【 乗車権 】
◆qwEN5QNa5M




66 名前:乗車権 ◆qwEN5QNa5M 投稿日:2006/10/01(日) 23:14:18.46 ID:WBkX0Lav0
俺の目の前には、右と左に扉が一つずつある。
扉が開けば、この空間とイライラから解放される。
しかし、こちらから扉を開けることは出来ない。
そのため、待つしかないのだ。
エレベーターと、扉が開くのを。

ここは二階。
待っているのは俺だけではなく、
六十歳くらいのしっかりした男が一人いた。
男は扉とは反対側の壁に寄っかかっていた。
しばらく待っていると、男が俺に話しかけてきた。
「右と左の扉、どちらが先に開くか賭けないか?」
「いいですね。じゃあ俺は右で」
「じゃあ私は左だな」
「でも何を賭けるんですか?」

「今一番欲しいもの、かな」

交渉が終了すると、俺と男の二人は無言で扉が開くのを待っていた。
そういえば、この男の今一番欲しいものってなんなんだろう。
寿命とかか。 ないない。
まさかマッサージ機とか? そんな高い物買えるかよ。
もしかして俺とんでもない事に挑戦してるのかもしれない。
後ろ向きな考えをしている間に十数秒が経つ。

さて、そろそろ来てもいい頃だ。
と考えた次の瞬間。

「ピーンポーン!」

67 名前:乗車権2/2 ◆qwEN5QNa5M 投稿日:2006/10/01(日) 23:14:53.46 ID:WBkX0Lav0
部屋に音が響き渡る。
そのすぐ後に扉が開いた。

左の。

俺はこの賭けに負けてしまった。
結局、この男の望むものとはなんだったんだろう。
というか、俺はどうなってしまうんだろう。
「私の勝ちみたいだね」
男は俺に言ってきた。
「ですね…………」
とりあえず俺はエレベーターに乗り、続いて男が乗った。

しかし、男が乗った瞬間だった。
「ブーッ!!」

ブザーが鳴った。
実際に聞いたことは無かったが、定員オーバーの合図である事は分かる。
乗客の全員が静まり返る。
そして男は俺に言った。
「今、私が欲しいのはこのエレベーターの搭乗権、とでも言おうか」
「…………」

俺はエレベーターから降りた。
エレベーターの扉は、落胆している俺を嘲笑うかのように閉まっていった。
「もう使わねーからな!」
俺はエレベーターを背に、八階まで行く事にした。

エスカレーターで。



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