【 いもうとのとくべつさぁびす 】
◆VXDElOORQI




40 名前:いもうとのとくべつさぁびす ◆VXDElOORQI :2006/09/03(日) 23:59:45.50 ID:OV5tYxXV0
「はぁ」
 俺は家に帰るなり、ソファーに体を預けた。すると後ろから妹が声をかけてきた。
「おかえり、お兄ちゃん、またフラれたの?」
「うるせえよ。待ち合わせ場所で急に電話がかかってきて『もう貴方とは会いたくない』だってさ」
「アハハ。またそれなんだー。前もそんなこと言われてたじゃん」
 うるないやつだな。デリカシーって言葉知らないのか。
「だからいつも言ってるでしょ。お兄ちゃんを愛してるのは私だけだって」
 またそれか。妹はいつもそう言って俺をからかう。
「今はその手の冗談は勘弁してくれ」
「冗談じゃないよ」
 そう言うと妹は、俺に後ろから抱き付いてきた。胸が俺の背中に当たるのを感じる。だが、いつものことなのでどうということはない。ってあれ?
「お前なんで、ブラジャーしてないの?」
 背中に二つの突起物が当っているのがわかる。
「えへへ〜。わかった? 今日はフラれたお兄ちゃんにサービスしてあげてるんだよ」
 全然うれしくないのはなんでなんだろうね。
「あっそ」
「なによその態度はー! そんなんだからすぐフラれちゃうんだよ!」
「フラれるって言っても、なぜか相手が急に会いたくないって言ってくるんだぜ。誰も訳を話してくれないし」
 そう。なぜかいつも俺は急に相手から別れを切り出せれてしまう。これで三人目だ。
「よっぽど、お兄ちゃんのことが嫌いになったんだね。お兄ちゃんの魅力がわからないなんて、可哀相な人。お兄ちゃんの魅力をちゃんとわかってるのは私だけだよ。愛してるよお兄ちゃん」
 そう言って妹は、俺の耳元でフフッと笑った。

 それからしばらくして、俺に新しい恋人が出来た。今日は彼女との最初のデートの日だ。
「それじゃ、行って来る」
「行ってらっしゃい。お兄ちゃん。フラれても私の愛で慰めてあげるからね。今度はもっとサービスするからね」
「うるせえよ。余計なお世話だ」
 まったく嫌なことを言う妹だ。

41 名前:いもうとのとくべつさぁびす ◆VXDElOORQI :2006/09/04(月) 00:00:19.23 ID:TjRPQIPA0
 家から出てしばらくすると俺は玄関先に忘れ物をしたことに気付いた。彼女に渡すプレゼントだ。俺はプレゼントを取りに家へと引き返した。
「彼女には少し遅れるってメールしたし、まあ大丈夫だろ」
 家の前に着くと妹が出かけるところだった。ただ、妹の様子が少しおかしかった。
 いつもの小悪魔的な笑顔ではなく無表情。何か空恐ろしいモノを感じさせる顔だった。
「あいつ、今日はどこにも行かないって言ってたのに、どこに行くんだ?」
 妹は俺のほうに向かって歩いてきたので、反射的に身を隠してしまった。
 とりあえずプレゼントを取ってこようと思い家に入る。そこには包丁が突き刺さりグシャグシャになったプレゼントが置かれていた。
「な、なんだよこれ」
 俺は恐怖を覚えた。まさか妹が? そう思ったとき不意に電話がかかってきた。
「うわっ!」
 俺は電話の着信音にびっくりして思わず叫び声を上げてしまった。ビビリな自分に情けなさを感じつつ電話に出る。
「もしも『ちょっと! いつまで待たせるのよ! 早く来なさいよ!』
 俺の声を遮って、文句を言ってきたのは彼女だった。時計を見れば、もう待ち合わせの時間から一時間も立っていた。流石に『少し』を過ぎている。
『早く来てよね! 三十分以内! わかった?』
「ご、ごめん! すぐ行くから!」
『早くしてよね! え? 貴方誰? ちょっとなに! やめっ』
 ブチッ。ツーツーツー。
 電話が突然切れた。それに最後のほうは彼女の様子がおかしかった。俺は急いで彼女との待ち合わせ場所に向かった。

 全速力で向かった待ち合わせ場所に彼女はいなかった。
 ただ呆然と立ち尽くしていると、また電話の着信音がする。電話の相手は彼女だった。俺は急いで電話に出る。
「もしもし! 大丈夫なのか?」
『もう貴方とは会いたくない』
 感情のこもっていない無機質な声でそう言って、彼女は電話を切ってしまった。それからいくら彼女の電話にかけても繋がらなくなった。

 家に帰ると玄関先の包丁が突き刺さったプレゼントは無くなっていた。
 その代わり妹が玄関先に立っていて、こう言った。
「お兄ちゃん。またフラれたの?」





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