【 不眠のとき 】
◆qygXFPFdvk




254 名前:不眠のとき (1/2) ◆qygXFPFdvk 投稿日:2006/09/23(土) 13:20:59.76 ID:SmjsXi5X0
 ようこそいらっしゃい。どうぞ、そこにお掛けください。ちょっと賑やかですけどくつ
ろいでくださって結構ですよ。
 今日は私の仕事について話せばいいんですか? 始めた理由? それはただ単に親父の
仕事を継いだってだけですがね。あ、今暖かい飲み物を入れますので。お茶がいいですか?
それともコーヒーの方がお好みで? あ、お茶ですか。そうですね、時間も遅いですし。
今からコーヒーだと眠れなくなりますものね。でも、お茶だって侮れませんよ。カフェイ
ンはしっかり入ってますから。私も新茶の時期は結構忙しい……薄めに入れておきますね。

 はい、どうぞ。あぁ、お茶請けがないな。え? 夕食後だからお腹一杯? そうですか。
では、お言葉に甘えまして……
 で、どこまで話しましたっけ? あぁ、始めた理由。さっきも言いましたが、家業を継
いだだけです。小さい頃から、親父の働く姿見てましたからね。手伝いもさせられました
し。結構、かわいいもんですよ。さすがに数が多いと骨が折れますがね。

 はぁ、仕事してて楽しいときですか? そうですね……やっぱりお客さんの満足そうな
顔を見てるときですね。仕事した! って気持ちになりますね。お客さんに喜んでいただ
けると、こっちも嬉しいです。
 
 え? 逆に辛いとき? そうですねぇ。この仕事やってると夜が遅い。これが辛いです
ね。親父も言ってました。老体には応えるんですよ。それに、休みも不定ですし。息子が
幼い頃には、結構ブーブー言われました。そうなんですよ。日曜日の夜中が意外と忙しい
んです。次の日は月曜日ですからね。需要も多いわけです。
 それと、仕入れの問題もありますね。数が足りない、なんてことになったら責任問題で
すから。反対に、仕入れすぎちゃったら在庫であふれちゃう。もう、騒いで大変ですよ。
うるさくってこっちが眠れない。

 はい? なんですって? あぁ、ちょっとすいません。
――おーい! タロー! 少し静かにさせないか! 話が聞こえないだろ!

255 名前:不眠のとき (2/2完) ◆qygXFPFdvk 投稿日:2006/09/23(土) 13:21:46.18 ID:SmjsXi5X0
 ……すいませんでした。最近は息子も手伝うようになってくれたんですが、まだ新米で。
犬もロクに操れない。小さい頃に甘やかしたお陰で大変ですよ。

 で、なんでしたっけ? はいはい。この仕事で体験した不思議なこと。特別、そう感じ
たことはないんですがね。実は、何でこの仕事が上手くいくのかもよく分かってないんで
す。不思議なことだらけだ、って言うのが本音なんですよ。
 うーん。あ、そうそう! 継いだばかりの頃なんですがね、急激に注文が増えた日があ
るんですよ。それも普段注文が少ない土曜日に。何でだと思います? 
 ふふ。もう降参ですか? まだ、早いですよ。じゃあ、ヒントを差し上げましょう。私
は宣伝をしてお客を増やしたわけではありません。そもそもこの仕事は口コミというんで
すか、噂だけで広まったようなものですからね。
 ダメ? もっとヒント? うーん……これを言ったらわかっちゃうかも知れませんねぇ。
では、二つ目のヒント。あれはちょうど今頃、中秋の土曜日でした。体育の日……あ!
これは言いすぎですね。分かっちゃいました?
 まだダメ? じゃあ、これが最後のヒントですよ。お客さんは全員小学生でした!

――そう! 運動会ですよ。やっぱり、運動会の前日って眠れないんですよね。だからお
客さんも増える。親父も教えてくれればよかったに、口下手だから。こっちはそんなこと
分からないから焦りましたよ。大わらわでウチの奴らかき集めて。一人で千匹も使うお客
さんもいたし。それ以来、運動会や遠足、試験の前日なんかは多く仕入れるってことを覚
えたんです。
 今考えると、親父は自分で気付いて欲しかったんでしょうね。そのお陰でノウハウを早
く覚えられたのかも知れません。今では、感謝してますよ。 

 おや、もうこんな時間ですか。そろそろ、私も仕事の準備をしなければ。え? いやい
や、まだ息子一人には任せておけません。私も現役ですよ。
 何? 今夜は眠れそうもない? じゃあ、ウチの羊なんてどうですか?
 速やかな快眠をお約束しますよ――

                    <不眠のとき 〜シェパード・ウォーズ〜 完>



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