【 薬国 】
◆qwEN5QNa5M




36 名前:薬国1/3 ◆qwEN5QNa5M 投稿日:06/10/23 23:28:42 ID:61kb+fA0
一人暮らしを始めたので、薬を注文する事にした。
カタログを読み、あれば便利なもの、困った時に役立つものなど次々と注文した。
パラパラページをめくっていると、一つの薬を見つけた。
「毒薬……」
なんでこんなもの売ってるんだ、と思い、興味本位に俺は毒薬を注文した。
薬はその日中に届けられた。
「ほ、本当に届いた……」
今は必要ないので、毒薬は引き出しの奥にしまっておいた。

次の日の朝。

「眠いなぁ」
昨日は午前一時までテレビを見ていたせいだ。
俺は眠気覚ましの薬を飲んだ。
目は覚めたが、頭が痛いので頭痛薬を服用した。
やがて頭痛は治った。

朝食を取ろうと思ったが動く気がしない。
空腹感を満たす薬を飲んだ。
まだ空腹感は残るんだけど、贅沢も言ってられないので薬を元の場所に戻す。

このように、薬で何もかもを治すという時代になっていた。
勿論入院しなければならない事もあるけど、
とにかくなんでもかんでも薬に頼る、そんなところ。
ちなみにそうでない人も存在するらしい。

37 名前:薬国2/3 ◆qwEN5QNa5M 投稿日:06/10/23 23:29:37 ID:61kb+fA0
欲求は満たされると次の欲求を生む。
俺は煙草が吸いたくなった。
この時代では煙草を吸う人なんて殆どいなくなっていたけど、
高校生の時、少数派を気取って吸い始めたらやめられなくなってしまった。
しかし、煙草は高い。
生活に響くので煙草はやめて、禁煙用の薬を飲むことにしてみた。
気持ちを落ち着かせ、煙草を吸う気を奪う薬。
昔はそんなもの無かったそうで。
俺はこれ無しに禁煙なんて無理だ。これがあってもなかなか辛い。
昔の人は凄いと思う。

現在俺は働いていない。働く気もなくて結婚もしてない。ずっと家にいる。
だからと言って家に篭ってもやる事はテレビを見ることくらい。
体調が悪ければ薬を飲んで一日を過ごす。

そんな生活を一ヶ月ほど続けてくると、薬が切れてきた。
俺は完全になまりきった体で財布を開けてみる。
「これしか無い……」
もう薬を買うお金は無くなっていた。 煙草の薬の副作用か、気力も無い。
俺はこれからどうすればいいんだろう? そんな事を考えていた。
そして一つの結論が出た。
「こんなつまんない生活はもう嫌だ」
そんな事を感じ、俺は引き出しの奥へしまっていた毒薬を取り出した。

そして俺は勢い良く毒薬を口に押し流した。

38 名前:薬国3/3 ◆qwEN5QNa5M 投稿日:06/10/23 23:31:03 ID:61kb+fA0
「…あれ?」
俺は死んでいない。
しかし、部屋が全く違うものに変わっているのに気付く。
「あ、ここは昔の俺の部屋だ!!」
慌てて部屋を抜け出し、鏡を見てみると、
そこにはちょうど10年前くらいの自分が映っていた。
高校生の頃。
「あれは……自殺志望者が人生をやり直すための薬、だったのかな?」
勝手に自己解釈をする。
とにかく、自分が生きていることに変わりはない以上、俺は死ぬのをやめた。
ふとさっきまでの事を思い出す。
あんな生活はもうこりごりだ。

右手のポケットをさぐると煙草が出てきた。
「まずはこれから始めよう」
窓を開けて、煙草を窓から投げ捨てた。
煙草の箱はさっきまでの俺のように、勢いがなく滑稽に落ちていった。



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