334 名前:卒業 ◆Qvzaeu.IrQ :2006/04/09(日) 22:52:41.98 ID:Bj74fN0/0
3/3日卒業式。
病院のベットで10時の卒業式の開始を迎えた。
「大丈夫か? 奏(かなで)?」
ぼーっと寝転がって天井を眺めていると、真横から声がかかって来た。
誰だか解った。大地だ。
嬉しいけど、悲しかった。
どうして、卒業式なんて大切な日に僕のところに来るんだよ。
「おー、まあいつものことだ。僕の病弱は、今に始まったことじゃないからね。こんな日もあるよ」
「そっか、奏が平気そうなら良いんだ。最近は、少し体調が落ち着かないな」
いつもいつも、僕の少し前で聞いていた声だった。
そして、いつものように僕に説教が始まる。
女の子なのに、僕って言うなって。
「しょうがない……。だって」
子供の頃、大地の口調が移ってからそのまま変わらずに、今になる。
僕が恨みがましく見ると、大地はその事を解っているのかあははと笑った。
凄くまぶしい笑顔だ。見ていると、色々な決意が融けそうになる、そんな笑顔だった。
その笑顔をもっと近くで見たくて、気だるい身体を引き起こした。
「奏寝てろって」
「あ、いや、大丈夫。寝てばっかりいたから、少し起き上がらないとな」
「そっか」
大地が僕の表情を伺うように、こっちを見た。
「それはそうと、奏さ。ちゃんと服着ろって、おっぱい見えてんぞ」
「大地欲情しちゃったのか?」
僕がニヤニヤと笑いながら言うと、大地も笑って
「もぉ少し大きければ最高だけどなあ」
「いや、意外と僕のは形が良いぞ」
「あー、確かに。今見たら形良かったな。チンコ勃った」
「大地そこまで見ていたのかよw 今の発言で下が濡れた」
「ははははっ」
「あはははっ」
335 名前:卒業 ◆Qvzaeu.IrQ :2006/04/09(日) 22:53:19.51 ID:Bj74fN0/0
くっだらないシモネタトークで、二人とも笑う。
ほんっと、下らない。
「そういえば、今日は僕たちの学校の卒業式だろ? 休んでいて良いの?」
「まあ別に卒業式くらいどってことないしな。奏がいなけりゃ、つまらないし意味もない。それに心配だしな」
大地は真顔で、僕の顔を見詰める。
心配されているんだなって思った。嬉しかったけど……。
「そっか、ありがとう。いつもいつも傍にいてくれて」
本当は、こんなこと言っちゃいけないんだ。
卒業式を迎えたら、大学は別々だった。
だから、その期に応じて僕は大地と別れるつもりだった。
ちょっとづつ、ちょっとづつ距離を置いて自然に忘れてもらうつもりだった。
その事を、今日伝えようと思った。
僕がいるから、大地は今日の卒業式も出てない。修学旅行だって、卒業遠足だって、中学校の頃のキャンプだって出てない。
いつもいつも、僕の心配ばかりして自分のことなんかこれっぽっちも思ってない。
大地に頼ってばっかりの僕がいるから、大地はいつも自分のことは後回しだった。
それじゃあいけないんだ。僕も大地も。
だけど――
「でさ、お前知っているか? シークァーサーは、シーサーの妹でさ。マーライオンは、親戚なんだ」
何でだろう? 笑いながら話す大地の冗談を聞いていると、それも良いかなっておもってしまう。
「それ、僕が中学生の時にもう聞いた」
大地に頼りっぱなしでも良いかなって、ふと思ってしまう。
「あれ? そうだったっけ? ああ、シークァーサー閣下w」
大地が、子供みたいに笑った。
「あーー、やめぇっ! それはあああ!」
凄く良い笑顔だって思った。
「あはははは! やっべ、思い出した。あん時はすまなかったな、シークァーサー閣下」
最高に幸せ。
「あれは、大地が僕に嘘を教えるからっ!?」
336 名前:卒業 ◆Qvzaeu.IrQ :2006/04/09(日) 22:53:49.63 ID:Bj74fN0/0
時間が止まれば良いのに。
「でもさあ、お前。幾らなんだって、レモンだかミカンだかの説明のときに」
ずっと一緒にいられたら良いのに。
「あああああっ!」
でもそれは、駄目なことだった。
「それって、シーサーの妹ですよね! って、農家の人に言っちゃうんだもんなあ」
僕も大地も駄目になるから。だから、言わなきゃいけないんだ。
「……」
さよならを。
「お、おい? どうした? 奏?」
「……」
大地から、卒業しなきゃいけないんだ。
「悪い……、泣く程嫌だったんだな。すまなかった、もうこの事は言わない」
「いや、違うんだ。違うんだよ。大地」
さようなら、僕の一番好きな人。
君から、今日卒業するよ。
「大地、話があるんだ。聞いて」