【 しすたぁすとらいく 】
◆VXDElOORQI




87 名前:No.21 しすたぁすとらいく (1/4) ◇VXDElOORQI 投稿日:06/10/09 00:07:15 ID:DnpALUsd
 妹が空から降ってきた。

その日、俺は休日を部屋でゴロゴロと怠惰に過ごしていた。
「お兄ちゃーん!」
 するとどこからともなくそんな声が聞こえてきた。始めは気のせいかと思った。だが違
った。その声はだんだん近づいてきたのだ。そして部屋に轟音が響いた。
 何かが屋根を突き破り、俺の部屋に落ちてきたのだ。運良く直撃は免れたものの、部屋
の天井にはポッカリと穴が空き、そこからは空が見えた。天体観測仕様となった天井を見
て、俺は思った。
「雨降ったらどうするんだよ……」
 我ながらこの状況をまったく飲み込めてない。だが、勘弁してほしい。というかすぐこ
の状況を飲み込める人がいれば御目に掛かりたいね。もしいれば人生の師匠にしたいので
是非紹介してくれ。
「うーん」
 俺が呆然と天井を見上げていると落ちてきたものが突然うなり声を上げた。
「うおッ!」
 ビビって情けない叫び声を上げる俺。
「ひゃ!」
 その叫び声にびっくりする落ちてきたもの。
 二人してなにやってんだか。俺はおそるおそる落ちてきたものを観察してみた。どうや
ら人間の女の姿をしたなにからしい。年は中学生くらいに見える。空から降ってきたんだ
から人間ではないことは確実だ。
「あ! お兄ちゃんだ! お兄ちゃーん!」
 そいつは俺を確認すると、わけのわからないこと口走りながら俺に突っ込んできた。と
りあえず避ける俺。ふすまに突っ込む女の子の姿をしたなにか。
「いたた。酷いよ! お兄ちゃん! 折角妹が会いに来たっていうのにー!」
 そいつはふすまから抜け出すとまたわけのわからないことを言い出した。俺に妹などい
ないのは、俺が一番よく知っている。万が一いたとしても、天井ぶち破って登場する妹な
どこっちから願い下げだ。

88 名前:No.21 しすたぁすとらいく (2/4) ◇VXDElOORQI 投稿日:06/10/09 00:07:25 ID:DnpALUsd
 とりあえず警察だな。俺は携帯を取り出し、番号をプッシュした。
『事件ですか? 事故ですか?』
「事件です」
 俺がそう言った瞬間、自称妹が俺の手から携帯を奪い取り、力任せに真っ二つに折ってしまった。
「通報しちゃダメッ!」
「はい、すいません」
 こっちまで真っ二つにされそうな勢いだったので、素直に謝る俺。
「ちょっと座りなさい。今から事情を説明します」
 バンバンと床を叩いて言う自称妹。俺は真っ二つにされたくないので言われるがままそ
の場に座る。
そして自称妹は語りだした。自分は天国から来たこと。交通事故で母親の体の中に居る
うちに死んでしまったこと。ここに来たのは俺に会うため。そのために厳しい試練に乗り
越えてきたこと。
「と、言うわけなのです」
 確かに俺の両親は交通事故で死んだ。そしてその時、母さんは妊娠していた。だが、証
拠もなしにこんな電波なことを信じるわけにはいかない。
「お前が俺の妹だって証拠はあるのかよ」
「良くぞ聞いてくれました! あるよあるよ。とっときのがあるよ」
 そういうと自称妹はゴソゴソとポケットを探る。そして出してきたのが一枚の紙切れ。
「じゃーん! DNA鑑定書ー!」
 なんて俗物的なものを。天国から来たならもっとそれっぽいもの出せよ。
「だってこれが一番確実だよ?」
 いやまあ確かにそうだけどさ。
 その鑑定書には確かに俺とこいつは血が繋がっていると書いてある。そして某有名大学
の名前もきっちり書かれてあったし、教授らしく人の名前も書かれていた。幸い家には固
定電話があったからそれで、確認のため大学に電話をかけた。



89 名前:No.21 しすたぁすとらいく (3/4) ◇VXDElOORQI 投稿日:06/10/09 00:07:39 ID:DnpALUsd
 話が終わり俺は静かに受話器を置いた。
「お前、本当に俺の妹なのか?」
「うん!」
 にわかには信じがたいが、確かに大学の教授も兄妹だって言っていたし、信じるしかな
いのか。偉い人に言われると信じちゃうのっていかにも日本人体質だな。俺って。
「で、お前はなにのために来たわけ?」
「お兄ちゃんに会うため!」
「それだけ?」
「それだけ」
 妹の目的が俺に会うためとは。なんか嬉しいな。
「そういえば厳しい試練とか言ってたけどそれってなんなの?」
「良くぞ聞いてくれました!」
 妹はまたゴソゴソとポケットを漁ると、また一枚の紙を出してきた。
「じゃーん! 現世に行くためのポイントカード!」
 そう言って妹が取り出しのは、夏休みのラジオ体操のときに使うような安っぽい破れた紙のポイントカードだった。そこにはクマさんマークの判子が一つだけ押されていた。
「これ貯めるの大変なんだよー。一杯にするのに十四年もかかっちゃったんだから」
 妹は胸を張ってそう言った。
「あのさ、判子一つしか押されてないんだけど。しかも破れているし」
「え? ああ!」
 妹はそのことを確認するとその場に崩れ落ちた。
「お、おい。どうしたんだ」
「もう……時間切れみたい」
 顔を上げた妹は今にも泣きそうな顔をしていた。
「時間切れって。来たばっかじゃないか。もっとゆっくりしていけよ。な?」
「ダメなの。時間が経つとこの判子が一つずつ消えていくんだけど、破れてほとんど無く
なっちゃみたい。だからもう時間切れ」
 そう言うと妹の体はだんだん薄くなって、その存在感をなくしていった。
「お兄ちゃん、最後のお願い。ギュって……して」
 俺は言われるがままに妹の体を抱きしめた。
「ありがと。お兄ちゃん」


90 名前:No.21 しすたぁすとらいく (4/4完) ◇VXDElOORQI 投稿日:06/10/09 00:07:55 ID:DnpALUsd
 その言葉を最後に妹は消えた。俺の腕はただ虚しく空を抱くだけだった。

 あれから一年が経った。空を見るたびいつも思う。また妹が降ってくるんじゃないかと。
「また十四年したら会えるのかな」
 そんなことを考えながら俺は空を見ながら歩く。すると空から誰かの声が聞こえてきた。
「お兄ちゃーん! まったきったよー!」

おしまい



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