【 不治の病 】
◆ElgkDF.wBQ




38 名前:No.12 不治の病 (1/4) ◇ElgkDF.wBQ 投稿日:06/09/23 13:53:41 ID:B38UC2LV
「よく私の存在を調べましたね。田中さん、この手術を行った事を誰にも言わないという秘密を守れますか?」
 カルテから顔を上げ、ハンス医師は私に向かって言った。
「もちろんです。あなたしかこの治療は行えないと聞いてわざわざ日本からやってきました。私はこのままでは
死を待つばかりです。眠っている間だけ進行して死を待つばかりという不治の病をこれ以上進行させない為には、
眠れなくなる手術をするしかないと思っています。」
「眠れなくなるという事は・・・まぁいいでしょう。眠れなくなる手術をするしか病気の進行を止められないのに
眠れなくなった後の事を話しても仕方ないですね。本当にいいんですね?後悔するかもしれませんよ。それでも
よければこの書類にサインをして下さい。500万円については手術後に支払って頂いて結構です。」
 書類には、この手術について口外をしない事、手術を行った後は、もう元に戻す事は出来ないという事、手術
料金の内訳などが書いてあった。
「眠れなくなった後の事は大体想像できています。眠れなくなる分、人生楽しめる事が増えると思っていますよ。
これで私にも生きる希望がわいてきました。」私は書類にサインをした。

―――――
「先生、本当にこの手術を行うんですか?」助手のペンが言った。
「患者はこの手術を行わないと、病気が進行してしまう。その後どうなろうと知ったこっちゃないよ。こちらは
患者の希望通りの治療を行うだけだ。」ハンス医師はペンに言った。
「でも先生。こんな手術、今までした事ありませんでしたよねぇ」
「私が今まで研究してきた成果が試せるという事だ。マウスではもう試してある。」
「結果はどうだったんですか?」
「眠れなくなったマウスか。あそこにいる。見てみるか。」
 ハンス医師はマウスの入った小屋の前にペンを連れて行った。
「!!・・・・」
「先生これは・・・」
「眠れなくなるという事は、マウスにとって最初は何でもないことだった。しかし、後から、強烈なストレスを
生み出したのだ。結果的に自分の体中をかじって・・・」
「本当にこの手術を行っていいんですか先生?」
「・・・言っただろう。患者の希望通り行うだけだ。」

39 名前:No.12 不治の病 (2/4) ◇ElgkDF.wBQ 投稿日:06/09/23 13:53:55 ID:B38UC2LV
――――― 手術当日
覚悟を決めて、手術台の上に寝た私に全身麻酔が施される。覚悟はもう日本を出てきた時に決めていたのだ。
 死を待つばかりの毎日。もうこれからは死に脅かされる事はなくなると思うとほっとして、そのまま麻酔に
 体を任せた。

―――――
「先生、麻酔が効いたようです。」
「では、はじめるぞ。手術は簡単だ。睡眠をつかさどる神経の部分の一部を切ればいいだけなのだから。」

―――――
「田中さん。田中さん。もう大丈夫ですよ。起きて下さい。」
 ハンス医師に呼ばれ、麻酔から目覚めた私は、頭を包帯でグルグル巻きにされていた。
 すでに3日も経っている事を知らされた。
 とりあえず、これで眠れなくなったのかどうかは起きたばかりでピンとこないが一応聞いてみた。
「先生。これで私は、もう眠らなくてもよくなるんですね。」
「そうです。これで眠りたくても眠れなくなります。」
「ありがとうございます!」
「書類にもサインして頂いたように元に戻す事はもう出来ませんが、どうしても眠りたくなった場合には
 相談して下さい。」
「分かりました。本当にありがとうございます!」

