【 童話 】
◆sTg068oL4U




64 名前:No.16 童話 (1/4) ◇sTg068oL4U 投稿日:06/10/08 17:43:52 ID:ErZeUIuu
ひさしくんはお母さんにもらったピカピカの十円玉を、つくえのひきだしにしまおうとしました。
「うあぁ、なんだこれ!」
ひきだしの中はすみからすみまで、むらさきいろのゼリーのようなものでみたされていました。
おそるおそるひきだしの中に手を入れてみると、ずぶずぶ手が入ります。てざわりはどろみたいです。
そしてゼリーは、ひきだしのふかさよりも、もっともっとおくまで入っているようです。
「どこまで続いているのかな?」
そこでひさしくんは、だいじな十年玉を中に入れてみました。
十円玉はずっとおくまでしずんで、とれなくなってしまいました。おつむのよわい子ですね。

※「おつむ」がわからないおともだちは、お母さんにきいてみましょう。

つぎの日、ひさしくんの通う小学校のこうていに、たくさんの十円玉がふってきました。
「月明かりにてらされて金色のゆきみてえだったぜ。それもひとばん中ふり続いて山ができたよ。
あいぼうはこうていに出て行って十円玉にうもれちまったよ。こうしゃより高くつもったもんな。
ネコババ? しねえしねえ。コチトラ落ちぶれても、うちゅう大王さま一の子分だぜ」
と、冬の間だけプールのこういしつに住むおじさんは、そのときのようすを話してくれました。

(あのピカピカの十円玉はきっとぼくのものだ、きっとあのゼリーの中でいっぱいにふえたんだ)
と、ひさしくんは考えました。でもりゆうは、よくわかりません。
今度はひきだしに、おやつのおまんじゅうを入れてみました。
(今日おやつがたべられなくても、あしたから毎日おまんじゅうがたべられる……)
つぎの日、こうていにおまんじゅうの山ができていました。
しかし子どもたちが近づくと、きものをきたおとなたちに、おいかえされてしまいます。
「これはあみだにょらいのおつげじゃ! むやみにちかづいてはならん!」
きものをきたおとなたちは、おまわりさんとけんかしながら、まんじゅうの山をかためてだいぶつを作りました。


65 名前:No.16 童話 (2/4) ◇sTg068oL4U 投稿日:06/10/08 17:44:08 ID:ErZeUIuu
しかしそのだいぶつも町中からきたアリにたべられてしまい、きものをきたおとなとおまわりさんはかえっていきました。

※「あみだにょらい」「おつげ」「むやみ」をしらないおともだちは、お母さんにきいてみましょう。

(ぼくがひきだしにものをいれると、おとなたちがおおさわぎする。おもしろくなってきたぞ!)
ひさしくんはじぶんがかみさまになったようなきぶんでした。
「今度はミカちゃんちのネコをいれてみよう」
ひさしくんはミカちゃんちのミーコをゼリーの中にうめました。
少しくらいひっかかれても、今のひさしくんはかみさまだからへっちゃらです。
つぎの日、こうていにいるはずだったたくさんのミーコは、町中をあらしまわっていました。
十円玉やおまんじゅうとちがって、ネコは落ちてきたあと、じっとしてるわけないですよね。
ネコはさかなやさんやおにくやさんをおそい、となりのやまぐちさんがかっているインコをたべ、
まちからネズミやトリがいなくなってしまいました。町はだいこんらんです。
そこでハーメルンからふえふきがやってきて、ネコをぜんぶ池にしずめてくれました。
町長さんはものしりだったので、男にいちおくまんえんものウラガネをしはらい、
町にはふたたびへいわがおとずれました。

※「ハーメルンのふえふき男」をしらないおともだちは、としょしつで本をたくさんよみましょうね。

「ミーコがしんじゃったよぅ……」
ミカちゃんがあんまりなくので、ひさしくんはわるいことをしたなとおもいました。
「ねえミカちゃん、家にゼリーのおふろがあるんだけど、入ってみない?」
ひさしくんは『おふろがだいすきなミカちゃんなら、ひきだしのゼリーに入るとよろこぶだろう』
と思ったのです。
「ゼリーのおふろなの! おもしろい、いこう!」
とさっきのなみだはどこへやら、ミカちゃんはよろこんでついてきました。
にんげんのほんしつは、いくつになっても変わりませんね。

