【 あの子へ捧げる薬 】
◆8XTh35Hwrg




24 名前:品評会用『あの子へ捧げる薬』1/4 ◆8XTh35Hwrg 投稿日:06/10/23 22:08:36 ID:FzI6zegO
 ゆっくりと……ゆっくりと。
 確かに加速している。
 ……それは微弱にも感じられる相当に小さな…鼓動。だけど確かに僕には分かるんだ。確かに速くなってるんだ。
 ねえ、気付いてくれてるかな?
 ねえ、気付いてくれるかな?

   ねえ――

         ――僕を想ってくれるかな?

 ただ、それだけを待っているんだ……

31 名前:品評会用『あの子へ捧げる薬』2/4 ◆8XTh35Hwrg 投稿日:06/10/23 22:13:51 ID:FzI6zegO
「作ってしまった……」
 どうしよう?
 捨ててしまおうか。
 いや、捨てるには惜しい。
 何故なら苦労して手に入れた材料で、何とかして作ったものだから。
「あの子に飲ませたら……どんな事になるだろうな」
 正直、それは期待感と喪失感と、希望と絶望とが混合したような感覚を
僕の中に生じさせていた。
 いつまでも振り向いてくれないあの子に、
 ただ伝えたい想い、

 まだ、

         『好きだよ』

その一言さえ言えてないのに。
 その言葉を伝えるのに、どれだけの労力を必要とするんだろう。
 告白できる奴が羨ましい。同時に妬ましい。
 僕にないものを持ってる。
 それは、一筋の勇気。

 今日、学校であの子に渡そうかな。
 この薬入りの缶ジュースを。
 ……もし、飲んでくれたらあの子はどうなるんだろう?
 僕だけのあの子になってくれるのかな?
 そうなれば……いいな。

32 名前:品評会用『あの子へ捧げる薬』3/4 ◆8XTh35Hwrg 投稿日:06/10/23 22:14:30 ID:FzI6zegO
「何?××くん」
「あっ……えっと」
 ××は僕の名前だ。
 僕はあの子の名前を呼んだ。するとすぐにあの子は気付いて僕のところに来てくれた。
 嬉しかった。
「…………」
 どうしよう。
 渡せば、あの子は僕だけのあの子になってくれる。
 渡せば――

 少し、勇気を振り絞るだけでいい
 告白するより簡単じゃないか

 そうだよ。簡単なんだ

 ――――。

「いや、やっぱりいいや。ごめんね」
 何を言ってるんだろう、僕は。
 折角のチャンスを。
 何が、したいんだろう。
 ………………もう、いいや。

                もう、いいや。何だって。

33 名前:品評会用『あの子へ捧げる薬』4/4 ◆8XTh35Hwrg 投稿日:06/10/23 22:15:41 ID:FzI6zegO
 ………何か、夢を見ていた気がする。
 はっきりとしないけれど。
「きゃあああああああああああああああ!!」
 何だろう?
 悲鳴が聞こえる。
 ……何処から?
 すごく遠いところから聞こえる気がする。
 何処だろう。
「死、死んでる!?」
 また、声がした。
 死んでるって、誰が?
 分からない。
 意識がはっきりしないや。
 何だか心臓の音がだんだん加速してる……。
 なのに……すごく小さい。本当に動いてるのか分からないくらいに。
「いやああああああああああ!!」
 あっ、あの子の声だ。どうしたんだろう?
 何で、悲鳴なんか上げてるんだ?
 僕が護ってあげなくちゃ。あげなくちゃいけないのに。
 どうしたんだろう――
 どうして、僕は動けないんだろう――

『彼は過ちを犯した
 それは思い余って薬を飲んだ事ではなく
 薬を作った事でもなく
 薬を渡そうとしたことでもない
 それは薬を使って彼女を自らのものにしようとした意思それ自体
 
 その薬とは

 人を永遠に仮死状態する薬――』

<了>



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