【 Light Light Bright 】
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328 名前:「品評会」Light Light Bright ◆pt5fOvhgnM 投稿日:2006/10/15(日) 22:18:51.50 ID:lYpvMson0
俺の名前はボブ、生粋の日本人だ。
「HEY,PrettyGirl、君にこんなFuckな場所には似合わないぜ」
俺はおっかなびっくり店に入ってきたハイヒールが似合わないCuteなお嬢ちゃんに声をかけた。
ハイヒールは勿論、ノースリーブのシャツも、透けて見える黒いブラジャーも、ミニのスカートも、全部が似合わない。
どう見ても、地下にある甘い煙の充満した胡散臭い店には不釣合いなお嬢ちゃんだっ。
誤解するなよ、下心があった訳じゃない、単なるおせっかいって奴だ。
しかし、お嬢ちゃんの返事より先に耳聡い連中の野次が飛んできた。
「おい、ボブ。お前ロリコンだったのか?」
Shit――馬鹿野朗どもめ、お嬢ちゃんは今ので明らかに気を悪くしたようだ。表情こそ変わらないが眼差しが厳しいぜ。
「うるせぇ」野次を飛ばしやがったFuckな野郎に中指をおっ立てて怒鳴りつける。
そして、何事も無かったようにお嬢ちゃんの方を向いて軽く笑顔を浮かべた。
何たることだ、日本人形のように可愛らしい顔は明らかな――それも先程よりも強烈な――警戒の色を浮かべている。
「ボブ? どこからどう見ても日本人にしか見えないのに?」
実にCooLな声だ。研ぎすぎて細くなっちまったナイフみたいにCool。
「心の目で見るんだGirl。そうすれば俺の真実の姿が見える」
お嬢ちゃんは素直に目を閉じ、切り捨てるように言い放った。
「やっぱり、黒髪黒目の典型的黄色人種にしか見えません」
俺は大仰に肩をすくめ悲しげに首を振った。
「それはお嬢ちゃんの修行不足って奴だ」
きっ、とお嬢ちゃんは鋭い目で俺を睨みつける。
「ユキ」そう言って、続ける。「お嬢ちゃんじゃないしGirlでも無い」
「分かったぜ、ユキ。良い名前だCoolな君には良く似合う」
ユキは満足気に頷くとセミロングの髪を揺らして俺の横を通り過ぎカウンターに座った。
「そりゃないぜ、ユキ」俺は慌てて追っ駆ける。
「バドワイザー、二つ」
カウンターに着いたは良いが石みたいに固まってテーブルを見詰めているユキを尻目に俺は注文をした。
ユキの横顔を眺めながら言う。
「俺の奢り」
彼女は礼の一つも言わない。なんて素っ気無い、だがそれが良い。信じ難い事だが俺はこのお嬢ちゃんを随分と気に入っていた。
329 名前:「品評会」Light Light Bright ◆pt5fOvhgnM 投稿日:2006/10/15(日) 22:20:00.59 ID:lYpvMson0
バーテンが持ってきたバドワイザーを受け取り、プルタブを抜いて一つをお嬢ちゃんに手渡す。
ユキは睨みつけるみたいにしてバドワイザーを見ていた。
乾杯、俺はそう言ってユキの持つ缶に俺の缶をぶつけた。
喉を鳴らし、一息に流し込む――すかさずもう一本注文だ。
「分かるか? これがアメリカの味だ」
俺の横でユキは一口だけ飲み、顔をしかめた。
「……どの辺がアメリカなの、これ」
俺は人差指を立ててにんまりと笑う。
「Lightだからさ」
ますます顔をしかめるユキ。
俺はバドを流し込みながら肩をすくめる。いくらでも流し込めそうな程、軽い、それがバドの最大の特徴だろう。
俺は、否、俺にバドワイザーを教えたあいつはそこにアメリカを見ていた。
「LightでLight、やがてBright」
彼女は頭痛を抑えるような仕草をして、言った。
「軽く、明るく、そして輝く……か、あんた馬鹿でしょ」
Yes、と叫んでユキの頭を撫で回したくなったが、やったら多分殴られるのでやらない。
代わりに、俺はげらげらと声を出して笑った。
「その通りさ、良く分かってる」
「あんたの頭の中も随分とLightみたいね」
