368 名前:コイノヤマイ ◆VXDElOORQI :2006/08/27(日) 23:58:02.51 ID:bGBgERXY0
「おはよ」
朝、俺がリビングに行くと妹がもう朝食の用意をしていた。
「お、おはよ。朝ごはん出来てるよ」
「おう」
妹は家事全般は得意だ。特に料理の腕はかなりのもんだと思う。今日の飯もうまそうだ。
「お前、今日から学校だろ? 急がなくていいのか?」
「うん」
最近、妹の様子がおかしい。俺と目を合わせようとしないし、話もあまりしてくれない。嫌われるようなことをした覚えはないんだが。
「なぁ」
「何?」
「俺、お前に何か嫌われるようなことしたかな?」
ビクッと妹の体が反応する。やっぱり何かしたのかな。
「最近、避けられてるような気がしたからさ」
「……違うよ。嫌ってなんかない」
妹は顔を真っ赤にして、俯きそう言った。
「なら、いいんだけど。お前顔真っ赤だぞ。熱でもあるのか?」
妹の額に手を当てて、熱があるかどうか確かめようとする俺の手を妹は、
「だ、大丈夫だから」
と言って、阻止した。
「わ、私もう学校行くね」
そう言って、妹は朝食もそこそこに学校に行ってしまった。やっぱり嫌われたのかな。
学校の道を歩きながら私はため息をつく。
「私、どうなっちゃったんだろ……」
最近、お兄ちゃんのことを見ると心臓が高鳴って、変というか、妙というかそんな気持ちになる。お兄ちゃんが他の女の人の話をしてるのを聞くとイライラしたり、前まではこんなことなかったのに……。
今日、友達に相談してみよう。
373 名前:コイノヤマイ ◆VXDElOORQI :2006/08/27(日) 23:59:56.92 ID:bGBgERXY0
「――というわけなんだけど、私病気なのかな?」
学校に到着した私は、友達にこのことを相談した。お兄ちゃんを見てそうなることは言わなかった。なぜか言わないほうがいいと思ったから。
「それはズバリ! 恋の病ね!」
「コイの病?」
聞いたことのない病気だ。一体どんな病気なのか想像もつかない。怖い。
「それってどんな病気なの? 死んじゃったりしないよね?」
「あんた相変わらずそういう知識全然ないね。死にはしないと思うけど……。けど死にたくなるほど苦しくなることはあるかも」
そんな大変な病気になってたなんて……。
「そ、それはなに科に行けば治してくれるの? 外科? 内科?」
友達はハハッと笑って、こう言った。
「病院行っても治せないよ」
病院では治せない? じゃあどうすればいいんだろう。私はこのまま死にたくなるほどの苦しみを延々味わい続けて生きることになるのだろうか……。
「治すならその人に告白するか、その人にもう会えない状況になるとかしかないんじゃないかな?」
告白? なにを告白するんだろう。わからない。だけどもう会えない状況にするっていうのは理解できる。お兄ちゃんと一緒にいるとこの病気の症状が出るんだ。もうお兄ちゃんと会わなければいいんだ。でも、私はお兄ちゃんと一緒にいたい。離れたくない。
「もう会えない状況ってどんなのがあるかな?」
「そうだなー。相手が遠くの引っ越しちゃうとか、死んじゃうとか? あと相手に彼女がいても諦められるかも」
お兄ちゃんは一緒に住んでるんだ、遠くに引っ越すなんてあるわけない。お兄ちゃんが死ぬ? でも都合よく事故や病気になるわけないし……。どうすればいいんだろう。
学校から帰ってきてから妹の様子はさらにおかしくなっていた。
何か考え事をしていたのか夕飯のハンバーグを見事に焦がし、今日の晩御飯はカップラーメンに変更となった。妹が料理で失敗するなんて珍しい。よほど深刻な事態に直面しているのか、ハンバーグを焦がし後妹は部屋へと閉じこもってしまった。
深夜、そろそろ寝ようと思っていたところに妹が俺の部屋にやってきた。
「……お兄ちゃん、いる?」
扉を開けるとそこには泣いている妹が立っていた。
「ど、どうしたんだよ」
「お兄ちゃん、私病気になっちゃったの」
374 名前:コイノヤマイ ◆VXDElOORQI :2006/08/28(月) 00:00:53.58 ID:Id/T7k5m0
病気? 今朝顔が赤かったので熱でも出たのだろうか。
「風邪でも引いたのか? 病院行くか?」
妹は首を横に振る。
「違うの。そんなのじゃないの。病院に行っても治らないの」
わけがわからない。病院に行っても治らない? それってどういうことだよ。もう妹は死ぬしかないってことなのかよ。
「でもひとつだけ治す方法があるの。それはお兄ちゃんがいなくなることなんだって」
俺がいなくなることが治す方法? ますますわけがわからない。一体どんな病気なんだ。
「それってどういう――」
その時、俺の下腹部に猛烈な痛みが走り、俺はその場に崩れ落ちた。
「ごめんね。お兄ちゃん。私これしか思い浮かばなくて……」
泣いてる妹の手には赤く濡れた包丁。俺はやっと自分が妹に刺されたことに気付いた。
「な、なんで……」
俺は力無い声で妹に疑問をぶつける。妹は泣きながら答える。
「ごめんねごめんね。お兄ちゃんとずっと一緒にいたかった。ただそれだけが私の望みだった。けどそれが無理だとわかったの。それでも一緒にいるにはこの方法しか思いつかなかった。私も後から行くから、それまで待っててね。ごめんねお兄ちゃん」
俺はその言葉が理解できなかった。その言葉が何を意味しているのか。妹の病気とはなんだったのか。なぜ俺を殺すのか。わけがわからなかった。
刺された箇所から血が溢れるように出てくる。俺は焦ってその箇所を手で押させる。それでも手に伝わる暖かい感触は次第に手の隙間からあふれ出し、床を真紅に染めていく。それと同時に俺の意識もどんどん虚ろな物へとなっていく。
俺は自分がもう死ぬことを確信した。もう痛みも無い。赤い液体が俺の周りに広がっていく。聞こえるのは妹が壊れたおもちゃのように言い続ける「ごめんね」の言葉だけだった。
終