【 中毒 】
◆dx10HbTEQg




331 名前:中毒1/2 ◆dx10HbTEQg :2006/08/27(日) 23:15:28.70 ID:uIlhOIFM0
ばらばら、ばらばら。
焼けたアスファルトの上に散らばっていくそれを見て、私は眉をひそめた。
赤、青、白の、色とりどりの錠剤やカプセル剤。あー勿体無い。
「お前、なんだそれ」
「ん? ……見れば分かるじゃん」
これはビタミンC、これはコラーゲン、これは鉄分。説明しながら拾い上げる。うーむ、汚れたようには
見えないし、洗えばまだ呑めるかな。カプセルは洗ったら溶けそうだよなあ。中身取り出そっか。
横をちらりと伺い見ると、嫌悪感を顕わにした正紀。嫌ーな予感。
「普通に食事を取っていれば必要ないだろ」
「……だってさー」
面倒だし。食事作るのも食べるのも。それにダイエット中だし?
正直に告白したら怒るだろうなあ。こいつ、妙に健康にはうるさいから。
回収し終えてピルケースを閉じようとしたら、壊れて閉じない。あちゃー、だからばらまいちゃったのか。
「だって、なんだよ」
「え? あ、だって体にいいでしょ、サプリって」
「だからって食事を抜いていいわけじゃない」
バレてら。
まあ、毎年私が夏バテになるのはこいつに知られてるし、最近食事に誘われても行かなかったしなあ。
「でもさ、ほら、栄養は足りてるわけで」
「アホか! いいか、俺はな?」
毎朝ジョギング一時間、食事は栄養バランスを考えた上で三十品目以上、半身浴を二十分云々。
どこの主婦だ。乾布摩擦は普通冬じゃないのか、この健康マニアめ。
うわー。私ならかえって病気になるよ。これって健康のためなら病気になってもいい、ってヤツ?
「今デート中でしょ! もー、そんな講義いいからさ」
「なっ、俺はお前を心配して」
「よけーなお世話様!」

332 名前:中毒2/2 ◆dx10HbTEQg :2006/08/27(日) 23:15:59.01 ID:uIlhOIFM0
そんなこんなで喧嘩別れした翌日、私は薬局にいた。
さすがに落とした薬は飲めなかった。洗ったらべとべとになったし、拾うまでに三秒以上かかってたし。
「お前、俺があれほど言ったのに」
「うへあ?」
背後からかけられた声。もしかしなくとも、正紀だった。
私がいるのは健康食品のコーナーの中の、サプリメントが陳列されている場所。
誤魔化すのは難しいか……って。
「何、風邪ひいたの?」
正紀の持つかごの中には、冷ピタやら風邪薬やら。ここに来る前にスーパーに寄ったのか、白いビニール袋から
ネギが覗いてる。そういや風邪ひいたらネギを尻に刺すといいんだっけ?うーん……想像したくない。
確かに顔が赤いし、大丈夫かな。
「お、俺の事はどうでもいいんだよ。それよりお前、俺と薬とどっちが大切なんだ!?」
お前本当にいつの時代の主婦だよ。風邪ひいてるわりに元気そうだしね。
けれど、その表情は真剣そのもの。私を心配してる、ってのは分かるんだけど……。
なんていうか、ぶっちゃけウザいっていうか。
それでも正紀は私の愛する恋人だ。どうにか傷つけないような言い訳を……探せ、探せ自分。がんばれ。
「……おい」
「いや、だからさ……あ、ほら!」
とっさに思いついた言い訳に、私はにんまり顔を緩めた。
「薬が嫌いになる薬がないかと思ってさ」






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