無題/王
無題/王 ◆hqltjF9v.Q




35 名前:王 ◆hqltjF9v.Q :2006/09/09(土) 15:33:32.51 ID:hQZ/vv940
王。
それは統治する者。
王。
それはその国の象徴。
王。
それは我が家の大黒柱。


時は、私怨獄時代。
この国には、数々の王が君臨している。
何故、王が数々君臨しているのか。
それは――


一家に一人王が居るから



朝だ。
清清しい朝。
鳥達も私を称えるかの様な賛美歌で私を起こしてくれる。
時間は…9時55分
そろそろ隣国が攻め込んでくる時間だ。

ピンポーンピンポーン

ほら、おいでなすった。
「王、隣国が攻めて来ました。」
バタン。と勢い良くドアが開けられる。


36 名前:王 ◆hqltjF9v.Q :2006/09/09(土) 15:34:09.83 ID:hQZ/vv940
「解ってるよ!!ノックしてって言ってるじゃん!!どうしてママはいつもノックしないのさ!!」
コレが私の素である。
「母親に向かってその口の聞き方はなんだい!!」
「まぁ、良いけどさ…」
「それより、王。今回は如何して撃退しましょうか。」
神妙な顔つきで母と呼ばれる物体が尋ねてくる。
「今日も相手の思うままにやらせて勝ち取るよ。」
「頼もしい限りで御座います。」
私は、そのまま部屋を出て玄関に向かった。

ピンポーンピンポーンピンポンピポピポピポピポ
「うるさあああああああああい!!」
叫びながらドアを開ける。
「ふっふっふっふっ。出たな杉本ノ王よ。この国はわが国が頂く。」
薄ら笑いを浮かべている中年の男。
この男とは、私怨獄の世になってから毎日撃退し続けて気付けば早5年。
「良く飽きないね。斉藤ノ王。」
「今日こそ年貢の納め時だからな!!」
「毎日言ってるよ…それ…」
「コホン…とっ兎に角今日は違う。」
咳払いをしてから斉藤ノ王はポケットを漁る。
「また変なの持ってきたの?もうヤダよ。お腹空いた。」
「今回はコレで蹴りをつける!!」
ジャーンと出したのは、オセロ。


37 名前:王 ◆hqltjF9v.Q :2006/09/09(土) 15:34:45.63 ID:hQZ/vv940
「いつも思うんだけど、どうしてそんなに大きいものがそのポケットに入ってるの?」
「蒼い狸から奪ったんだ。」
そう言いながらオセロをセットしている。
毎度の事ながら楽しそうだ。
「白か黒。どっちが良いんだ?どっちだ?」
「じゃあ…黒…」
「解った白だな。」
「黒だよ!!」
「白しか無い。黒は俺が使う。売り切れだ。」
「ズルイよ!!」
「大人はいつもズルイのさ。」

パチパチと無言の時間が流れる。

「あ、其処裏返すの手伝って。」
「ん。」

パチパチ

「何で毎日飽きないの?」
「解らない。」

パチパチ


38 名前:王 ◆hqltjF9v.Q :2006/09/09(土) 15:36:18.16 ID:hQZ/vv940
「ずるい!!そこ絶対白だって!!」
角を指差して叫ぶ。
「良いや。此処は黒だった。初めから黒だった。」
「白白!!絶対白!!」
「仮に俺が白を黒にしたとしよう。それが何だ?」
「うわ…有り得ない…」
「勝負に卑怯は付き物だ。文句があるならサマした瞬間に手を掴みな。」
「もう良い…」

パチパチパチパチ

「置く所無いからパスだね。じゃあ此処。」
パチと置く。
「またパスだね。じゃあ此処で御終いだ。」
ガシャーン!!
オセロがひっくり返される。
「覚えてろ!!杉本ノ王!!」
斉藤ノ王はそのまま、隣の家。いや、隣の国に帰って行った。
さ、朝食でも摂るか。

「お腹すいた。ご飯」
「解りました。直ぐにお持ちします。」
母はパタパタとキッ…厨房に駆けて行く。


39 名前:王 ◆hqltjF9v.Q :2006/09/09(土) 15:37:24.40 ID:hQZ/vv940
「王、撃退ご苦労様です。」
「あ、パパ居たの?」
「度々思うのですが、どうして侵略をなさらないのですか?」
「何か嫌じゃん。」
「でも、隣の町内を占めてる橋本ノ王に侵略されたら一たまりもありませんよ。」
「だって、お隣さんだし仲良くしなきゃ。」
「寝首を掻かれても良いのですか?」
「そうじゃないよ。斉藤ノ王だって、毎日楽しそうだし。」
「それは、わが国を支配しようとしてるからでしょう。」

トーストと牛乳が私の前に並ぶ。

「斉藤ノ王は、私が負けそうになったらワザと負けてくれるんだよ。
でも、本人はワザとじゃないって言い張るけどね。」
「でも、他国が攻めて来たらどうするのですか。」

「ふぉのふぉきはふぉのふぉきふぁよ(その時はその時だよ)」
トーストを頬張りながら私は言った。




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