクルウォール」
 闇導師周囲の空間がピシッという音をたて凍る。が、次の瞬間全てが霧散し辺りが蒸汽に包まれる。
その蒸汽の影から、闇導師が炎を操っているのが見えた。構わずリースは続けて魔法を唱える。
「全てを貫け――クールランサー」
 その蒸汽を利用し、産み出した無数の鋭利な氷の矢が何百と闇導師の周りを包んだ。さらに同時に、その矢は
目標を貫こうと弾丸のように飛び進むが、導師に当たる前に水となり消えていった。
 全ての矢が水となって消えた時、闇導師は最初と全く変わらない格好でリースを見据えていた。リースはその姿に
戦慄する。一流と呼んでなんら差し支えのない彼女が全力で魔法を放っているのだ、それにも関わらず何事も
ないような顔で立っている闇導師は、やはりただ者ではない。
「隙がねえな……どうする?」
 レオスとの相談もままならぬ状態のリースは、何も言わず相手を睨み付けている。
「くくく、流石リースだ。目をつけただけのことはある」
 闇導師はそう言ってフードを外した。そこには頬に一筋の血を流す、リースにとって懐かしく愛しい人物がいた。
「お、お父さん?」
 彼は父レオスだった。しかし、その姿はリースが知るよりもかなり若い姿。丁度リースと同じ年頃の姿である。
「私はお前の父レオスではない。昔のレオスをコピーした、闇導師だ」
 そう言って頬の血を拭い舐める。
「種明かしをしよう……私は人の姿と力をコピーしながら生きる魔物だ……今はお前の父親、大魔法使いレオスの力を
持つ。こいつが全盛期の頃はとてつもなく強い魔法使いだったのだ。私はコピーさせて貰ったよ、簡単だ、手を握る


70 名前:6 投稿日:佐賀暦2006年,2006/10/23(佐賀県民) 23:57:14.89 ID:EilG3WXw0
だけなのだから。しかし私にも寿命があってね……そろそろ限界が近づいている。ここまで言えば分るだろう?」
 その体は神薬ソーマで命を繋いでいるのだ。悟ったリースは怒りで震えていた。
 ――こんなやつに! こんなやつに父さんの力を、そして命を、使われているなんて
 リースは渾身の魔力を唱える魔法に注ぎ込む。切り札である絶対零度の魔法だ。
「全てが砕ける世界――アブソリュート ゼ」
 言い終わらぬ内に、リースの視界が赤く朱く染まった。それは刹那の時間で闇導師が繰り出した魔法、灼熱の
閃光によるもの。彼女の胸を貫き、後方の壁すらも溶かし風穴を開けた。
「あ――」
 崩れるリース。叫ぶレオス。冷酷な笑みを浮かべる父レオスこと闇導師。それら全てがスローモーションのように
流れるが、リースの地面に倒れた音で時は本来の速さを取り戻す。そしてレオスは癒しの魔法を掛けるどころか、
叫ぶ事、動く事さえ出来なくなっていた。闇導師はすかさずレオスに魔法を掛けていたのだ。
「さあ霊薬エリクサリス。私と来い」
 そう言い彼は動き出した。レオスは為す術もなく、その身に手が掛けられる。
 その時、ピシッという音が空洞に響き渡り、同時に闇導師の手がガラスが弾け砕ける様に割れた。そう、リースが
唱えた魔法は不完全にも発動し、彼の体にその威力は届いていたのだ。
「うがああああーーー!」
 獣の断末魔のような声が空洞に響き木霊し支配する。途端、レオスの身が自由となる。闇導師の手は腕へと砕け、
彼はふらふらになりながらも、逃げるように頂上に続く階段へと消えていった。
「リース!」
 レオスは目もくれずに彼女に駆け寄り、癒しの魔法を唱えた。が、魔法では何ら効き目は無い。
「くそ! こうなったら俺を飲ませてやる! 絶対生き返れよ!」

 ココはどこだろう?

72 名前:7 投稿日:佐賀暦2006年,2006/10/23(佐賀県民) 23:58:25.48 ID:EilG3WXw0
 ふわふわした空間。もちろん自分も浮いている。周りは柔らかなミルク色に包まれとても綺麗である。
 レオス? ここはどこ?
 横には壷のレオスがいた。彼も浮いている。
「ここはお前の心の中。そうか、リース。そんな事があったんだな……」
 何のこと?
「ここではリースの昔が見えるのさ。お前の心、感情は最初から封じられてなんかいないぞ。ありゃ催眠術ってやつだ」
 ……催眠、術?
「ここ一年過ごしてきた俺にはよく解る。だから今のウチに泣いておきな。どうせ現実に戻れば、夢の中でしか
泣けない意地っ張りなんだからよ」
 わ、わたし……
「そろそろ時間だ……今までありがとうな」
 え? レオス? どこにいくの?
「俺はまたどこかの祠でまた生まれ変わるのさ。万が一また会えても俺は覚えていないぜ。これは仮にも死だからな」
 嫌! 私も寂しかった。レオスが連れってってくれ! って言った時嬉しかった。今なら解る、私嬉しかった!
「俺も外に出れて嬉しかったし、お前といて楽しかった……でも、さようならだ」
 いかないで! レオスいかないで――

 眼が覚めた場所。それはベットの中ではなく、闇導師と戦っていた空洞の中だった。地面に広がった血が固まって
いない事から、先程の戦いから大して時間が経っていない事が解った。すぐ横には霊薬エリクサリス、つまりは
レオスが転がっていた。喋ることも、浮くこともない。リースの眼から大粒の涙が零れる。
「現実でだって泣けるんだから……」

