【 月と僕と彼女 】
◆9cL.bdmM2A




316 名前:月と僕と彼女(1/4) ◆9cL.bdmM2A 投稿日:2006/09/17(日) 23:09:06.20 ID:TeP7ShlC0
空に見えるのは、薄い灰色の雲、街の光に消されそうな星たち。
高いビルの群れに遮られつつある空をくまなく探しても、あの姿は見えない。
そう、今夜は新月。ゼロのその日に、僕たちは始まった。

出会いなんていうのは、どこにあるのか分からないもんだ。
友人の強引な誘いを断れずに参加した合コン。彼女はそこに居た。
大人しい印象を与える落ち着いた服装、さわり心地のよさそうな艶のある黒髪。
正直なところ、女の子の中では彼女が一番可愛かった。

その外見からか、やはり彼女に人気が集まってはいたが
あまり乗り気ではないその対応に、友人たちは少し愛想を尽かし始めていた頃
同じように合コンに乗り気ではない僕と、余った者同士で話をする事になった。

聞けば、彼女も数合わせの為に、無理矢理つれてこられたのだと言う。
そんな似たもの同士だからだったのか、話は弾み、二人で話し込んでいた。
自分の事から、くだらない話まで。気づけば自分達が一番盛り上がっていて
オマケで来たはずの人間が、一番合コンを楽しんでいた。
それぐらい、彼女と話をするのが楽しかった。
気持ちが繋がるとは、こういう事なんだろうかと、勝手に思っていたりして……。

合コンが終わる前に、僕たちは電話番号とメアドの交換をした。
また、彼女に会って話がしたい。また、楽しい時間を過ごしたい。
そんな想いからだろう、奥手の僕が、自分から連絡先を聞いたのは。

317 名前:月と僕と彼女(2/4) ◆9cL.bdmM2A 投稿日:2006/09/17(日) 23:09:41.44 ID:TeP7ShlC0
ゆっくりと月がその姿を見せ始める日々に、僕たちは会話を重ねた。
あの日から、毎晩のように電話やメールをしたり、時間が合うときには、外で二人きりで会ったりもした。
とても楽しくて、どこか嬉しくて、過ぎていく時間は信じられないほど早く。
彼女に惹かれている。その想いは自覚できるほど、押さえ切れなくなるぐらい大きくなっていた。

そうして、最初の半月の日に、思い切ってこの想いを伝えた。

彼女の返事は、オッケー。彼女も僕と同じ気持ちだったようだ。
もっと一緒の時間を過ごしたい、もっと話をしていたい、そしてその先も……。
関係が繋がることで、溜め込んでいた想いは、堰を切った様にあふれ出す。
伝えたい言葉、気持ち、伝わる想い。お互いがお互いを求めるように、僕たちは気持ちを繋げていく。

あふれ出した想いの、その勢いを衰えさせる事は無く
満月の日の夜。僕たちは、ひとつになった――
繋がる心と身体。そんな素敵なひと時を経て、彼女は僕に、ある話をしてくれた。
それは、彼女の夢の話だった。

僕と出会って、楽しい時を過ごして、幸せを感じて、それが嬉しくて。
ずっとこのままで居たいけれど、追いかけたい夢がある。
それは、実現までに時間がかかるかもしれない。
ひょっとしたらすぐに実現できるかもしれない。
でも、その夢を追いかけている間、今までのように、気軽に会ったり話したり
そんな事ができなくなるという。


318 名前:月と僕と彼女(3/4) ◆9cL.bdmM2A 投稿日:2006/09/17(日) 23:10:54.10 ID:TeP7ShlC0
ゆっくりと囁くように、僕にそんな話をしてくれた。
小さく舌を出しながら、諦めて帰ってきちゃうかもしれないけれど。と、お茶目に付け足した彼女。
そして――

――それでも、私を待っていてくれますか?

と、訊いてきた。
出会って間もないけれど、僕の気持ちは本当だと思うから
ずっと待ってる。と、だけ伝えキスをした。

夢の実現のためには、海外に行かなければならず、出発は今度の新月の日らしい。
新月に出会って、新月にお別れなんて何てドラマチック、いや、心情的には悲劇かな……。

再び訪れる半月の日にも、やがて来る新月の日まで、僕たちは今まで通りの関係を続けた。
正直に言えば、お互いに 『その日』 を意識したくなかったのだろう。
意識しなくても、知らず知らずのうちに意識していることは
お互いに気付いていたが、それは見て見ぬ振りで。

319 名前:月と僕と彼女(4/4) ◆9cL.bdmM2A 投稿日:2006/09/17(日) 23:11:25.59 ID:TeP7ShlC0
そして、新月の日。
空港に彼女を見送りに行き、簡単な別れを告げた。
彼女の潤んだ瞳に、僕の涙腺が緩みそうになるのを堪えて
飛び立つ彼女が乗る飛行機を眺めながら思った。

彼女が目指す夢が太陽なら、僕は月になろう。

太陽がまぶしく光を放つ日中にも、うっすらと光るあの月のように
輝かしい夢を実現させていく彼女の支えになろう。
太陽が沈んで夜になっても、輝き続けるあの月のように
気持ちが沈んで、夢が闇に溶けそうになった彼女を救う光になろう。
いつも、ずっと、永遠に同じ面を地球に向ける、あの月のように
ずっと、彼女を愛し続けよう。

そんな彼女の月に、僕はなろう。
月の光が届かぬ夜、飛び立つ彼女が乗る飛行機を見つめながら、僕はそう決意した。

              ―完―



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