【 イフタフ・ヤー・シムシム 】
◆3IAtiToS4.




292 名前:品評会作品『イフタフ・ヤー・シムシム』 ◆3IAtiToS4. 投稿日:2006/09/30(土) 05:32:11.47 ID:6auJExRE0
 人生に立ちはだかる苦難を『壁』に例える人がいる。
 私の場合、それは『扉』だ。ちょっとしたカギさえ開けれれば
簡単に先に進むことのできる、その程度のものだ。私の人生には
手持ちの鍵束から目の前の扉に合うカギを探し出せばいいだけの
苦労しかなかった。
 順風満帆と人から言われる、そんな私の人生も今では過去の話。
私は今、どんな鍵も合わない厄介な扉の前にいる。
 その頑固な扉は、随分と前から私の近くにあった。それは私の
人生に立ちはだかるそぶりさえ見せなかったので、気が向いたら
開けてみようと思い、あえて手はつけないでおいていた。
 一ヶ月前、ちょっとしたいたずら心でその扉を開けてみようと
思った。そして悪戦苦闘も虚しく、今に至るというわけだ。
 私はもう諦めかけている。私は内心で、どうせこの扉を開けた
ところで、他の扉と同じようにその先にはなにもないと思っている
からだ。
 正直に言うと、人生に対する最後の希望をこの扉の先に託して
いた。この扉は通過点なんかではなく、その先にはきっと明るい
未来が待っているだろう、と。
 でも、もう十分だ。この扉が開こうが開くまいが、私の人生は
つまらないもので終わるに違いない。だから告げよう、この扉に
別れの言葉を。
 「貴方のことはまだ愛している。でも、もうこれ以上一方通行
 の恋愛はしていたくない。だから、さよなら」
 次の瞬間、私の耳に鍵が外れる音が聞えた。
 どれほど強く押してもびくともしなかった扉は、立ち去ろうとする
私を抱き留めるように大きく開かれた。まるで別れの言葉が扉を開く
おまじないであったかのように。
 扉の先は光で溢れていた。その温もりには、確かに明るい未来の
予感がした。
                                 おわり



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