689 名前:「一種病的な」1/2 ◆yzmb2eMBHA 投稿日:2006/10/01(日) 05:57:07.84 ID:t1Mnw+Y80
三ヶ月前は六人、その前は十三人、半年前は二十人超。更に遡ると一クラスの総よりも多くなる時がある。全て扉を開けた人達。
いい傾向だと思った。もちろん自分にとってもだが。このまま失業してしまいたいくらいだ。
本当に嫌な仕事だと思う。おかしな人間ばかり。これは客観的に観ての話。傍から観ても異常だろう。
例えば――
「もう駄目なんです」
何の説明もなしにそう言った目前の少年。薄着。
夏だから仕方が無いといえばそうなのだが、腕にある踏み荒らされたように生々しい傷跡は隠して欲しい。
「……確認ですが、もう解決等はできないんですね?」
目に見えて閉口している。解決云々ではなく本当に駄目なのだろう。
「念のために聞きます……どうしてもですね? 後悔しても知りませんよ?」
真剣な眼差しで肯定の仕草を見せる。
「じゃあ行ってください。扉がありますが、そこです。私が開けるので、それまでよく考えてください」
最後にもう一度、意思確認するので一度冷静になってもらう。
明らかに不信な顔。私だって半狂人相手は嫌だ。
戸惑いながら背中を見せる。良かった。
不安気にこちらを窺いながら歩いて行った。その捨てられた猫の目は止めて欲しい。諸悪は私にあるといつも思ってしまう。
別室に向かう途中、同僚に遭遇した。
先ほどの少年の事を聞かれた。
「今回はどうだった?」
「駄目なんだってさ。死んだ方がマシとまで。こっちが参る」
目に見えて面白そうだった。私の不機嫌な表情も笑いを誘っているのかもしれない。数分の立ち話だったが終始可笑しそうだった。
690 名前:「一種病的な」2/2 ◆yzmb2eMBHA 投稿日:2006/10/01(日) 05:58:15.02 ID:t1Mnw+Y80
「そんなに嫌か。しかし土壇場で考えを改めるかもしれないぞ」
「いや、扉は開けなければいけないだろうな。ただ今回は考えがあるんだ。……聞いてみたいと思ってね」
口元は依然引き締まっていない。多分慎む気はないのだろう。
「へぇ……理由をか?」
「そう。彼らはなんであそこまで必死なのかね」
そう私が言うと踵の方向を変えた。
数歩進むと、ふと思い出した様に言った。
「最近はあの手の輩も減っているが……今月は何人だと思うかね」
五人程度だと考えていたが答えなかった。
油性ペンで落書きされた扉を開ける。
モニターで扉の前に佇んでいる少年を確認して、マイクに話しかけた。
「最後です。……本当にいいんですか?」
「もう駄目なんだ! 早くしてくれ!」
「しかし……もう一度よく考えたほうがいいのでは?」
「もう無理なんだ……この、この扉を早く開けてくれ……」
「……わかりました。では中に人がいるので引き渡してください」
安堵した表情。本当に限界だったことが見て取れる。
「あの……一つ聞いてもいいですか?」
「ええどうぞ」
「なんでそこまで猫を捨てたがるんです?」
了