638 名前:『無敵感』 ◆Cj7Rj1d.D6 :2006/09/03(日) 06:26:44.12 ID:QnAfcrr6O
自転車をめいいっぱいこぎながら、僕は彼女の家を目指す。いつもならブレーキを踏む急な長い下り
坂も一気にかけおりる。ガタガタとハンドルが揺れる。危ないとはわかっているけど、今なら絶対に
事故らない自信がある。
なんだろう、この無敵感は。
加速していく――。
ぐんぐんぐんぐん坂を下りていく。ここからは海と街が一望できて、全てはオレンジに染まっている。
心がむずむずして、自然に笑みがこぼれる。今の僕は敵なしだ。
坂を下り終えて、住宅地を抜けて、川の側の遊歩道を走る。帰宅途中のサラリーマン、川原で遊ぶ子
供、手を繋いで歩く親子。全てが横をすり抜けていく。街は静けさをおびていっているというのに、
僕の心ときたら、無邪気に踊り続けたままだ。
速度も、この想いも、加速しっぱなしだ――。
遊歩道を抜けた先の住宅地に入り、僕は、彼女の家に着く。
呼吸を整える。
約束していた通りに、彼女の携帯にワン切りを入れる。すぐに彼女は家から出てきた。
「早かったね……って大丈夫!?すごい汗だよ。それに、制服のまんまだし。急いで来すぎだよぉ。」
僕は、笑顔で答える。
「早く会いたかったからさ。」
「……泣いてる?」
639 名前:『無敵感』 ◆Cj7Rj1d.D6 :2006/09/03(日) 06:28:12.50 ID:QnAfcrr6O
あれ?本当だ……。なんで、僕は泣いてるんだ?すごい嬉しいはずなのに……。僕は、半袖のワイシ
ャツの裾で、あせと涙を拭う。気付けば鼻も詰まっている。
「そんなに私がOKしたの、嬉しかった?」
彼女は意地悪な笑顔で僕の顔を覗きこむ。
「そりゃあ……う゛ぃっ、嬉しいに……う゛ぃっ、決まってるさ……う゛ぃっ。」
勝手にむせぶこの身体が憎らしくて堪らない。ああ……ださいなぁ。
「あは。嫌いじゃないよ。そういうとこ。」
彼女は、優しく微笑む。
その笑顔一つで、気持ちは速度を上げる――
この人がいれば、僕は無敵だ。
不確だけど……でも、確信は持てた。
「よし、これからデートしよ!私、チャリの後ろに乗るからさ。」
「う、うん。」
「ほら、シャキッとせんかい!!」
と言って、彼女は笑いながら僕の延髄にチョップをした。
僕は、なんだか取り残されたようなおももちで、自転車を海に向かってこいだ。
まだ、お互いわからないことだらけだけど、それでも、今日から、僕たちは恋人どうし。
末永く宜しくお願いします、と後ろに座る彼女に、僕は心の中でお辞儀をした。
《完》