【 開かない扉 】
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386 名前:開かない扉 1/2 投稿日:2006/09/30(土) 15:28:40.05 ID:uYbwJUjV0
「開かない扉」

 彼は扉の向こうへ行きたかった。が、行ける事は決してなかった。


 I.ロバートは鏡の向こう側の世界に行きたかった。
 小さなころから、もうひとつの世界へ興味を持ち、一日中鏡を見ていることも少なく
なかった。
 それは成長しても直ることはなかった。むしろ日に日にひどくなっているようだった。
 周りから変人扱いされても、彼の行動は直らず、親しい友人に説得されても、頑とし
て譲らなかった。どころか、遂には”向こう側へ行く方法”の研究まで始めてしまった。

 やがて、遂に彼は向こう側へ行く手段を手に入れた。いや、自らの手で作り上げたと
いった方が正しいだろう。ついに、ついに向こう側へ行く術を手にしたのだ。

 それは一見ただの扉だった。どこから見ても、壁についている、何の変哲もない、緑
入りの扉だった。薄汚れた真鍮のノブ、高さ、幅、蝶番にいたるまで不思議なものは見
つからない。しかし、それだけが、彼が手に入れた、唯一の向こう側へ行くための手段
だった。
 ロバートはノブに手を掛けた。が回らない。何度やっても回らないし、ビクともしな
い。かといって壊すことも出来ない。何度も何度も、何年も何年も、彼はノブを回し、
扉を押し続けた。しかし彼が生きている間、遂に扉は開かなかった。
 考えればわかることだ。こちらから押しているならば、鏡の向こう側の自分も、また
同じようにノブを回し、扉を回しているのだ。




387 名前:開かない扉 2/2 投稿日:2006/09/30(土) 15:33:22.63 ID:uYbwJUjV0
 彼の死後、親類の子供たちが扉を壊してみた。なんのことはない。向こうから押せな
いなら同時に壊してしまえばいいのだ。蚤で削っていけば、やがて向こう側が見えるは
ずである。
 少しずつではあるが、確実に子供たちは扉を削っていき、遂に扉に穴が開いた。そし
てその扉の向こうには........

割れた鏡と壊れた壁だけがあった。



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