【 夢の果てにて 】
◆dx10HbTEQg




734 名前:夢の果てにて ◆dx10HbTEQg :2006/08/20(日) 23:30:28.13 ID:xD4l4dzQ0
煙と共に、そいつは胡散臭く現れた。
「てめーの願い事を3つ叶えてやるよ。言ってみろ」
筋肉質の男が胡坐をかきながら浮き上がり、俺を見下ろしている。
……ああ、困った。

事の始まりは、俺が十代の頃に遡る。
田舎での生活に辟易していた俺は、どうにか家を出る常に機会と口実を探していた。
何処かに行きたかった。都会でなくとも構わない。ただ、何かの刺激を求めていたのだ。
だから、俺がドリージーに出会ったのは必然であったのだと思う。
ドリージーとは本名ではない。ドリーマーと爺が合わさって出来たあだ名だ。
奴は、村で有名なほら吹き爺だった。
宇宙人を素手で倒した話、秘密結社のボスとして政治を裏から操った話、美人数十人とほにゃららした話。
どれもこれも下らなかったが、下らない日常を送る俺には夢のような冒険譚に思えたのだ。
中でも俺を魅了したのが、ランプの精の話だ。
曰く、祠の中に、願い事を3つ叶えてくれるランプがある。そのランプの精はゴスロリのスク水でしかも戦闘能力のあるツンデレメイドで、金髪碧眼の巨乳だというのだ!
…俺も年を取ったから、ドリージーの言っていた事が荒唐無稽だということは理解している。
ネコ耳がないなんて!
旅に出ると言い出したとき、それはもう凄まじい反対にあった。
だが、長男は家を継ぐべきだとかいった風習が嫌で堪らなかったのだ。
すぐに、俺は逃げ出した。夜中に荷物をまとめて、誰にも別れを告げず、下らない世界から新しい世界へと。

735 名前:夢の果てにて ◆dx10HbTEQg :2006/08/20(日) 23:31:02.36 ID:xD4l4dzQ0
それからは、スリルに満ち溢れた生活を送る……などということはなかった。
金はないし、女は手に入らないし、浮浪者扱いはされるし。現実を容赦なく突きつけられた。
それでも俺は諦めなかった。いや、田舎に戻りたくないがために、意地を張っていた。
何よりも俺自身の行動が下らない事を、認めたくなかったのだ。
噂と勘を手がかりに、東へ西へ。山を越え谷を越え、海では溺れ、漂流し、遭難した。多分ここ無人島。
遭難した先で、洞窟を見つけた。人の踏み入った形跡は見当たらなかった。
誰からも見捨てられた、僻地の洞窟。
俺はその時、燃えたぎる血を感じた。冒険への憧憬、熱意。忘れかけていた、夢への想い。
確かに始まりは衝動的ではあったが、確かにそれは今の俺を形作っているものだったのだ。

何かに誘われるように、俺は洞窟へと入っていった。勿論明かりなど持っていないから手探りだ。
俺は感じていたのだ。ばいんんばいんの美人なねーちゃんが俺を待っている。ポロリもあるよ!
何時間も彷徨った挙句、俺は遂に辿りついた。運命だろうか。
最奥に安置された、光り輝くランプ。こんなところにあったとは。運命、だろう。
俺は、ふらふらとそのエロティックな曲線に手を伸ばし、擦った。
そして、話は冒頭へと戻る。
出てきたのはネコ耳どころか女性ですらない、ヤクザめいた男だった。
絶望した。死にたくなった。鬱だ。
そんな俺の事情などしらず、その精は俺に願い事を催促する。
容姿はどうであれ、願い事云々は正しかったらしい。決して無駄足ではなかったのだ。
気持ちを入れ替えて、さあ願い事を……!
俺は考え、そして気付いた。困った。ああ、実に困った。
夢を叶えた俺には、もう果たしたい願いなどなかったのだ。






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