【 月の民 】
ID:HQwW2LRh0




13 名前:No.4 月の民 1/2 □HQwW2LRh0 投稿日:06/09/16 01:12:30 ID:LbjpQKTV
「師匠どうしたんですかあ、こんなところでえ。もう宴もたけなわですよう」
そういって顔を覗き込む。見ると哀愁漂う表情をしている。少し不安になる。
「ん……ちょっとな、あの爺さんの話を思い出してな」
一瞬顔をしかめてから答える、酒の匂いに反応したのだろう。
「あの種の純粋さが如何とか、ってやつですか?」
「そう。俺もね、心情的というか思想的には、あの爺さんの意見には賛成なんだよ」
「意外です」
目を丸くしている。
「そういうのはおくびにも出さなかったからな」
ニヤニヤと嬉しそうに返す。
「続きをどうぞ」
と、腰を掛ける。
「さて、おめでたい日にこんな話をするのもなんだが。
お前も知っての通り、ここの人たちはちょっと特殊だ」
「そうですね。髪の色も変わってますし、怒るとなんか怖いし」
「うん。この周辺の集落にもあんな人達はいない。全く居ない。
確かにここは200年ほど閉ざされていたようだが、全く居ないというのはね。
俺もこんな人達は文献でしか知らない」
「文献にはあるんですか?」
首をかしげる。
「あったよ。そこには月から来たとか書いてあったからかなり眉唾だけどね」
「へ〜え、月からですか。私も読みたいなあ、その本」
物欲しそうな声を出す。
「どこにやったかは忘れた」
またニヤニヤ笑い。
「ええ〜」
いかにも不服気に声を漏らす。
「ま、それはそれとして。その起源やら理由やらを考えていたんだが。
ひょっとしてここの人達の特徴は、よっぽど劣勢な遺伝子が関係してるのかと思ってね」

14 名前:No.4 月の民 2/2完 □HQwW2LRh0 投稿日:06/09/16 01:12:44 ID:LbjpQKTV
「それは……私達との交流が進めば、ここの人達はその種族特性を失ってしまうと?」
少し考えてから発言する。
「そういうことだね。それでも不自然だけど、特殊な塩基配列でないと駄目なのかなあ……。
ま、そう考えれば、あの爺さんが部外者を執拗に排除しようとした理由にもなる」
「……でも、そんなのわかんないですよね」
「そうだ、まだわからない。他に理由があるかもしれないし、それに――」
すっと振り向く。
「それが良いか悪いかを決めるのは、当人達の問題だ」
風が穏やかに吹く。
「しかし保存しときてえ! あの髪の色、コスプレ向きだ! とか思ってたわけ」
ここは真顔。
「……」
無言で睨み付ける。
「なんですか? 酔いが醒めましたか?」
怪訝そうな顔をする。
「何でもありません!」
ザッ、と音をたて、立ち上がる。
「お、踊りが始まったみたいだぞ」
そういって右手を取り。
「え?」
「このまま舞台にご登場といこう」
そのまま腰に手を回し、位置を入れ替えるように回転する。
「え? ちょっと!」
軽やかにステップを踏み、大きな篝火に向かって、駆けて行く。

<終>



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