ある王国の滅亡
◆vMDm/ZpiU6




106 名前:ある王国の滅亡 1/4 ◆vMDm/ZpiU6 :2006/09/09(土) 19:58:40.34 ID:xgubRcof0
「我が王国始まって以来の危機だ」
 円卓に集いし者たちが口々に言う。存亡の危機だ。
 誰もが焦り、戸惑い、絶望する。
 そんな中、ただ一人口を紡いで鎮座する者がいた。
 何者でもない、この王国の女王である。
「…既にあの軍事大国、サムライの国が“奴ら”によって滅ぼされた」
「サムライの国が手も足も出ないとなると、我らの国では…」
「いや、何か手があるはずだ。サムライの国は武力があっても頭が無い」
「そうだ。我々には優れた頭脳がある」
「では、何か有力な方法を考えよう」
 だが、発案した途端に誰も言葉を発しなくなってしまった。  長い沈黙の後、若い議員が恐る恐る手を挙げる。
「停戦協定は?」
「既に行ったが、意思の疎通は不可能だ」
 即座に外交大臣が否定。
「“奴ら”、我々の言葉を解せぬよう。まるで聞こえないかのようだ」
 それから大きく嘆息して、交渉に向かい帰らぬ者となった部下のことを嘆いた。
 その様子を見やり、軍の幹部が憤慨し、テーブルを叩きつける。
「サムライの国以下の低脳らしいな、“奴ら”は!」
「ただ、純粋なる暴力は何よりも恐ろしい」
「ではどうすればいいのだ!」
 会議室は再び沈黙に包まれた。


107 名前:ある王国の滅亡 2/4 ◆vMDm/ZpiU6 :2006/09/09(土) 19:59:17.82 ID:xgubRcof0
 ……包まれたはずだったのだが、どこかから重い音がする。
 円卓が、彼らの住処が揺れる。
「ひっ」
「奴らだ!」
「ついにこの時が…っ」
 慌てふためく大臣たち。
 そんな中、女王だけが静かに口を開く。
「“アレ”を使おう」
「なんですと?!」
 『奴ら』の襲撃の予兆に輪をかけたような混乱。
 しかし、女王は決して動じない。
 動じない振りをしているだけかもしれない。内心ではとても話し合いなど出来る状態ではないかもしれない。
 国の主たる王が無様に慌てていては、示しがつかぬ。
 全身から、あらんばかりの威厳を放出させるつもりで、女王はもう一度発言する。
「我が王国の最終兵器を使おう」
「確かに! 確かに我が王国存亡の危機ですが!」
「陛下! お気を確かに!」
「あの兵器は陛下のお命を吸い取ることにより発動する! それがわかっておいでか!」
「黙れ!」
 まさに鶴の一声。静まり返る室内。
「……わらわとて、“アレ”は使いたくなかった。だが……」
 実際、女王の体は恐怖に打ち震えていた。
 怖い。命を失うのが恐ろしい。
 だがそれは皆同じ。ここで女王が立たねば、国家そのものが失われてしまう。
 代わりなどいくらでもいる。女王自身の寿命もそう長くは無い。
 だからこそ。
「だからこそ! 国民のために命を棄てなければならないのではないか!?」
 静まり返った会議室に、女王の声が木霊する。


108 名前:ある王国の滅亡 3/4 ◆vMDm/ZpiU6 :2006/09/09(土) 20:00:06.07 ID:xgubRcof0
 やがて、どこからか小さな拍手が起こった。
 それを初めとし、割れるような拍手が巻き起こり、円卓を支配した!
「王!」
「国王!」
「万歳」
「万歳!」
「ロイヤルスイート十二世万歳!」
 会議室の戸が突き破られ、拍手と歓声が爆発する。
 なるほど、筒抜けだったわけだ。
 国王はニヒルに笑ったのち、王国全土に響き渡りそうな大声で、自らの国を讃える。
「我が国民に栄光あれ」
「我らが女王に栄光あれ」
 大臣たちだけでなく民が、王国が呼応する。
「我らの王国に栄光あれ!」
 今、王国はひとつとなった。
「私は一匹じゃない」
「はい」
「皆、ひとつだ」
「はい」
 感動のあまり、泣き伏せる大臣たち。
 女王は民を、忠臣を見渡し、満足げに頷き、声高らかに宣言する。
「では準備を開始しろ。最終兵器、『ファイナルジャッ……」
 女王が宣言しようとしたその時。
 城も。
 民も。
 大臣も。
 棲家も。
 最終兵器も。
 女王本人もまでも。
 全てが、水に流された。


109 名前:ある王国の滅亡 4/4 ◆vMDm/ZpiU6 :2006/09/09(土) 20:00:37.47 ID:xgubRcof0
「すげぇすげぇ! お前ほんと酷い奴だな!」
「別にいいだろ! お前だって踏み潰すの楽しんでるくせに!」
「あははは! でも俺でも『巣を水攻めにする』なんて考え付かないぜ!」
「ま、いいか! アリンコだもんな!」
「今日は寝ションベンだ!」
「おもらしだ!」
「「ぎゃははははははははははははははははははははははははははは!!!!」」

 気付かれぬ間に、超文明と言う物は生まれたり消えたりしているのかもしれない。 


 ―― ある王国の滅亡 糸冬 ――




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