【 スクェア 】
◆oPFPs4BDEQ
※転載文にはタイトルに「眠り」が入っていますが、作者様のミスだそうです。




258 名前:「居眠り・スクェア」 ◆oPFPs4BDEQ 投稿日:2006/09/23(土) 13:27:54.57 ID:zU/tm8ei0
夕焼け、というのは。
毎日確実にやってきて、特に意識しない物で。
ただ過ぎていく時間の一部に、真っ赤に燃え上がるような風景が紛れ込む、それだけの物のはずで。
けれど、どうしようもなく、その風景は人を惹きつけてやまない。

 …そんな文章を、この前本で読んだ。
授業も終わり、生徒が下校する中で、俺と彼女は本を読む。
清潔感のある図書室の中で、赤い光を浴びながら。
いつもここには彼女がいる。
そして俺もいる。
本が好き、ってわけでもなく、
特に理由は無いけれど、暇があればここに来ている。
少しだけ目を上げて、正面に座る彼女を見た。
アイツは何でここにいるんだろう。
その風貌はどう見ても本好きだから、やっぱり本が好きで来てるんだろうか。
あの眼鏡はやぱり本の読みすぎで視力が落ちた、とかだろうか。
どれだけ考えても、「知らない」事がわかるはずもなく、やっぱり今日も思考は行き詰る。
本を閉じて目を瞑る。
疲れているのだろう、睡魔が襲ってくる。
本を読むと肩がこるな・・・
取り留めの無い考えはやがて、暗い闇に沈んでいった。


259 名前:「居眠り・スクェア」2/4 ◆oPFPs4BDEQ 投稿日:2006/09/23(土) 13:28:37.82 ID:zU/tm8ei0
 目を開けると、夕焼けの赤はいっそう濃く、空の半分はすでに夜に覆われていた。
少しだけ、少しだけ休むつもりが結構眠ってしまったようだ。
ふと見ると、頬杖をついてこちらを見ていた彼女と目があった。
「起きた?眠り姫」
無表情に言ったその顔も赤く染まり、この時間の一部になっている。
「まだ、居たんだ」
ぴく、と眉が動いた。
「あら、私がいちゃ悪いみたいな言い方」
さらりと髪が流れる。
セーラー服のリボンが揺れる。
「なら帰ろうかしら。お邪魔みたいだし」
彼女は立ち上がり、横に置いていた荷物を手に取る。
「じゃ、アナタもそろそろ帰りなさいよ」
背を向けて立ち去ろうとする彼女の手を、思わず掴んで引き止めた。
「・・・何?」
「好きだ」


260 名前:「居眠り・スクェア」3/4 ◆oPFPs4BDEQ 投稿日:2006/09/23(土) 13:30:37.60 ID:zU/tm8ei0
 彼女が目を見開いた。
「君が好きだ。名前も知らないけれど、好きだ」
多分、最初からずっと。
ここには、彼女に会いに来ていたのだ。
「まだ、寝てる?」
彼女がこちらに向き直って言った。
「かも」
彼女の顔が近づく。
息をするのが躊躇われるほど近く。
彼女が少し背伸びをしているのがわかった。
「目は開いてるけどね」
そうだね、と言い返せなかった。
今喋れば、彼女が何処かへ行ってしまう気がして。
「そうねえ・・・私はアナタの名前もクラスも知らないわ」
くるりと背を向けて歩き出す。
待って。
まだ返事が。
出口までついて歩く。
返事は無い。
「               」
出口の前で彼女は立ち止まり、顔だけをこちらに向けて言った。
口が動いているのはわかる。
けど、内容が理解できない。
彼女はまだ何か言っている。
その声が段々と遠ざかっていった。


261 名前:「居眠り・スクェア」4/4了 ◆oPFPs4BDEQ 投稿日:2006/09/23(土) 13:31:25.17 ID:zU/tm8ei0
 「起きてよ」
俺は目を覚ます。
気が付くとそこは市立図書館の中だった。
「どこででも居眠りしないでよね。恥ずかしいんだから」
「なあ」
俺は彼女に話しかける。
「あの時さ、なんで俺のこと待っててくれたの?」
彼女はキョトンとしている。
「ああ、アナタが寝ちゃった時?」
あはは、と軽く笑って彼女は続けた。
「あれね、私も居眠りしちゃってたのよ」
なんだ。
眠り姫は君のほうじゃないか。
「お互い様、だな」
そうだねー、と彼女は頷く。
「どっちが眠り姫だよ」
俺は笑った。
眼鏡からコンタクトに変わって、よく笑うようになった、
―――――妻も、笑った。





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