Coolを通り越してColdな眼差しが俺を貫いた。
Fuck、何て素敵。思わず、踏んでください、と頼みたくなる。彼女の足は実に細く白い、Yes、実に俺好み。
だがそこをぐっと堪えて言う。
「お互い様だろ、そいつは」
彼女ほどではないが、俺もCoolに言い返す。
「何にも分からないくせに」
「いいや、分かるね」
俺はバドを飲み干してまたまた追加を頼んだ。
体を回るアルコール、ぼんやりとして行く感覚に膨れ上がる熱。
酩酊の前の、麻痺の前の――高揚。
「人間関係だろ」
330 名前:「品評会」Light Light Bright ◆pt5fOvhgnM 投稿日:2006/10/15(日) 22:20:36.16 ID:lYpvMson0
――Yes、頷くユキ。
「恋人か親だ」
子供の狭い世界、問題は大体この二つだ。
「恋人」
回る手品師頭脳、蠢く詐欺師根性、囁く野次馬野朗――全部、ひっくるめて俺。
「妊娠した訳じゃない、酷い暴力野朗だった訳じゃない、金を持っていかれた訳じゃない、、他愛ない喧嘩、当たりだろ」
No、分かりきった事――ユキはそんな馬鹿には見えない。怪我を人目に晒すのが好きな奴にも見えない。言うまでも無い、子供からどうやって金を絞るって言うんだ。
目の縁にほんの少しだけ不機嫌な色を浮かべて頷くユキ。
「実にLightな問題じゃないか、ごめんなさい、って言ってFuckすれば形状記憶合金並に元通りだ」
そもそも、大人びた格好をして胡散臭い店に行こうなんて思える段階で、大して切羽詰まってないのは分かる。
ほんの少しばかり、自棄になっただけだろお嬢ちゃん。一杯飲んで、帰って眠れよお嬢ちゃん。
「うるさい」
吐き捨てるように彼女は言って、一息にバドを飲み干し――
――いきなりぶっ倒れた。
おいおい、勘弁してくれ。
周囲を見る、どいつもこいつも握りこぶしの人差指と中指の間から親指突き出してこっちを見ていやがった。
Shit、まるで俺が悪いみたいだ。俺が悪いのか?
俺は飢えた狼みたいに――ああ、何て比喩だ、よりにもよってこのシーンで――周囲を威嚇しながらユキを担ぎ上げた。
ボロいワンルーム、俺の城、古びた写真を前に、バドワイザー。
枯れない涙、消えない思い出、募る悲しみ。
消え去れWet、戻って来いWit――消え去れ俺、戻って来いボブ。
Light、Light、Bright――俺の呪文。
「何してるの?」
Coolな声、二日酔いをこらえるよう。そうだった、連れて帰ったんだ、でも、頼む、そっとしておいてくれないかGirl。
「馬鹿みたい、写真を見て泣きながらビールを飲むなんて」彼女は俺の横に立って、写真を見た。「彼が、ボブ?」
黒い肌、パーマの髪、綺麗な目、白い歯を見せて笑う、良い男――Wit溢れてWet何て吹っ飛ばすLightでBlight、おまけにGreatな男。
俺の親友。
「俺の喉を通して、俺の胃を通して、ボブに届けるんだ、あいつの愛したこのビールを、あいつの愛したアメリカを」
日本在住、英語の喋れないブラック、寂しがり屋のあいつが夢見たアメリカ、自由の国――象徴としてのバドワイザー。
331 名前:「品評会」Light Light Bright ◆pt5fOvhgnM 投稿日:2006/10/15(日) 22:21:22.69 ID:lYpvMson0
「死んじまった」
「……そう、あなたなりに鎮魂なのね」
俺は頷いて、バドを飲み干した。俺の気持ちも、何もかも、酒は構っちゃくれない、いつもどおりにLightな味。
「ボブになりたいの?」
頷く、俺、他に何が出来た。親友よ、親友よ、帰ってきてくれ、帰ってきてくれ、答えてくれ、答えてくれ。
「一つだけ、分かったことがあるわ」
教えてくれ、何でも良い、何だって良い、どうだって良い。
「貴方はボブの死を悲しんでいるんじゃなくて、ボブを失った自分自身を哀れんでいるだけね」
彼女のCoolな声が俺の心臓を貫く、残酷な真実ってやつが胸をえぐる、だが同時に救われた気分。
俺だって馬鹿じゃない、愚かだって知っていた。情け無い俺。偶然の出会いと酒に弱い彼女に感謝。
