【 味 】
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147 名前:味 投稿日:2006/10/14(土) 18:43:20.57 ID:heYTeooH0
二十歳になり、親父と向かい合って初めて飲んだ日本酒は、苦々しさのなかにも、美味さを感じることのできる不思議な味がした。
会社の同僚と、上司の愚痴を言い合いながら飲んだビールは、驚くほど爽やかで、酔いが回るのも早かった。
彼女に指輪を渡した後、お互い照れながら一緒に飲んだワインは、ひたすら甘く、いつまでも飲んでいたいと思えた。
いつだって酒の味は、自分の心を見事なほど正確に映していた。
目の前に置いてあるこの酒は、今まで飲んだことの無いぐらい不味いだろう。
そして、最後の酒になる。
今回の相手は、銀色の光を薬指に付けた妻と、見ることのできない三人目。
小刻みに揺れている妻の肩にそっと手を置き、最後のコップに手を伸ばす。
「先に行くな」
妻の涙を拭うと、自分の気持ちも落ち着いた。
ひんやりと冷えたコップの感触が、唇に伝わる。

瞬間、二階の子供部屋から、何か物が倒れたような大きな音がした。
唇から冷たい感触が消え、気がつくと机の上にはガラスの破片が散らばっていた。
妻の肩の震えはぴたりと止まり、呆然としている。
やがて、また震え始めた。
今度は肩の震えを止める為でなく、一緒に震える為に妻を抱きしめる。
「二人で酒を飲もう。今までで一番、優しい味がするぞ」






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