※「にんげんのほんしつ」をしらないおともだちは、お母さんにきいてこまらせてはいけませんよ。


66 名前:No.16 童話 (3/4) ◇sTg068oL4U 投稿日:06/10/08 17:44:19 ID:ErZeUIuu
ミカちゃんとひさしくんは、ひきだしのゼリーのなかへとびこみました。
「つめたい……」
「その内あったまるからまってて」
さしくんはだいじなことをわすれていました。あしがつかないのです。ふたりはゼリーの中へしずんでいきました。

ゼリーをぬけるとふたりはそらのうえにいました。
こうしゃや、こうていや、たいいくかんが、とても小さくみえます。
それらがすごいスピードで、ぐんぐん足もとにせまってきます。
「キャー!」「うあぁぁ!!」
たくさんのひさしくんとミカちゃんは、地面におりたつしゅんかん、どうじにさけびました。
そのしょうげきで、こうしゃのまどガラスをぜんぶわってしまいました。十年はやいですね。
でもひさしくんとミカちゃんはきれいにちゃくちして、ケガひとつしませんでした。

こうていいっぱいにふえたひさしくんとミカちゃんをだれがそだてるのか、おとなたちは何日も話しあいました。
町長さんは、このはなしあいがもとであんさつされました。
しかし、このくにには「しょうしか」というだいもんだいがあったので、
町のそとにすむおとなたちは、あまり気にしませんでした。このくにのしょうらいはあんたいですね。

※「あんさつ」「しょうしか」「あんたい」をしらないおともだちは、おかあさんにきいてみましょう。
ちゃんとせつめいしてくれなくても、がっかりしてはいけませんよ。

67 名前:No.16 童話 (4/4完) ◇sTg068oL4U 投稿日:06/10/08 17:44:34 ID:ErZeUIuu
「貴様もあのゼリーの正体が気になるのか!」
昔読んだ本の作者に、偶然入った立ち飲み屋で居合わせた。
昔童話作家だったとは思えない、くたびれた風貌の爺さんだった。
「貴様等読者は一から十まで理解できないと満足できねぇのか!
“なんで落下してけがしなかったのか?”
“なんでゼリーに物を落とすと増えるのか?”
“十円玉や饅頭は山になるくらい降ったのに、子どもたちが押しつぶされないのはおかしい”
“ハーメルンの笛吹男が猫退治するのはおかいしだろ”
重箱の隅を突ついて評論家気取りか!異常を異常として楽しめないのか、え?」
「いや、引っかかったんです。子どもの頃はそんな言葉知らなかったんですけど、矛盾に……」
「おれはなあ、大人の下らない屁理屈から自由になれると思って童話作家に転向したんだ。
ところがどうだ、餓鬼こそ矛盾に五月蠅いときてやがる。
それどころか大人まで“この話には教訓がない”とか言いやがる。
物語を解剖して深読みして、これは○○を象徴しているだの言えるのが素晴らしい作品の条件か?
馬鹿を言うな!何でも意味を読みとろうとするさもしい根性がな、今の読書離れを招いているんだよ!
世界の異常を異常として楽しめ、それでいいだろ!」
作家のコップが小刻みに震えている。アル中の所為だけではないだろう。
「教訓の話はさっき聞きましたよ。とりあえず話を矛盾に絞りましょう……」
元作家の小説論は数時間続いた。しかし同じ話の繰り返しなので、これ以上記すことは無い。

小説の面白さが、有用さ意外な結末という陳腐なものに無いことは、私も理解している。
しかし今改めて氏の作品を読み返してみても、引きつけられる物が何もない。
“何だか解らないけど兎に角ゾクゾクする”、そうした気迫を作品から感じ取れない。
悪いことに、取って付けたようなオチや中途半端な風刺まである。
氏自身、自らの作家論に背いてきたのだ。自らの力量の無さを棚に上げ、読者批判に逃げたのだ。
彼にもっと才能があれば、理想の物語を形に出来たのだろうか、根気よく文章に向き合えばもしや……

不精髭の男の姿が、頭から離れない。

終わり



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