【 セロリ 】
◆qwEN5QNa5M




867 名前:セロリ 1/3 ◆qwEN5QNa5M :2006/09/03(日) 22:03:36.20 ID:JdRPIZiu0
俺はとにかく大嫌いな食べ物がある。
セロリだ。
まあ、好きだと言う人に会った事は無いが、
俺は絶対に食べられない。

何故食べられないのかは知らないが、
色んな人がまずいまずい言うので、それが脳内でトラウマになってるのかも知れない。

小5の校外授業で八ヶ岳へ泊まりに行った時、
セロリが出てきた。
俺は先生の向かい側の席だったので、誤魔化して残す事が出来ずに
吐きそうになって泣きながら食べた。
それからのあだ名はセロリである。
最近じゃセロリが食べられない自分に劣等感を持つようになったほどだ。

総合の授業であだ名についての話をした。
あだ名がある事を誇りに持て、話題にならなくなった時が終わりだ、
とお笑い芸人になれなかった先生は言っていた。

そしてその先生は放課後俺を呼び出した。
「セロリを愛せばいつの間にか食べれるようになる。
 ニラだって苦いのにお前は食べられるだろう?
 だからセロリを愛すればいいんだ」
ベタな内容だったが、俺はちょっと感動した。

868 名前:セロリ 2/3 ◆qwEN5QNa5M :2006/09/03(日) 22:04:11.14 ID:JdRPIZiu0
そして今年は日光へ行く事になった。
俺はセロリが出ない事を家康に祈りつつ、
夜を迎えた。

そして出された夕食を見た。
端っこの方にある野菜を見て俺は絶句した。
まぎれもなく、コレはセロリである。
出るのなら殺してしまえホトトギス。
一句出来た。しかしこれは家康ではない。信長だ。

「おいセロリ、お前いるじゃん!」
「共食いかよ〜!」
何故そういうあだ名が付いたのか知らない人が俺を馬鹿にする。
共食いとか出来るものならしてやりますよ。

そして目の前には2組の担任の山本がいる。
ちなみに俺は1組。

こいつは特別礼儀に厳しく、飯を残す人間は絶対悪と見なす。
そういう行為自体が迷惑極まりない事が分からないのだろうか?

「おい佐藤、お前ちゃんと食えよ」
プレッシャー掛けんじゃねーよ。ますます食えなくなるっつうの。

はあ、でも俺ってセロリを食べられないからダメな人間なのかな…
良く何かに欠如している人間は凄い才能を持つって言うけど、
俺には飛び抜けた要素は無いし。

俺はネガティブになりつつも完食した。
ただし一品を除いて。

869 名前:セロリ 3/3 ◆qwEN5QNa5M :2006/09/03(日) 22:04:45.07 ID:JdRPIZiu0
俺の目の前にはセロリが聳え立っている。
さて、これをどうしよう。
山本はさっきから定期的にこっちをチラ見するし。

仕方なく俺はセロリを口にほうばった。
全身に伝わるセロリの味と、食べたと言う事実が俺の吐き気を促進させる。

ダメだ、噛んだら吐くわコレ。
俺は席を立った。
「おい佐藤、食いながら立つな」
「んー、んー」
俺はトイレを指差し、止めようとする山本を無視しトイレに走って行った。

席に戻ってきた時には食事は終わっていて、うちの担任と山本がいた。
「お前何したんだ」
完全にキレている山本を無視し、俺は担任に言った。

「先生、ありがとうございます」
「は、どうしたんだお前?」

「俺はセロリを食べられないと言う事実を受け止め、
 前向きに生きる事にしました。
 自分を愛して、出来ない事は程々でやめる事にしたんです。
 こうする事が出来たのも、先生のお陰です」

固まっている2人を尻目に、俺は自分の部屋に逃げ帰った。



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