王手飛車取り
◆D8MoDpzBRE




553 名前:王手飛車取り 1/3 ◆D8MoDpzBRE :2006/09/10(日) 21:58:31.37 ID:XUW6MFW10
 思えば、いかにも素行の悪そうな女だったじゃないか。

 僕の名前は工藤守。今年、晴れて大学生の仲間入りを果たした十八歳だ。趣味は将棋。暗いやつ、なんて
よく言われてた。そうりゃそうだよね。中高と、ずっと牛乳瓶の底のような眼鏡をかけてたし、おしゃれやなん
かにも疎かった。勉強漬けの毎日だったから仕方ないんだけど。
 大学合格を機に、そんな自分を変えてみたい。僕はいわゆる大学デビューをしてみることにした。いきなり
街のギャングみたいになろうって訳じゃない。とりあえず黒縁眼鏡をコンタクトにして、髪型を現代風にアレン
ジして、洋服を雑誌なんかに載ってそうなスタイルにしてみようってだけのこと。お手軽な変身願望に毛が生
えたようなもん。
 志望校に受かった僕に対して、両親も反対せずに出資してくれた。突然の方向性の変化には驚いたみた
いだけど。
「おっ、守。なかなかナウいぞ」
 父親の第一声がこれ。そのまま鵜呑みにするにはちょっと心許ない感想だったけれども、嬉しいことは嬉し
かった。
 そんな中で始まった新生活、新学期。僕は彼女と出遭ったのだ。
 何となく新しい同級生に誘われるがままに行ってみたテニスサークル主催のコンパは、百人規模で行われ
ていた。居酒屋は貸切。初めて飲むアルコールと、会場の異様な熱気のせいで、僕はその日ずいぶんと舞
い上がっていたように思う。
「ねぇ、ここ空いてる?」
 いつの間にか、僕の隣に金髪のお姉ちゃんが座っている。派手なマスカラ、模様の入った付け爪、胸元が
露な衣装。僕にとってはあまりにも刺激的な光景だ。
「ももももちろん」
 ろれつが回っていない。完璧などもり。しかし、どうやらこのお姉ちゃんは、僕のこの発言をギャグかなんか
と勘違いしたらしい。
「ギャハハ。キミ話せるねー」
 あとは酔っ払いの会話だ。その後に関しては、僕の記憶も相当怪しい。ただ、意識が戻ったときには、酔い
なんて吹っ飛んでしまうような、そんなシチュエーションの渦中にいた。


554 名前:王手飛車取り 2/3 ◆D8MoDpzBRE :2006/09/10(日) 21:59:29.62 ID:XUW6MFW10
 廃ビルの一画のような光景。真夜中なのだろうか。光源は窓の外から薄く漏れる街灯の残りカスくらい。あ
とは闇だ。
 僕はきつく縛り上げられ、下着を残して身に付けているものの全てを剥ぎ取られていた。
――痛っ!
 体を動かそうとした瞬間、電撃のような痛みが全身を駆け廻る。皮膚が焼けただれたように熱い。おぼろげ
ながら、僕は自分が暴力を振るわれていたことを思い出した。
――財布はっ?
 縛られて自由の利かなくなった両手で辺りを探ってみたが、それは虚しく空を切るだけだった。そういえば
確か、財布は上着のポケットの中に入れていたはず。
 しまった! 学生証や、新調したクレジットカードなども入っている。王と飛車をいっぺんに取られた気分だ。
それだけは困る。
 僕は、目の前に立っている女に向かって、声を絞り出した。
「財布の中の、学生証とカードだけでも返してください……」


555 名前:王手飛車取り 3/3 ◆D8MoDpzBRE :2006/09/10(日) 22:00:30.49 ID:XUW6MFW10
「うるせぇ、この豚! 文句あるのか」
「あぁ、もっと言って下さい……」
「豚豚豚! 豚男!」
 ビシッ、バシッ。鞭の音。
「あああ、ありがとうございます。女王様」
 これが僕のSM初体験。ノーマルプレイすらまだ未経験だ。
 半開きの僕の口に、女王様の聖水が勢いよく注ぎ込まれていく。一滴でも惜しいから、僕は大きく口を開いた。
――でも、財布はないと本当に困るから、終わったら返してね。
  <了>




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