【 Wake up 】
◆hsR2PkNYjk




320 名前:Wake up ◆hsR2PkNYjk 投稿日:2006/09/23(土) 15:46:23.88 ID:nQPH86ZI0
 ジリリリ、ジリリリ
ジリリリ、ジリリリ

カチッ

……うぅ〜ん……ふぁ〜あ……う〜ん………………



ふぁ〜あ……おはよう、ママ

……今日の朝ごはんは何? うわぁ、コーンフレークだ! 早くぎゅうにゅう入れてよー。
後でちゃんと顔洗うから! 先にいいでしょー? ……うー……分かったよ……顔洗ってくるよ……

――

ピンポーン

ハーイ
あっ、おじさん! 今日も来たんだー! 今日はどこ連れてってくれるの?
わかってるって! おじさんの言うことは守るよ!

――

おじさん、またこの道路? ここ楽しくないよ。
あっ、あっちに砂場があるから遊んできていい? えっ、またダメなの……? 
きみはちがう、って意味わかんないよ……
……
えっ? やったー! アイス買ってくれるの?! ぼく、チョコね! 
お母さんには内緒でしょ? 分かってるよ! 内緒ね!

321 名前:Wake up ◆hsR2PkNYjk 投稿日:2006/09/23(土) 15:47:50.43 ID:nQPH86ZI0

――

ただいまー! お昼ごはん何ー? えっ? 食べに行くの? やったー! 何食べに行くの? 僕らーめんがいい!

――

らぁーめん、らぁーめん、らぁーめんだー
ねえ、まだ?
あっ、お母さん、お母さん。この本読んでいい?
えっ、こっちの本?
……何書いてあるか分かんないよ。やっぱりこっち!

――

らーめん、おいしかったー! ねぇねぇ! 次は野球やれるところに行こうよ!
うん、そうそうバッティングセンター!
くつ? くつ買いに行くの? えー、くつより野球しに行こうよ!
……うぅ……分かったよ……

――

あっ、あのくつ欲しいー! ほら、ウルトラマン! いいなー、いいなー
買って! 買って!
えっ? ぼくは違うって?
おじさんも言ってたけど、それ全然分からないよ……
こっちのくつ、いらないよ……なにもかいてないもん……
……
えっ? 野球のところに連れてってくれるの? やったー! じゃあ、早く早く! お母さん、早く行こうよ!


322 名前:Wake up ◆hsR2PkNYjk 投稿日:2006/09/23(土) 15:48:50.88 ID:nQPH86ZI0
――

野球楽しかった〜。また、行こうね! ねぇ、お腹減ったよ〜。早くごはん! 今日は何〜?

――

うん、ちゃんと、はみがいたよ。じゃあ、おやすみなさい!

――

「今日もダメでしたね……」
あのおじさんがため息混じりに話す。
「そうですね……」
母親も同じように答える。
「完全に殻に籠っていますね……こちらもなんとか自覚させようとはしてるんですが……」
明るい部屋に暗い声が交わされる。
「いえ、先生には本当に感謝しております。事故で植物状態になってからずっと診ていただいていますし、目覚めてからの数日のあの子の混乱を抑えれたのも先生のお陰です」
にこやかな顔にはどこか悲しみが含まれていた。
「いえいえ、私は当然のことをしたまでなので……しかし、もう三ヶ月も経ちますが一向に良い兆しが見えないのは私の責任であります」
「それなら私にも責任がありますのでお気になさらずに」
「そういう言葉をかけてもらえると助かります。しかし、〇〇君を看病してもう十一年も、経ちますか……」
「そうですね。〇〇が今十八歳ですから、そうなりますね」
「……〇〇君には一刻も早く十一年間という歳月を認識してもらわねばいけませんね」
「そうですね。これからも頑張っていきましょう」

スースー、スースー、
心地よい寝息だけが幸せそうにずっと鳴っていた。
ー完ー



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