【 森の日記 】
◆2glaAo60g2




166 名前:森の日記1/3 ◆2glaAo60g2 投稿日:2006/09/23(土) 05:30:24.63 ID:zvX/DTmT0
 母がいなくなった。
 歳も歳だし仕方のないことなのだが、どうせ他にすることがあるわけでもなし、探しに
行こうかと思う。


 母は年老いてから私を産んだ。そのせいもあってか、とても私を可愛がった。もちろん
私も母を愛してはいたが、母の私への愛情は異常だったと思う。

ある夜いつものように私が寝ていると何か物音がした。いや、実際に物音がしたかどう
かはわからないし、深い眠りから覚める時にそういう感覚に陥ることはよくあることなの
だが、とにかく不意に目が覚めたのだ。
私は半ば寝ぼけながら寝返りを打ったのだが、隣で寝ているはずの母の姿はなく、代わ
りに戸口の方から話し声が聞こえてきた。
押し殺したような声で二人が喋っていた。


167 名前:森の日記2/3 ◆2glaAo60g2 投稿日:2006/09/23(土) 05:32:26.26 ID:zvX/DTmT0
 私は会話を黙って聞いていたのだが、私の母は明らかに精神異常者のようだった。二人
で会話をしているように聞こえたのだが、その二人とも母の声で喋っているのだった。
一人の母の声色が
「あなたじゃなくてもいい」と言った時
「あの子だって私に殺されることを願っているに違いありません」
そう言った怒った母の声色を私は忘れたことがない。


 私はそれまで入ったことのなかった森の奥に、行ってみることにした。
それらしい一軒の小屋を見つけ、扉を開いた。だが母はいず、たった一つの日記帳があ
るだけだった。気が付くとページをめくっていた。
その日記にはこう書かれていた。


168 名前:森の日記3/3 ◆2glaAo60g2 投稿日:2006/09/23(土) 05:35:32.83 ID:zvX/DTmT0
 6月23日
 明日はステキな日。
 夜が明けるのが待ち遠しい。楽しみ。
 6月23日
 夜が明けない。
 6月25日
 昨日はとっても楽しかった。あんなに楽しかった日は、何年ぶりだろう。


 (二ページ空白 筆跡が変わる)
 12月31日
 あの子を見つけなきゃ
 12月33日
 私が伝えるでしょうか?
 12月33日
 いいえ、私じゃなくてもいい。私一人では何もできないことに気が付きました。
 この日記が私たちです。


 あの日のように私は目を覚ました。
 はっきりと起きたはずなのに寝ぼけているような浮遊感。もしいつまでも母といられた
らどんなに幸せだっただろうか。この森の葉が全身で光を受けなければすぐに枯れ落ちて
しまうように、私はやはり元々人間だったのだから水中には向いていない。


       ―了―



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