無題/王
ID:vk0YS6+q0




192 名前:「王」 :2006/09/09(土) 23:32:01.56 ID:vk0YS6+q0
とある古いビルの下にある薄暗い一室。
そこに目つきの鋭い男たちが集まっている。ただの男たちではない。
闇世界に生きる男たちの会合。
そこは悪意と、悪意に満ちた馴れ合いで溢れていた。
そんな日の光の当たることのない会合に、男の一言が響く。
「ところで兄弟。今日この場に東からゲストが来ているそうだが」
それは穏やかな水面に投じられた小石のように、不安の波紋を広げていく。
あるものは怯え、あるものは強がり、あるものは知りたがった。
「で、その招かれざる客の名前は?」
「王」
一石を投じた男は、右目の眼帯を指で直しながらはっきりと告げる。
「ワン?華僑か誰かの飼い犬か?」
「一匹狼の人殺しさ」
眼帯をした男は、あたりをじっと見回しながら押し殺した声で続ける。
「王は誰にも縛られない、ヤツは自分の信念にだけその腕を預けるんだ」
「所詮は三下のヒットマンだろう?敵じゃあない」
男は慢心に満ちた野次を残った目で睨みつけ、ふぅ、と大きくため息をつく。
「いままで生きて王の実力を見たものはいない。名前を聞いたやつもいない。
 なぜなら、それを知るのは王に殺される瞬間だけだからさ」
「そうかい。それで分かったよ」
葉巻を咥えた仲間の一人が、ゆっくりと片目の男に近寄る。
そして手に収めている大きくて凶悪な拳銃を、その男の後頭部に押し当てる。
「そうなるとおかしいよな。ええ?
 アンタが王じゃないとしたら…なんでそのことを知ってるんだ?」
男は動じることもなく、ゆっくりとネクタイを緩め、そして微笑む。
「いいのかい?俺はもう名乗ったぜ」
仲間の一人が引き金を引くよりも早く、地下の密室に銃声が響いた。
一発、そしてもう一発。
銃声が止んだ部屋には、後には何も残らなかった。
血と死体と薬莢と、男が捨てていった眼帯以外には何も。




BACK−猫が大好きな王様 ◆gugD9oZRwk  | INDEXへ  |  NEXT−無題/王 ID:otvP2O7G0