【 王の存在 】
◆mSwkylaR1Y




769 名前:王の存在1  ◆mSwkylaR1Y 投稿日:2006/09/24(日) 19:19:02.27 ID:eENZBiSb0
 目が覚めて、我はまた眠った。
 また目が覚めて、我はまた眠った。
 その繰り返し。
 何千何万と幾多の時を眠りに費やした。
 だが、それも此処までらしい。
 周りからは何千何万と幾多の歓声が聞こえる。
 我は観劇している彼らに見せよう。
 我が肉体、我が骨格、我が存在を。
 
「ママ、あれなに?」
「あれは――」

 我が肉体が顕したるは国の命を守った証。
 我が骨格が顕したるは国の命を支えた証。
 我が存在が顕したるは一国の王である証。
 存命していた頃は敵国の悔恨を買っただろう。
 しかし、我が民に対しては多大なる貢献した。
 国の統治、国の復興、国の繁栄を。

「あれはミイラよ」
「へぇ、そうなんだ」

 ここに我が存在を、我が生涯を記したり。

770 名前:王の存在2  ◆mSwkylaR1Y 投稿日:2006/09/24(日) 19:19:40.77 ID:eENZBiSb0
ある所で大きな戦争が行われていた。
 その戦争に巻き込まれた、カリメアは小さな国で、比較的平和な日常を送っていた。
 しかし、カリメアを統治していた一国がカリメアから兵を徴収することになったのである。
 その所為でカリメアからは幾多の男が戦場に赴くことになり、そこで幾多の死者が出た。
 そしてカリメアは働き手が少なくなり、国も衰退していった。
 その後、終戦。
 酷く廃れたカリメア国だが、そこに一人の男が立ち上がったのである。
「まずは我らにできることをしよう。
 この国は男性が少ない。なら細かい作業が得意な女性たちは、
 小物を作って、隣国に売ろうじゃないか」
 小物というのはタオルや衣料品である。
 布製品に関しては、カリメアは豊な知識があったのだ。
 それに加えて、女性たちの細かいところまで行き渡った丁寧な製品は
 隣国だけではなく、他の国々にまで売れるようになったのである。
 ついには戦争の相手である国にまで売れるようになり、
 カリメア国と愛好を深めることになったのだった。
 このように奇跡に近い復興と繁栄を成し遂げられたのは、
 あの男性おかげである。
 あの一言がなければ、我々の国は繁栄していなかっただろう、と。
 後に彼は民から称えられ、独立を記念に王となった。
 元々、彼はカリメアの中でも一番下の層にいた人間である。
 けれど、のし上った彼は、一番下の層にいる人間に勇気と希望を与えた。
「我々にも、王になることはできる。誰にでも王になる権利はある」
 カリメアは平和なのだが、貧富の差は激しい。
 王はこれを解消していき、やはり全ての民から称えられた。
 そしてカリメア国は繁栄という二文字の一途を辿っていくと思われたが、
 王の死によって、それは止まる。
 名の知らぬ少女を助け、王は永い眠りについたのだ。
 それでも、やはり王は称えられながら、大きな墓に埋葬されたのである。
 この国を繁栄させた王と民たちの想いがこもったタオルや衣類と共に。

771 名前:王の存在3  ◆mSwkylaR1Y 投稿日:2006/09/24(日) 19:20:32.27 ID:eENZBiSb0
我が生涯は民たちの愛と歓声、他さまざまなもので満ち溢れている。
 だから、我は身を挺して栄光の架け橋となろう。
 期待する国民の心を決して裏切ってはならぬ。
 穢れなき少女の心を決して踏みにじってはならぬ。
 我は今、目の前にいる親子に伝えよう。
 我は王、民に称えられし者。
 もう一度言う、我は王だ。
 王なんだって、本当に、ねぇ、気付いてよ。

 我の肉体は包帯で巻かれている。
 肉体も骨格もあったもんじゃなかった。
 
 ◇
 
 彼の削げ落ちた肉体はカリメア国で作られた包帯で巻かれていた。
 その包帯は皮肉なことに細かいところまでこだわった一品。
 そしてまた彼の台に名は刻まれていなかった。
 しかし、偶然なことに目の前にいる少女は何かを感じ取ったらしい。

「この王様は――」
 
 どうしたの、と少女の母は聞き返すと、
「この王様は私の所為で永い間、お眠りになっているの」
 と少女はそう言って、
 母の持っている袋から赤いりんごを取り出し、台の上にそっと置いた。了



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