【 夢物語 】
◆8vvmZ1F6dQ




915 名前:品評会作品「夢物語」 ◆8vvmZ1F6dQ 投稿日:2006/10/01(日) 19:48:53.74 ID:QozN0Hjv0
僕はある夢を見た。
海を泳ぐ大きな白い鯨の夢を。
周りの魚は彼のために道を明ける。彼の通ったあとはぐるぐると白い渦が巻く。
彼は渦から、海の子供たちが産まれていることには気付かない。
ふいに海面まで彼は上昇すると、潮を澄んだ空に向かって噴き上げる。
虹の輪が、ふんわりと浮かぶ。虹の輪の中を、つられて跳ねた魚と、雲が流れていく。
僕は夢の中で最初、彼の背中の一部だった。目の前をごぽごぽと音を立てて泡が流れてゆき、
青い空が僕の視界を包み、虹が宙を舞った。ふたたび彼が海に戻るまでに、僕は雲になっていた。
ここでハッと目が覚めた。僕は布団から飛び起きると、すぐに服に着替えた。
海を自由に跳ね回り、どこかへ冒険していく白鯨を、探す旅に出ようと思った。
が、現実は夢ではない。
自由な夢のあと、つい、開くのではないか、と思ってしまうのが僕の悪いところだ。
外へと繋がる唯一の扉は、僕が生まれたときから、ずっと開かない。
やっぱり、今日も、揺らそうが叩こうが、開こうともしなかった。
現実は不自由だ。

今日も白鯨は泳ぎ続ける。
体の中に夢を見る子供を乗せたまま。
子供にはまだ開く事ができない扉を、抱えたまま。

おわり



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