【 OKAYU 】
◆O8W1moEW.I




128 名前:「OKAYU」 ◆O8W1moEW.I :2006/08/26(土) 23:49:52.96 ID:67AIcsgZ0
おかゆ食ったら風邪ひいた。


39度の高熱で、病院に行くこともままならない。
悲しいことに、俺には看病してくれる恋人だっていやしない。
8月下旬、クーラーもない部屋で俺は、なんとか扇風機の微風で暑さをしのいでいたつもりだった。
だが、やはり風邪で衰弱したこの体では次第に誤魔化しが聞かなくなってくる。
暑い、このままとろけて畳と一体化してしまいそうな間隔に陥る。


俺は、先日の近所のスーパーでの出来事を思い出していた。
パッケージに「おかゆ(反抗期)」と書かれた新製品のおかゆ。
様々なメーカーのおかゆがせめぎ合う、おかゆカオスとでも言うべきおかゆ売り場にただひっそりと、1つだけ置かれたおかゆ(反抗期)。
聞いたこともない名前のメーカーに、謎の言葉”反抗期”。
普段なら真っ先に購入対象から除外するはずのこの怪しいおかゆに、なぜか惹かれるものを感じた俺は、気がつくとそのおかゆをカゴに入れてレジに並んでいた。

反抗期という言葉がなにを示唆していたのかということ気づいたのは、食って数時間後だった。
頭痛に襲われ、ポーッと熱っぽくなり、体に悪寒が走った。
反抗期というのはつまり、普通なら病人のお供とでも言うべきおかゆが、それに反抗して病気の原因になったということだった。

129 名前:「OKAYU」 ◆O8W1moEW.I :2006/08/26(土) 23:50:30.42 ID:67AIcsgZ0
思えば、おかゆは不幸なのかもしれない。
おかゆは、一般的な日本人には、風邪をひいた人以外にはなかなか好き好んで食べてもらえるわけではない食べ物である。
白米ご飯の栄光の陰に、おかゆの挫折ありというわけだ。
自分の存在は、そんなちっぽけでいいのか、もっとなにか、別のことができるんじゃないのか。
おかゆは、きっと人知れず、いや、おかゆ知れず悩んだに違いない。
もっと私を見て、私を感じて、私を抱きしめて!
悲痛な叫びである。病人に食べられる以外に道のない、おかゆに生まれた宿命。彼らはその十字架を死ぬまで背負うのだ。

そんなおかゆが、俺に見せたささやかな抵抗。
あのおかゆが、俺に正面からぶつかってきてくれたことが、今なにより嬉しかった。
すでに全部食してカラになったパッケージの紙袋を、俺はギュッと抱きしめる。
あの日あの時あの場所で君に出会えた奇跡。
俺たちが惹かれあったのは、お互い似た者同士だったからなのかもしれない。
触ったら怪我でもしそうなほど、トゲトゲした、それでいて繊細な心。
あの頃誰もが、自分の生きる意味を探していた。

俺はおかゆ(反抗期)に、人生を教わった。
新しい自分、今ならなれる気がした。




その後、とりあえずメーカーにクレームの電話をした。
いまだ熱が冷める気配を見せない、暑い、昼下がりだった。


fin.



BACK−真夏の夢遊病者 ◆D8MoDpzBRE  |  INDEXへ  |  NEXT−闘病革命 ◆InwGZIAUcs