7 名前:No.02 万能薬 (1/3) ◇Xenon/nazI 投稿日:06/10/21 22:42:01 ID:8vSBF+hX
いらっしゃいませ、魔法堂薬局へようこそ。
お客様、当薬局へ来られるのは初めてですね?
当薬局では古今東西、ありとあらゆる薬を取り扱っております。
風邪薬など日常使われるものから、麻薬や毒薬など大きな声では言えないものまで。
……嫌ですよお客様、そんな顔で見ないで下さい。ちょっとした冗談ですから。
まぁ、媚薬程度なら置いてありますけれどもね。
お一つ如何ですか?夜の世界が変わりますよ。
今は必要ありませんか。では、また機会がありましたらという事で。
それで、お客様。本日はどのような薬をお求めで?
はい? 本当にありとあらゆる薬を取り扱っているのかですって?
そうですね、当薬局ではお客様のニーズに合わせて販売を行っておりますので。
そういった意味においては、お客様のお求めの薬はあるかと思います。
今の世の中、様々な悩みをお持ちですからね。
その悩みを解決させて頂くのが私どもの仕事だと思っております。
はい、体質改善……脂肪を付きにくくする薬、ですか。
告白した女性にあと二十キロ痩せたら考えると言われた、と。ふむ。
えぇ、もちろんございますよ。
ただ……? なるほど、今まで試した薬は効果がなかったというわけですね。
それでしたらお客様、こちらの試供品を差し上げます。
一ヶ月分ですので、さすがに二十キロ一気には難しいですけれどもね。
効果の程をご確認頂いた後、入用になりましたらまたお越し下さい。
いえ、先程申しました通りお客様の悩みを解決させて頂くのが私どもの仕事ですから。
はい、またのご来店をお待ちしております。
8 名前:No.02 万能薬 (2/3) ◇Xenon/nazI 投稿日:06/10/21 22:42:12 ID:8vSBF+hX
小太りの客が店から出て行くと同時に、店の奥から一人の少年が姿を現す。
「おつかれ。今の客で何人目だっけ?」
少年は店内に置いてある椅子に腰掛け、接客をしていた青年にそう問い掛けた。
「五十二人目……でしたでしょうかね。まぁ、今日はこの辺りにしておきましょう」
柔和な笑顔で答えると青年は入口のドアを閉め、鍵をかける。
「お仕事熱心な事で。さすが、業界トップの男は違うねー」
軽い調子だがどこか呆れを含んだ声。
そんな少年に、しかし青年はにこやかに笑みを返すだけだった。
「それにしても、看板に偽りありっていうか羊頭を掲げて狗肉を売るっていうか」
少年は陳列された薬の一つを手に取る。
箱には妊娠検査薬と書いてあったが、中身はそうではない事を少年は知っていた。
もちろん、それを売っている青年自身も。
「嘘は言ってませんよ。うちの薬を飲めば、人間の抱える悩みなんて解決出来ますし」
青年が白衣を脱ぐと、その下は黒で統一されていた。
「さて、今日はもう店じまいです。帰るとしましょう」
そう言って、青年は店内の照明を落とした。
9 名前:No.02 万能薬 (3/3完) ◇Xenon/nazI 投稿日:06/10/21 22:42:32 ID:8vSBF+hX
ここは魔法堂薬局。
この薬局に訪れたものは必ずその悩みを解決する事が出来る。
この薬局にある薬は、箱が違うだけで中身は全部同じである。
「何とかにつける薬はなくて、何とかは死ななきゃ治らないってね。よく言ったものだよ」
くすくすと笑う少年の声だけが、薄暗くなった店内に響いた。
完