【 文才ないのに小説書く 】
◆zEHLoba/D2




686 名前:品評会作品 文才ないのに小説書く1/3  ◆zEHLoba/D2 投稿日:2006/09/24(日) 15:08:43.93 ID:vAE5oRSg0
「おい、知ってるか、次のテーマ「眠り」だってよ」
「知ってるよ。HPで確認したし」
「で、どうする?」
 友人の崇がわかりきった質問を、にやにやしながらぶつけてくる。
「どうするって、書くに決まってんだろ。 書かなきゃ、何も始まらないだろ!」
 強がって答える。

 俺達が何の話をしてるかと言うと、出版社で毎月募集されている超短編小説のコンテストの事だ。コン
テストの内容としては、毎月違ったテーマがだされ、ジャンルは問わない。。月末の最終日が締め切りで
次の日には新しいテーマがでる。そして、二週間後には入賞者が発表される。
 俺はこのコンテストに毎月投稿しているが、いまだに入選すらした事がない。
 考えがまったくまとまっていなかった事を崇に悟られる前に帰宅し、ネタを考える事にした。


 帰宅後、自分の部屋に戻りベットの上で寝転がりながら考えてみる。
 そうだ、眠り姫をパロディにした物なんかどうだろう。
 眠り姫が寝ている時に、王子様が手鏡を使ってスカートの中を覗く。すると、目覚める眠り姫。そのま
ま、王子様は逮捕。
 駄目だ。眠り姫自体みんなが思いつくことだし、時事ネタとしても旬の時期を過ぎている。よし、もう
一度考えよう。

 眠りから覚めた時、なぜか街は荒廃しており主人公以外誰も見当たらない。必死になって他の人を探す
主人公。しかし、探しても探しても人の気配すらない。ただ、時間だけが過ぎてゆく。その内に恐怖心と
絶望が主人公を支配する。そんな夢を見ていた。
 駄目だ。夢オチ自体ありきたり過ぎるし、自分の未熟な筆力で荒廃した街を事細かく描けるような自信
もない。

 その後も頭の中で自問自答するが、面白そうなネタは浮かばない。浮かばなくても書いてみれば、なに
かのきっかけになるとも思ったが何の足しにもならない。書いては削除、書いては削除の繰り返し。そん
な事をしてる内に、何のネタも決まらず二週間が過ぎた。

687 名前:品評会作品 文才ないのに小説書く2/3  ◆zEHLoba/D2 投稿日:2006/09/24(日) 15:10:34.18 ID:vAE5oRSg0
 気晴らしになるかと思い、崇の家に遊びに行った。というのは建前で、崇の描く小説に興味があったの
だ。
 崇も同じコンテストに毎月応募しており、入選も二回している。コンテストの中でも最上位の月間賞を
受賞するのも時間の問題だと思うくらい、面白い小説を書く。そんな崇からコンテスト用の小説を書き上
げたと言うものだから、興味が湧かないはずがない。
 それにお互いに前月はひどい風邪をひいていた為、コンテストに出品できずにいたから気合が入ってい
ない訳がないのだ。

「崇、作品書き上げたんだってな?」
「ああ、自信作だぜ。ちょっと見てみろよ」
 そう言って、わざわざ俺に見せてくれるためにパソコンから打ち出してくれたA4用紙を二枚渡す。俺
は渡されたA4用紙に目を通し、崇の描いた作品にしばし心を奪われる。
 内容としては眠り姫のパロディではあったが、自分の考えた物よりずっと質が高かった。
「どうだ?」
「ああ、おもしろいよ。特に眠り姫がコサックダンスで、兵士達をなぎ倒していくとこなんて最高だよ」
 俺は素直に自分の思った事を崇に伝えた。
「それで、オチはどうなるんだ?」
「わざと打ち出さなかったんだよ。いくらなんでもオチまでは見せられない」
 少しからかうように崇は言った。
「でも、いいよな。もう、作品ができて。俺なんてまだ何にも出来上がっていないぜ。もう、小説を書く
のをやめようかね」
 ふざけたように、本心も少し入り混じった言葉を吐く。
「俺はお前の作品が好きだぜ。お前の持つ、空気感や発想力とか。だから、小説を書くのをやめるなんて
冗談でも言うな」
 ふざけた空気を遮るように崇が言う。さらに、続ける。
「それに書かなきゃ、何も始まらないだろ! と言った言葉は嘘だったのかな?」
 崇に言われて、俺は再確認した。やはり、小説を書くという事が好きだって事を。
「崇、ありがとな」
 そう言って、俺は帰宅した。再び、ネタを考える為に。


688 名前:品評会作品 文才ないのに小説書く3/3 ◆zEHLoba/D2 投稿日:2006/09/24(日) 15:12:09.77 ID:vAE5oRSg0
 帰宅後考えてみるが、ネタは浮かばない。今までだって、散々考えてきたのに急にネタが浮かぶ訳がな
い。そして、ネタが浮かばないまま、さらに二週間が過ぎた。
「ああー、後三日かぁ。第一、眠りをテーマにした作品なんて、もう出尽くした気がするんだよな。ネタ
が浮かばなかったら、来月でもいいや。小説を書くのをやめた訳でもないし」
 自分自身への言い訳を呟きながら、ベットの中に入って眠ろうとしたその時だった。
「これだ!」
 一瞬の閃き。今まさに、自分の中に神が降りてくる感覚。
 パソコンのスイッチを再び点け、キーボードを叩く。今まで、停滞していたのが嘘のように。
 そして、二日が過ぎた。
「できた!」
 俺は満足気に独り言を吐く。丸二日間寝てないが、体の中には充実感がみなぎっていた。
 後は、推敲するだけだ。いくら作品自体の出来がよくても誤字、脱字があっちゃ目も当てられない。
 そう思い、二時間くらいベットの上で仮眠を取る事にした。仮眠を取った方が推敲が進むと思ったから。
「おい、起きろ! 起きろ!」
「あれ、なんで崇が目の前にいるんだ?」
「いつまでも、寝ぼけているなよ。今日はお前が完成した作品を見せてやるって、言ったから来たんだろ」
 俺の頭は寝起きのせいか、まだ正常に機能していなかった。
「それに、作品の投稿は昨日の内に終わったんだろ?」
「おい、今なんて言った!」
「だから、作品の投稿は昨日の内に終ったんだろって。それに締め切りは昨日までだぞ」
 やっと全ての事を理解した。仮眠を取ろうと寝た際に約一日半寝てしまったんだ。
「おい、どうしたんだ? 顔が真っ青だぞ」
「……」
 答える気力もなく、少し沈黙が流れる。空気を変えようと思ったのか、崇が沈黙を破る。
「おい、次のテーマが決まったぞ」
「何?」
「死」
 今の俺にぴったりだと思った。
―― 了 ――



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