――――― 数日後
「先生、手術料金を払いに来ました。」
「おや、田中さん。どうですか調子は。」
「調子いいですよ!眠らない分、時間が私には山ほど増えました。今まで仕事に追われて家族との団欒も
 おろそかになっていたのに、家族サービスができる上に、自分の趣味の時間も取れて一石二鳥です。」
「それはよかったです。では、眠りたいという事もありませんね。」
「あるもんですか!眠ってしまっては病気が進行してしまいます。本当に手術をしてよかったですよ。」

40 名前:No.12 不治の病 (3/4) ◇ElgkDF.wBQ 投稿日:06/09/23 13:54:06 ID:B38UC2LV
――――― 2年後
私はハンス医師のところへやってきた。
「先生。相談しに来ました。」
「どうしました田中さん。眠りたくなったんですか?」
「2年経ったら、あの時の不治の病の治療方法が見つかったんですよ。もう不治の病じゃなくなりました。
 もう眠っても病気が進行する事はなくなったのです。先生もあの時には、元に戻すことはできないと
 おっしゃっていましたが、不治の病の治療方法が見つかるくらい医学が進歩してきている今なら、元に
 戻す方法はないでしょうか?」
「残念ながら元に戻す事はできません。ですが、田中さん。あの時には時間が山ほど増えてよかったと言って
たじゃありませんか?」
「もう疲れたんですよ。皆が寝ている時にも起きている事が。やることは山ほどあっても、体力的にも精神的
 にもくたくたです。眠れないまま横になってみても、全然体が休まらないんですよ。睡眠薬を飲んでみても
効きません。」
「普通の睡眠薬じゃ、効きませんよ。この薬を買ってみませんか。眠れる薬です。ただし1粒ずつしか飲んでは
いけません。眠れる時間は1粒に1時間です。これをまとめて飲むことは絶対にしないで下さい。命の保障
は致しかねます。」
「1時間でも眠れれば違います!いくらですか?」
「100粒で1000万円です。」
「1000万円!!手術代よりも高い!うーん。でも睡眠に変えられない。購入します。」

―――――
購入した睡眠薬を使って私は、1日に1時間だけ眠ることにした。
数日して、もっと眠りたい欲求に駆られて、1時間寝て起きてすぐにもう1粒飲んで、さらに1時間寝た。
薬の金額が気になったが、数日してさらに起きてから飲む薬を増やして合計3時間寝た。
体に異変はなかった。
そうやって、いつの間にか起きては飲む薬を増やして私は1日5時間寝るようになった。

―――――
「先生。また薬を買いに来ました。」
「田中さん。また来る頃だと思ってましたよ。」

41 名前:No.12 不治の病 (4/4完) ◇ElgkDF.wBQ 投稿日:06/09/23 13:54:29 ID:B38UC2LV
「先生。まとめて眠れる薬はないのですか?毎日1時間ごとに起きては薬を飲むという繰り返しで大変です。」
「残念ですが、その方法以外に飲み方はありませんね。くれぐれもまとめて飲もうなどと考えない事です。
 まとめて飲んだら起きる事ができなくなるかもしれませんからね。」
「分かりました。」
 私は、また1000万円払い睡眠薬を100粒購入した。

―――――
 その日の夜、私は試しに睡眠薬を2粒飲んでみた。
 驚いたことに2時間眠る事が出来た。体に異変はなかった。
 さらに3粒飲んでみた。3時間眠る事が出来た。
 次の日の夜には5粒飲んでみた。
 
―――――
 5時間後に起きたつもりが、目の前に鬼がいる。
「ここは!?」
「ここは地獄だ。自殺したやつには拷問が待ってるぜ。」
 鬼がよだれをたらしながら、にやにやと笑いながら臭い息を吐きかけて言った。
「地獄?自殺?私は死んでしまったのか!!」
「そうさ。お前に待ってる拷問は、生きてる間に一番嫌だった事だ。」

 私は今、眠れない地獄にいる。
 こんなことなら、不治の病の時に死んでいた方が楽だったかもしれない。
 そんな事を考えてる・・・余裕なんてなーい!!!

「誰か眠らせてくれーーーーー!!!!」


END



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