【 おやすみ 】
◆VXDElOORQI




917 名前:おやすみ(1/2) ◆VXDElOORQI 投稿日:2006/09/24(日) 23:17:44.47 ID:aO8M3sDa0
 朝、目覚めた俺は自分の布団の中に異物があることに気付いた。
 ガバッと布団をめくるとそこには、なんと!
 妹が猫のように丸くなって寝ていた。
「おい。起きろ。なんでここで寝てるんだ」
 声をかけても妹は一向に起きない。それどころか。
「うぅー。寒いよぉ」
 などと言いながら、俺の体に抱きついてくるではないか。
「おい! なにしてんだよ! 離れろ!」
 妹を引き離そうとするが、妹はさらに力を込めて俺に抱きついてきた。
「お兄ちゃん、あったかい」
 『そいつはよかったな』などと微笑みを浮かべながら言ってやれるほど、人間出来ていないんだよ。
 それに今日はこいつにかまってる暇はない。なんせ今日は彼女と初デートの日なんだからな。
「な、なにッ!」
 俺は驚きのあまり思わずそんな声を上げてしまった。
 不意に目に入って壁掛け時計を見ると待ち合わせ時間二十分前ではないか。なんで目覚めしが鳴らなかったんだ。
 枕元の目覚まし時計は見ると、何かで叩き壊され見るも無残な姿になっていた。
 妹のやつめ。やってくれたな。
 いや、今は目覚まし時計はどうでもいい。それよりさっさとこいつを引き剥がさないと遅刻してしまう。
「おい、いい加減離れろって!」
 妹はまったく俺を離す気配がない。
「俺、今日デートなんだよ! 遅刻するから離してくれ!」
 妹は俺の言葉を無視してさらに力を込めて、俺に抱きついてくる。
「……デート楽しみだなー」
「うーん」
 『デート』という言葉に反応して、妹は足まで絡まして俺が起きるのを阻止する。
 俺は確信したね。妹! 貴様! 起きているなッ!
「妹よ。もうネタは上がってるんだ。おとなしく起きろ」
「んー。お兄ちゃーん」
「寝言で誤魔化してもダメだ」
 そう言うと妹は諦めたのか、やっと俺の体を離して、身を起した。

918 名前:おやすみ(2/2) ◆VXDElOORQI 投稿日:2006/09/24(日) 23:18:29.54 ID:aO8M3sDa0
「んーお兄ちゃん。おはよー。どうして私のお布団にいるのー?」
「いや、それこっちのセリフ。なんでお前が俺の布団で寝てるんだよ」
「あれ? ここはお兄ちゃんのお部屋……。はっ! お兄ちゃん! いくら私が可愛いからって!」
 もはや突っ込む気も起きんわ。
「と、とにかく。俺は今日デートだからお前と遊んでる暇はないんだよ」
「知ってる。だからこうやって邪魔してたんだもん」
 あっさり暴露するね。そんなことだろうと思ったよ。
「お兄ちゃーん。デートなら私がしてあげるから行くのやめてよー。今日は私とデートしよ。ね?」
 お前とデートして何が楽しんだよ。アホか。
「いいや! 俺は彼女とのデートに行くね!」
 俺は妹の提案の一蹴して着替えを始める。妹のことなぞ気にしてたら一生デートなんていけないからな。
「本当に行くの?」
「ああ」
 我が妹ながらしつこいね。どうも。
「そう……なんだ」
 なんか急にしおらしい声出してやがる。嘘泣きは妹の常套手段。俺はそんな手には乗らないぞ。
 よし。着替え終了。時間ないから朝飯は抜いてっと。あとは洗顔と整髪と歯磨きだな。時間ねえよ。超特急でしないと。
 その時。不意に後ろから不穏な空気を感じた。また妹が何か企んでるのかと振り返るとそこには……。
 妹がバールのようなものを振りかぶっていた。
 あれ? なにそれ? ああそうか。それで目覚ましぶっ壊しわけね。で、なんでそれを大きく振りかぶっているのかな?
「おやすみ。お兄ちゃん」
 おやすみって? なに言ってんの? 俺は今起きたばかりですよ? なんで俺に向かってバールのようなものが振ってく――。
 ゴッ!

 次に目を覚ますと部屋はすっかり暗くなっていた。
 なぜか俺はベッドで寝ていて、隣には妹がスヤスヤと気持ち良さそうな寝息を立てていた。バールのようなものを抱えて。





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