【 Not End But Fall 】
◆daFVkGT71A




207 名前:Not End But Fall ◆daFVkGT71A 投稿日:2006/10/07(土) 10:14:48.55 ID:6Cq+Z+7X0
 ハァ……ハァ……ちくしょう…………
一体どうなってるんだ……何かがおかしい……何かが狂ってる――――




「朝か……今日も寒いな……」
裕一は外を見ながらつぶやいた。空はまだ暗さが残っている。日の出が遅い。
ここ数日、前までの暑さが嘘のようにすっかり冷え込んでいる。特に朝などは思わず身震いをするほどだ。
さらに昨晩は虫がうるさくなかなか寝付けなかった。
「もうすっかり秋になったんだな……」
そんなことを考えながら学校へ行く支度をする。高校の制服も夏服から冬服へと変わった。
いくら朝が寒くても日中はまだまだ暑く、冬服になるのは早いような気がした。

 階段を下りると、ちょうど母が朝食の準備をしているところだった。
「おはよう」
「おはよう。あら、今日は早いじゃない」母が時計を見ながら答えた。
時刻は午前六時。確かにいつもより一時間近く早い。
「まだ眠いんだけどなぁ……」どうしてこんなに早く目が覚めたんだろう。
「朝ごはん、できたわよ」

 朝食を食べ、家を出た。
家から高校までは自転車で三十分程度だ。軽い運動にはちょうどいい。
朝早くに家を出たので通学路にはほとんど人がいなかった。
目が覚めたときは寒かったが、冬服のおかげか今は朝の涼しい空気が心地よかった。

208 名前:Not End But Fall ◆daFVkGT71A 投稿日:2006/10/07(土) 10:15:19.78 ID:6Cq+Z+7X0
 学校に着き、自転車を置きに行く。
いつもよりかなり早い時間。自転車置き場に着いて裕一は少し驚いた。
自転車が一台もない。いくら早いといっても七時前だ。まだ誰も来ていないというのはおかしい。
「今日って休みだったか? どちらにしても部活がないのは変だな」
不安に思いつつもとりあえず教室に行ってみる。
三階の一番端が裕一の教室だ。ところがそこに行くまでにも不安はつのった。
「どうしてどの教室も誰も居ないんだ……」
明らかにおかしい。自分の教室に着くまでに人を一人も見かけなかった。
そして当然のように自分の教室にも誰も居ない。
とりあえず教室で誰かが来るのを待っていよう。そう思い、ドアに手をかける。

「鍵が開いていない……なぜ……」
鍵は事務の人が開けることになっている。事務の人は毎日早朝に来ているはずだ。
「まさか、まだ誰も来ていないのか?」
急に不安がこみ上げてきた。とりあえず職員室や事務室に行ってみよう。


――誰もいない

 どう考えても異常だった。
もうすでに七時半が来ている。教室や職員室、果ては事務室までも誰もいないなんておかしい。
休みの日ですら誰かしらはいるのが普通だ。ましてや今日は平日。誰もいないなんて考えられない。
「もう……帰ろう…………」
裕一はすでにこの不安に耐えられなくなっていた。
休みだったということにでもして早く帰りたかった。

209 名前:Not End But Fall ◆daFVkGT71A 投稿日:2006/10/07(土) 10:15:50.76 ID:6Cq+Z+7X0
 ところがそれは不可能だった。
「なんで開かないんだよ!」
校舎の出入り口がすべて閉まっており、開かなかったのだ。
「一体、どうなってるんだよ…………どうして出られないんだよ!」
もう耐えられない。なんとしてでもここから出たい。
いまや裕一の願いはそれだけだった。しかし無情にも扉はまったく開く気配を見せなかった。

ガタッ

 そのとき、上の階で何かが動く音がした。
裕一には『少なくとも人ではない何か』がいることが分かった。その音には人の気配というものがなかった。
「なんだ……今の音……」
パニックになっていた心が急激に冷め、代わりに一気に恐怖心が流れ込んできた。
「なんなんだよ…………」
この状況は完全に日常から脱線していた。ただ、自分の身が危険に晒されていることは分かった。
ヤバイ……逃げなきゃ……
音はできるだけ立てたくなかった。できれば『奴』に気づかれないようにしたかった。

ガタガタ、ガリッ

 あの音はもう頻繁に聞こえるようになっていた。さらにその音は前と違い、ハッキリ聞き取れる。
「窓から外に出よう。そして一気に走ってこの学校から逃げよう」
とりあえず近くのトイレに入った。ここには窓があるはずだ。
「あった」
だがその窓すらも開かなかった。
鍵を開けても力いっぱい引いてもびくともしない。

210 名前:Not End But Fall ◆daFVkGT71A 投稿日:2006/10/07(土) 10:16:36.94 ID:6Cq+Z+7X0
「クソッ……なんで……」
こうなったらもう苦肉の策だ。窓を割って逃げるしかない。
今はここから逃げ出すのが先決だ。
「オラァァァ!」
近くにあったブラシを持ち、窓に思いっきり叩きつける。
ガンッ
鈍い音がしてまったく割れる気配はない。
「チクショウッ! どうなってんだよ!」
ガンッ! ガンッ!
何度か叩きつけたが、傷ひとつ付いていない。
「ハァ……ハァ……」
ここは強化ガラスにはなっていない……明らかに何かの力が働いている

そのときあの音がすぐ近くで聞こえた。
トイレから音のしたほうをゆっくりと覗き見ると『奴』の姿が見えた。それはおおよそ人とは思えないものだった。
四足歩行で大きさは二メートル近くあり、体毛はなく真っ赤、グロテスクな容貌だった。
「アレは……なんなんだよ……あんなの見たことねぇぞ……」
恐怖が胸を押し潰しそうになる。
とにかくここにいたら確実に見つかる。隙を見計らってここから出ないと。
『奴』は、さっきの音を聞いてここに来たらしかった。しきりに周囲を見回している。俺を探しているんだろう。
奴が視界から消えた。

今だ!!

トイレを飛び出し、階段を上る。
『奴』はすぐに気づき、俺を追ってきた。
予想以上に速く、全速力で走っても追いつかれそうになる。

 ハァ……ハァ……ちくしょう…………
一体どうなってるんだ……何かがおかしい……何かが狂ってる――――

211 名前:Not End But Fall ◆daFVkGT71A 投稿日:2006/10/07(土) 10:17:24.34 ID:6Cq+Z+7X0
もう『奴』と俺との距離は三メートルもなかった。
やばい……追いつかれる……
屋上のドアが見えた。
これが開いていることに賭けるしかない。すぐ後ろに『奴』がいる。もう戻れない。

バタンッ
屋上のドアは開いていたがどちらにしろ袋の鼠だった。
ここまで何も考えずに逃げてきた。それが間違いだった……

ジリジリと追い詰められる。
『奴』の目を見ると嬉々としているのがわかる。
「もう……これで死ぬのかよ……こんなわけの分からない奴に殺されて……」

チクショウ、それだけは嫌だ――――

金網を登る。『奴』は俺が何をしようとしているのか分かったのか、一気に距離を縮めた。
だがもう遅い。俺は『奴』と金網を隔てて完全に向こう側にいる。
『奴』は悔しそうだった。
なぜかは分からない。そもそもなぜこんなことになったのかすら分からないのだ。

足を踏み出す。後は重力が勝手に俺を引っ張ってくれる。
短い、人生。




ドスンッ
「痛っ!!」
目の前には……ベッドが見える。
「落ちたのか…………」



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