【 卒業 】
◇q6/olrN80




289 名前:卒業 1 :2006/04/09(日) 20:50:57.16 ID:q6/olrN80
4月。
桜は満開。薄いピンクの花びらが春風に揺られて、ひらひらと宙を舞う。
日本全国津々浦々で、入学式や入社式が執り行われる。
東京私立、美府高等学校においても、それは変わらない。4月11日にほかの学校より少し遅めの入学式が開催されていた。
只、この学校には一人の問題児がいて、教師達は頭を抱えていた。
そしてこの春とうとう、高校生活が怒涛の7年目に入ったその問題児が、新たな問題を引き起こそうと画策していた。

290 名前:卒業 2 :2006/04/09(日) 20:51:21.16 ID:q6/olrN80
「いいか、俺が合図したら俺もろともでかまわん、撃て」
22歳になる高校一年生が、5つ歳下の二年生に命令する。
「分かりました。山田さんの敵は俺が必ず取ります。安心して逝っちゃってください」
重々しく二年生が頷く。その手にはUZI/9mm、俗に言うサブマシンガンがしっかりと握られていた。
「氷川。思えばお前には本当に世話になった」
22歳高校一年生の山田さんが語りだす。
「去年の春、俺が起こした三度目の4・11。あの激烈な闘争を生き残ることができたのは、お前の命がけのサポートがあったればこそだ」
眼を細めて虚空を見つめる山田さん。同じくあの日の事を思い返し、遠い眼をするサブマシンガンの氷川君。
「怒りに我を忘れた教師達がナパーム弾を炸裂させまくったあの日、ですね」
氷川は、鮮明に覚えている。ベンゼン21%ガソリン33%ポリスチレン46%を完璧に混合させたナパームの火炎は千度まで達し、
夢と希望に満ち満ちた新入生たちの記念すべき式典を、阿鼻叫喚の地獄絵図へと叩き落とした。
「あの時は、本当に死ぬかと思いました。プールに飛び込んでも消えないんですもん。ナパームの火って」
「怖い思いをさせて、すまなかったな。しかし俺も、まさか聖職者たる教師が、あれほどの大量虐殺兵器をあんな限定空間内で使用するとは想像もしていなかったんだ」
山田さんの苦渋の顔を見て、あわてて氷川が取り繕う
「そんな、山田さんが気に病むようなことじゃないですよ。全ては、あの腐れ教師の所業です。俺は高笑いを上げるあのハゲの顔を、一年たった今でも、夢にまで見ます」
「しかたがないさ。それで普通、いや、お前の精神は間違いなく頑強だよ。あの地獄の入学式を生き残った生徒の大半は、PTSDで未だに登校拒否を起こしているというのに」
ガタガタと震えだした氷川の肩を、ぽんぽんと叩いて、ゆっくりと山田さんが立ちあがった。
「さぁ、そろそろ行こう。四度目の聖戦が今幕を開ける。たとえこの身が粉々に砕け散ろうと、新入生達は俺が守り抜く。もう誰も、傷つけさせやしない」
「はい!……山田さん。俺、もし今日を生き延びることができたら、あの娘に好きだって言おうと思ってるんです。当たって砕けるだけでしょうけど」
山田は、式典が行われている体育館へと歩みを進めながら、背中越しに氷川に伝えた。
「お前は、自分の価値というものをもう少し知るべきだな」
氷川も立ち上がり、山田の後に続く。
「俺の、価値ですか?」
山田の背中に問いかける。
巨大な体育館の門に手を掛けて、中へと踏み込む直前、山田は氷川に教えてやった。
「ダイヤモンドを砕く女など、どこにもいる訳がないのさ」