74 名前:8 投稿日:佐賀暦2006年,2006/10/23(佐賀県民) 23:58:56.08 ID:EilG3WXw0
 そう言って立ち上がる。体に傷はどこにもなく、灼熱の閃光で破られた服さえ埃一つ付いていなかった。しかし、
何年も昔に忘れた涙が一斉にこぼれ落ちたように止まらず、その服に染みを作っていく。
――でも今は
 泣いていられないリースは、上へと続く階段を登り、霊薬ネクタリスと闇導師の下へと急いだ。

 ぼろぼろに崩れ、自我もない獣と化した闇導師のなれはてが、祠の前で暴れている。リースは、その姿に多少
驚いたが、動揺ではない。そして、闇導師はリースの姿を発見した途端、尋常を逸したスピードで彼女に襲いかかった。
「大気すら凍れ――アイシクルウォール」
 闇導師の突進する前方に素早く氷の壁を用意する。彼は避ける間もなくその壁に衝突した。
が、その氷の壁を打ち破ろうと、さらに地面を蹴る。
「今度こそ最後。全てが砕ける世界――アブソリュート ゼロ」
 眩い閃光が迸り、数秒で収まる。無音。音が全て吸収されたかのようにその場は静かだった。そして、リースが杖を
地面にこつんと打ち付けた瞬間、ガラスの城を巨大なハンマーで打ち砕くような、何もかも割れていく音と共に、
氷付けになった闇導師は粉砕された。舞い散る氷の冷気がリースを心地よく包む。
 しかしこれで終わりではない。
――今なら、間に合うかも知れない

 祠の中は仄暗く、最初にレオスと出会った祠と同じような造りをしていた。リースはその時の事を思い出し、クスっと笑う。
「今度の主(あるじ)はお主か」
 そう言って壷がリースの前まで浮かんで来る。霊薬ネクタリスだ。
「私をすぐにでも飲むのだろう。この山で起きている事は、大体理解している」
「はい。体内にまだエリクサリスがいます。今飲めば神薬ソーマができるかもしれない」

76 名前:9 投稿日:佐賀暦2006年,2006/10/23(佐賀県民) 23:59:57.45 ID:EilG3WXw0
 リースは頭を下げる。この霊薬に今から死んで下さいと言っている様なものであるのだ。
「気にするな主よ。たいした命でもない。神薬ソーマになることは喜ばしい事だ」
 そう言って自らリースの手に自分を持たせる。
「あと、神薬ソーマは薬ではない。神との交信だ。願いの一つが叶うだろう」
 では早く飲むことだと、霊薬ネクタリスは自分を勧めた。
「ありがとう」
 リースは霊薬を一気に飲み干す。すると体が光り意識が遠ざかっていく。そして暗闇に落ちたと思った時には、
ついさっきレオスと別れた、自分の心の中と同じような場所で漂っていた。
「汝の願いを聞こう」
 唐突に声が響く。周りには誰もいない。リースは叫んだ。
――レオスを生き返らせて
「汝の言うレオスとは父のことか? 壷の事か? はたまた闇導師のことか?」
――壷です……壷のレオスを返して欲しい
「……わかった。ではレオスを生き返らせよう」
 そして全ての五感は光に包まれていった。

「リース! おいリース! しっかりしてくれよ」
 声で眼が覚める。リースの霞んだ視界には、父の面影がある少年がいた。それに驚き力一杯起きあがる。
「いてっ!」「痛い」
 二人はゴチッと頭をぶつけた。おでこをさすり、一瞬後二人は声を上げる。
「なんで俺こんな格好してるんだ! というか生きてるんだ!」
「闇導師? それとも壷のレオスなの?」
「レオスだよ。でもこれってお前の親父さんの姿だろ?」
「なんで若いお父さんの格好をレオスがしているの?」


77 名前:10 投稿日:佐賀暦2006年,2006/10/24(佐賀県警察) 00:00:30.51 ID:23fpw/jr0
 さらに言えば先程まで闇導師が借りていた姿だ。しかし、二人とも慌てて会話がかみ合っていない。
「落ち着こう。とりあえずなんで俺は生きているんだ?」
「それは、私が神薬ソーマで――」
 そこまで言って気付く。
――私は好きだったんだ。このレオスが
 神薬ソーマで生き返ったのか! と驚くレオスは、自分の体をぺたぺた触り感触を確かめ始めた。
因みにリースは初めて気付いた自分の思いに頭をオーバーヒートさせている。
「なあ、顔赤いぞ?」
 一通り確かめたレオスは、何やら茹でたこと化したリースのおでこに手をあてた。
「赤くないよ! そ、それより……これからも一緒に旅しよう?」
 恥ずかしさのあまりレオスの手を振り解き、リースは緊張しながら彼に尋ねた。
「な、なんだよ突然」
「霊薬エリクサリスが新しく生まれたかどうかも気になるし!」
「わかってるって! お前は俺のご主人様なんだからよ。どこでもついてくさ」
 リースは喜び笑みがこぼれる。そして何故かレオスはニヤニヤしていた。
「昨日までとは別人だな」
「あ、あなたが教えてくれたんじゃない!」
「知ってるぜ?」
そういってちゃかしたレオスがリースの魔法による軽い凍傷を負うのにあと十秒。二人が笑い転げるまであと
十五秒。恋に落ちるまで――
  

 見失った物を取り戻したリースと、運命の道を踏み外したレオス。気楽な旅はいつまでも続く。
余談だが、神様の粋な計らいに彼らが感謝するのは、もう少し先のこと……唇が重なり合った時の事である。

終わり



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