325 名前:月との邂逅 1/3 投稿日:2006/09/17(日) 23:24:54.20 ID:J+5vBhXC0
太陽は見えない。
雲一点ない夜空。
空に浮かぶのは太陽と共存出来ない、無数の星々と満ちた月。
「……なんて」
私は目に飛び込んでくる夜の情景に取り付かれてしまった。
さっき考えた以外に、中学生でも恥らいそうな表現をしていた気がする。
その一部を思い出して……少し、私の顔は熱くなった。
「はぁ……」
帰宅するまで、またこの夜空を見上げていなければならないのか……
今度は気付かぬ間に何を考えるのか――恥ずかしさと、時間がある嬉しさがこみ上げてくる。
歩きながら、また言葉遊びを再開する。
――何を考えていたのだろう。夜空と太陽は共存出来ない、こととかだっけ。
そうだ。太陽の光は強すぎる。王様みたいなもの。
それに対して夜空の星は、従者……いや、太陽と会えることはないから庶民かな。
夕方と朝方に会うことの出来る、月こそが従者?――
「そうですね。月が従者なんて、ステキです」
突然、前方から声をかけられる。私ははっとなり声をかけてきた人物に注意を向ける。
落ち着いた初老の男性だ。少し、執事――従者を思わせるスーツを着ていた。
326 名前:月との邂逅 2/3 投稿日:2006/09/17(日) 23:25:33.15 ID:J+5vBhXC0
私は、現実的な答えを返した。
「……私、声出して歩いてました?」
「声? ええ、私には聞こえていましたよ。
想う声があれば、聞こえるものです」
……この人……もしかしてアブナイ人なんだろうか?
「あなた……誰ですか?」
「月が従者――いや、あなたも的確な表現をするものです。
私も関心してあなたの話に聞き入ってしまいました」
私の答えを無視して、だが私の話について語る。ああ恥ずかしい。
「それはただの例えですよ……それに、太陽は王様だとしても、月は太陽の従者ではないですよね。
太陽が王様ならその従者たちは惑星――地球が、従者になっちゃうじゃないですか」
そう。月は地球の衛星――従者の下だから、なんだろう――なのだから、けして太陽の従者ではない。
「ふふ……それでも、王は全ての仕える者に平等に光を与えますよ」
聞いたような台詞を言う。……この人は中世辺りからタイムスリップしてきたのか?
「繰り返し聞くのは失礼だと思いますけど……あなたは誰ですか?」
今度は、私の言葉に応じる老人。
「そうですね。月の光に誘われてきた、月の従者だとでも思ってください」
アブナイ人だった。
327 名前:月との邂逅 3/3 投稿日:2006/09/17(日) 23:26:43.32 ID:J+5vBhXC0
そう分かって私は去ろうとしたが、老人は私に付いてきて話かけてきた。
ウザったいと思いながら、何故か私は返事をしていた。……少し、楽しいと思っている自分がいた。
そして、背後から話しかける老人が突然話を止めた。
気がつけばさっきまで雲一点なかったというのに、空には暗雲が立ち込めている。
月の光も、今は失われていた。
「……お爺さん?」
振り返ると老人はいなくなっていた。
「……でさ、そんなお爺さんに会ったんだけど――」
私は不思議な話として、同僚に話した。
「へぇー……それにしても、あなたでも可愛いこと考えるのねぇ」
「……!うっ、うるさいなぁ!」
私はきっと顔を赤くしている。普段、私は硬いキャラで通っている。
……はずだ。
「あ、でも」
友達は思い出したように言う。
「それ、前にも聞いたな。満月の日、月のこと考えてたら、お爺さんにあったんだって――」
おしまい。