291 名前:卒業 3 :2006/04/09(日) 20:52:24.99 ID:q6/olrN80
ばぅん!
重い音を響かせて、体育館の入り口、右の扉が開け放たれる。
鼓膜を振るわせるは爆音、鉛が叩き込まれる衝撃に耐え切れず、鋼鉄で出来た入り口左の扉がひしゃげ、吹き飛んでいく。
山田を待ち構えていたのは、ベレッタ、トカレフ、マシンガン、ライフルとまとまりの欠片も無い銃器を手にした教師達。
その数、8人。
弾幕の正射が終わる。
もうもうと立ち込めていた硝煙が晴れて、何百という穴が穿たれた体育館の入り口。そこに、山田の姿は無い。
「上だ!」
教師達がその声に反応して、銃口を天井へ向けていっせいに乱射。
「嘘だよ」
声の主、山田が穴だらけの入り口に突如出現した。
山田の右腕が一閃。
腕の一振りだけで、8人の教師達がばたばたと崩れ落ちる。
「敵の言動に振り回されるなど、考えられぬ愚かさだ」
銃の構え方、グリップの握り、小刻みに震える方、なにより始めてみる顔ぶれだったので、実戦経験の無い新人だと予想したのだが、間違いなかったようだ。
山田はゆっくり中へと踏み込む、体育館は二重扉になっており、ここは靴を脱いだりするスペース、そしてもう一つの入り口、正面の扉を開けると、入学式をやっているはずだ。
扉に手を当てる
「来たか。山田」
汚い声が山田の耳元で囁いた。

292 名前:卒業 4 :2006/04/09(日) 20:52:48.62 ID:q6/olrN80
「毎年毎年、ご苦労な事だ。留年した腹いせに入学式で暴れて停学、留年、そしてまた暴れる。いつまで続ける気だ」
「この学校から、お前達教師どもを叩き出すまでだ」
山田がそう言うと、禿頭の男、美府高校理事長にして校長、最強の教師東山がゲラゲラと笑い出す。
「学校から教師を追い出して、それで何をするというんだ?毎年毎年、ぞろぞろとゴキブリのように這い出してくるお前ら生徒とは違うんだぞ。貴重な人材だ」
山田はゆっくりと東山から距離を取りつつ、右手を握りこんで構える
「学校とは、生徒を成長させるための場だ。教師から人生を学んでな。しかし、この高校はアンタが来てから変わった」
「『変えた』のだよ。ゴミのような生徒を殺し、優秀な人間だけを作り上げる。真の教育をする場へと」
「そんなものが教育であってたまるか!」
激昂した山田が右手を振り上げるより早く、東山の革靴が山田の右わき腹へと突き立った。
予備動作無し、骨のへし折れる音が聞こえるまで、何がおきたかも分からぬまさに神速の蹴り
「右手に持ってるのは、羅漢銭だろう。達人は一息五打を放つというが、お前は一息で八打を放った。非凡な才能だ。だから殺さないのだが
こうも毎年何人もの教師を殺されては、さすがに困るというものだよ」
低いうめき声を上げ続ける8人の教師を見下ろしながら、東山は嘆息した。
「殺してはいない」
脇を抑え、痛みを押し殺して山田がそう言うと、東山の唇が釣り上がる
「ん、そうか?俺には死んでるようにみえる。ほらこいつなんて、顔が背中を向いてやがる」
手近にいた教師の首に靴底を乗せて、ばきばきと音をたててその教師の首を踏み砕いた
「東山ぁ!」
山田が東山に飛び掛り、懇親の力を込めて羽交い絞めにする
「それで、どうするつもりだ?ええ」
東山が体を揺する、山田は必死ですがりつくが、もう長くは持たない
「氷川!今だ!やれ」
山田の合図と同時に、氷川が飛び出して
「うあああああああああー」
フルオート正射。弾丸の嵐の中で踊り狂う東山と山田。

293 名前:卒業 5 :2006/04/09(日) 20:53:38.10 ID:q6/olrN80
「ぐあぁぁぁー」
全身に鉛の弾を打ち込まれ、自らの血溜まりに崩れ落ちる東山。それに覆いかぶさるように、山田も倒れる。
「きさま……最初から、死ぬ気で……」
その言葉を最後に、東山は絶命した。

「山田さん!」
氷川が山田に駆け寄り、抱き起こす
「よくやった。それでいい」
ごぼごぼと吐血しながら、山田は氷川に笑顔を向けた
「本日、この時を持って、俺はこの学校を卒業する。あとのことは、全てお前に任せる。美府高校を、頼む」
「分かりました」
戦い続けた漢の一生が、今終わった。

                   

                                 完



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