873 名前:合わせ鏡(1/4) ◆GdURz0pujY :2006/09/09(土) 04:56:25.65 ID:pMR7gJ3t0
ある蟻がいた。
その蟻は女王蟻で、彼女に従う蟻の数は数百匹といた。
巨大な巣を埋め尽くすほど存在する蟻達。その頂点に君臨している女王蟻。
食事は働き蟻が勝手に運んでくる。彼女がするのは蟻の出産だけだ。
贅沢な生活だ。まさに彼女は『この世界』の王だ。
彼女もまた、自分が王であることを自覚しており、そのことを誇っていた。
いずれは自分は死ぬ。しかし、その後は自分が生んだ子達が旅立ち、新たな『世界』を
創り王となり君臨するだろう。
なんと喜ばしいことだろう。
そんな優越感に浸りながら、彼女は自分の『世界』を見つめてい――
――もぐもぐ。
ある猿がいた。
その猿は群れのボス猿で、彼に従う他の猿の数は数十頭。
大きな群れだ。十数頭のオスとメス、そして小猿達。それらの頂点に君臨しているボス猿。
食事は必ず群れの最初に始め、毛づくろいは他の猿に任せる。
彼はこの群れの中で最も強いオス猿だ。だが、もし彼に勝つかもしれない強力なオス猿
が現れれば、ボスの地位を取られてしまうかもしれない。
だが、彼はそれもまた楽しみだと考えた。
自分に匹敵するようなオス猿。それすらも凌駕して、自分はボスという地位を維持する。
まさに王。
彼こそが、この猿の群れの王なのだ――
874 名前:合わせ鏡(2/4) ◆GdURz0pujY :2006/09/09(土) 04:56:57.23 ID:pMR7gJ3t0
――はぁ……。
ある男がいた。
彼は動物園の園長で、その動物園には数百種類の動物が飼育されている。
哺乳類、爬虫類、鳥類、多くの種類の動物を飼う施設の最高責任者。
人情に溢れ、動物へ多くの愛情を注ぐ彼は、部下から多くの人望を集め、慕われている。
まさにこの動物園(世界)の王たりえる存在だ。
彼には夢があった。
もっと多くの人たち、特に子供達にここにいる動物たちを見せたい。
動物達を見て喜ぶ彼らを見たい。
それを望みとして、彼は日々懸命に働いていた。
しかし、彼の望みとは裏腹に、園へ訪れる人の数は年々減っていた。
彼はそれで頭を抱えていた。
王である彼の悩みであった――
――……。
ある国王がいた。
彼の国。広大な土地面積を持つその国は、日が沈まないとさえ言われている。
人口十数億人。巨大、あまりにも巨大すぎるその国を統治する王。それが彼だ。
彼の祖父にあたる人が、世界大戦で大勝し出来上がったのがこの巨大な王国だ。彼は
その王国の王の座を継承したのだ。
「……暇だなぁ〜」
彼のぼやきに、そばにいた大臣が問いかけた。
「暇……ですか……」
「あぁ、暇だよ」
王は即答した。
875 名前:合わせ鏡(3/4) ◆GdURz0pujY :2006/09/09(土) 04:57:35.81 ID:pMR7gJ3t0
幼少期より甘やかされて育った彼は、行政などには全く関心を持たず、日々どうやって
暇をもてあそぶかを考えていた。国の行政は、実質この大臣がやっているといっても過言
ではない。
もちろんこのことは世間などには一切知られていない。知られれば色々と問題だ。
「遊園地作ろう。遊園地」
「遊園地……ですか……」
王の提案に大臣が眉をひそめる。
「そう。うんとでっかいの。そうだな〜」
言って、王はガラス越しに見える『国』を見下ろした。
「このすぐ近くに欲しいな。あ、あそこ。あの動物園潰したら結構土地稼げるんじゃない?
確か、入園者数どんどん減ってるんでしょ? あそこ。それ理由にして潰しちゃお。それで、
でっかい遊園地作るんだ。うん、そうしよう。すぐしよう」
さすがに大臣も、王のハチャメチャ振りを咎めようと思った。
「お言葉ですが、国王様。そのような自分勝手な行為は、国民の心を離れさせてしまいま
す」
しかし、そんな大臣の言葉にも王は全く悪びれる様子はなく、こう答えた。
「いいんだよ。この国は僕のものなんだから。僕の好きなようにしていいんだよ。この
国は……いや、この世界にあるものは全部僕のものだ。だから、僕は何してもいいの。
僕は神様なの。わかった?」
あまりにもわがままな国王。この大臣も先代の王と親交がなければ、こんな王の下で
働いたりはしなかっただろう。
ため息とともに、大臣は部屋を出ようとした。が、そこで異変は起こった。
「あれ……?」
突然、王が倒れた。
大臣が慌てて駆け寄ったが、その時すでに王の呼吸は止まっていた――
876 名前:合わせ鏡(4/4) ◆GdURz0pujY :2006/09/09(土) 04:58:07.76 ID:pMR7gJ3t0
――……ふぅ。
神様がいた。
この世界を創ったとされるもの。まさに頂点。紛うこと無き『この世界』の王。
これを超える存在など、この世界のどこを探しても存在しないだろう。
にもかかわらず、自らを世界の所持者と言った愚か者に、神は天罰を与えた。
広大な宇宙。その片隅のゴミ屑のような星の、これまたゴミ屑のようなちっぽけな存在。
それが世界の所有権を主張するなど、なんと愚かなことだろうか。恥を知れというものだ。
世界の創造者はため息一つ。また別のゴミ屑を見始めた。
こうして、究極の王は世界を見つめ続ける――
――……できた。
ここに私がいる。
これまでの『世界』のなんとちっぽけなものか。
あまりにもちっぽけすぎる。それこそ『世界』は私の頭の中にしか存在しない。
だが、それでも『その世界』は私が創ったものであり、故に私は『その世界』においての
究極の王といえるだろう。
そう、王だ。ただの妄想王だ。
そんなことを考えながら。妄想王である私は、品評会にこの妄想を投下する。