「ありがとう、ユキ」俺はバドワイザーを飲み干した、色々なWetと一緒に。「お礼がしたい、君の恋人を呼んでくれ」
俺には彼女が何を考えているのかさっぱり分からない、ただ一つ、最高だって事だけは良く分かった。
彼女が恋人を何処に呼び出したと思う? 屋上だ、廃ビルの屋上。なんだこの決闘みたいなシチュエーション、最高すぎる。
やって来たのは優等生面したBoy、一目で分かったね、こいつは退屈な男だ、俺と同じぐらい退屈な男だ。
「……どちら様ですか?」
「ボブと呼んでくれ」
告げて俺は、殴りかかった。
紙切れよりもそいつは軽かったようだ。あっさり転がって目を白黒させていやがる。
Hey,Boy、悪いが理由は言ってやらねぇぜ。
もう一発殴ろうとしていたら、ユキが立ちふさがった。
「止めて」
Coolな彼女はCoolな声で言った、全てを理解したCoolな目をしていた。
チンピラみたいな男に殴り飛ばされたBoyを庇うGirl、どうだい、仲直りついでに三段飛ばしで関係が進みそうなシーンだろ。
茶番劇? 違うね、こいつは物語のお約束、Boy,Meet,Girl、ちょっとした端役の俺、ヒロイン、ユキ。
Boyを助け起こすGirlの姿を眺めながら、俺は去っていった。後は彼女が上手くやるさ。
Fuck,Duck,Fuck,Pig,Fuck,Dog――くたばれ間抜けな俺、くたばれ卑しい俺、くたばれ下ばかり見てる俺。
調子外れのメロディに乗せて、そんな風に歌いながら。
332 名前:「品評会」Light Light Bright ◆pt5fOvhgnM 投稿日:2006/10/15(日) 22:22:14.77 ID:lYpvMson0
今なら、少しだけ彼の気持ちが分かるのです。
さっぱり理解出来ない男でした、説教をしたかと思うと部屋に連れ込んで、意味も無く私の恋人を殴りました。
恋人と言えば、結局、彼とは仲直りできませんでした。彼がしつこく問うのです、あれは誰だと、私は正直に答えます。
「LightになれないNightな男よ」
すると、彼は酷く怒って私を殴りました。思えば、詰まらない男です。
それから、私はあの店に通うようになりました。
何故だか、たった一日過ごしただけのあの男が頭から離れないのです――何故だか、忘れがたいのです。
バドワイザーを飲んでいるうちに一年が過ぎ去っていきました。
少しはアルコールに強くなりました。バドワイザー一本で酔い潰れたりしません。でも、味は良く分かりません。
私はバドワイザー程、悲しみに似合うアルコールは無いな、と思うようになりました。
尽きぬ涙のように、ただひたすらに、流し込めてしまうのです。
飲み込み、溜め込み、いつの間にか、潰れてしまうのです――それを分かりながらも、止められないのです。
余りにも軽すぎて――悲しみは、結局のところ自分自身を慰める為にあるのだと、思い知らされて。
小耳に挟んだ話ですが、彼はアメリカに渡ったそうです。
きっと、ボブの鎮魂に行ったのでしょう、今度は本当の意味で。そう、信じたいのです。彼が潰れてしまう様を、見たくは無いのです。
今日も私は、もの思いに沈みます。
そんな私の耳に、能天気な声が届くのです。
「Hey,PrettyGirll、君にこんなFuckな場所には似合わないぜ」
私は無言でバドワイザーを差し出しました。
彼は一瞬の躊躇も無くプルタブを開けます。
吹き出るバドワイザー――びしょぬれになる彼。
思い切り缶を振っていた私――ざまぁみろと舌を出します。
彼はLightな笑顔を浮かべて言いました。
「やっぱり、君は最高だ」
そんな事、百年前から知っています。
「ねぇ、ボブじゃない誰かさん、貴方の名前を教えて」
ひょっとしたら私のknightかも知れない男は新しいバドワイザーを注文しながら名前を言いました。
Boy,Meet,Girl、物語のお約束――貴方がBoyでいてくれるなら、私はGirlで構わない気がします。
実際、お酒の味の分からない、子供です。まだまだ、BrightなStoryに憧れるのです。