361 名前:励ましたい 1/3 ◆ElgkDF.wBQ 投稿日:2006/10/07(土) 20:48:36.83 ID:R2wV6tGm0
私……もう……どうしよう……耐えられないかも……
沢山いた仲間達は、いつの間にか少しずついなくなった。
今日、少し目を離したすきに、とうとうお兄ちゃんまでがいなくなってしまった。
みんなで一緒に励ましあってやってきたのに、みんなどこに行ってしまったんだろう。
ここ数年、毎日の配給は少なくなり、一日二回は水攻めにされ、棒で叩かれる。
ここから逃げ出したいと何度も思った。
けれど生まれた時から足先がしっかりと地面の中に埋められていて、何度試しても引き抜くことはできなかった。
周りの仲間達が少しずついなくなっていくのを見て、お兄ちゃんと話し合った結果、みんな逃げ出している
のではないかという話に行きついた。
足元がもう少しぬかるんできたら一緒に逃げ出そうと、お兄ちゃんと話し合ったばかりだったのに、お兄ちゃん
は私を置いて逃げ出してしまったのだろうか。いや、きっとお兄ちゃんは私を助けに来てくれるはず。
バッシャーン、パシャッ、パシャッ!
あっ、ぐふっ、あふっ、はぁはぁ……はぁ……また水攻めが始まった。
水攻めの後は、太い棒で叩かれる!
バシッ、バシッ、バシッ、バシッ、バシッ、バシッ!
痛いっ、痛いっ、痛い、助けてお兄ちゃーん!
気を失いそうになる。
棒で叩かれた後は必ず、地面が固くなっていくようで足先がキリキリと締め付けられる。
お兄ちゃん、どこに行っちゃったの――
363 名前:励ましたい 2/3 ◆ElgkDF.wBQ 投稿日:2006/10/07(土) 20:49:57.30 ID:R2wV6tGm0
――お兄ちゃんがいなくなってひと月が経った。
お兄ちゃんが私を助けに来てくれることはなく、周りの仲間達も日に日にいなくなり、とうとう私一人になって
しまった。
一人になった私は、前よりも酷くなった水攻めと太い棒での拷問に毎日泣き暮らしていた。
ある朝、気がつくと足元がゆるくなっていた。
私は力の限り足をひっぱりあげた。
スルッ
意外なほどあっさりと足は抜けた。
私は立ち上がってみた。
ツルッ
えっ? なにっ? 私すべった? あっ、あっ、あぁぁぁぁー!
足元はツルツルの斜面になっていた。足を滑らせた私は、ひっかかりのない斜面を滑り落ちていき、斜面の端
から空中に放り出された。
フワリ……フワリ……
え? 私、風に乗ってる! 気持ちいいー。
私は、ふわふわと何もない空間を落ちていった。
ストン。
着地成功。あっ、でも待って、何かが迫ってくる、待って、待って、何、何なのよー!
364 名前:励ましたい 3/3 ◆ElgkDF.wBQ 投稿日:2006/10/07(土) 20:50:55.85 ID:R2wV6tGm0
「あああああぁぁぁーー! 明子、明子、見てくれっ! 俺の、俺の、俺の……うっ……ううぅ……俺の最後の
一本がっ! 無いっ、無いっ、どこだ、どこだ、どこだ。あぁ、こんな所に落ちてやがった……うっううう…
ちくしょー、ちくしょー、毎日あんなに養毛剤をつけてたっていうのに抜けるなんて……うっうう……」
男はそういうと床に落ちていた髪の毛を拾い上げた。
台所にいた明子と呼ばれた女が洗面所に現れた。男の親指と人差し指の間の一本の髪の毛を見て言った。
「マサル君のお・バ・カ・さ・んっ!」
明子は、マサルの額なのか頭なのか区別がつかないツルツルしたところにチュッとキスをしながら続けた。
「マサル君の髪の毛がなくなったって、私はマサル君の事ずーっと愛してるわよ。だからもう泣かないで。私はマサル
君の見た目なんかじゃなくって、ハートに惹かれたんですもの。だから、こんなのはなくってもへ・い・き・な・の」
明子は、先ほどマサルが拾った最後の一本を取り上げ、ポイッとゴミ箱に捨てた。
ゴミ箱に落ちていく髪の毛の方からキャーという微かな声が聞こえるわけもなく、洗面台の鏡の中には、マサルと
呼ばれた禿げた男とそのおでこにキスしている明子、そして養毛剤とブラシが仲良く映っていた。