【 したいと思うこと 】
ID:dtdqfF1l0




665 名前:したいと思うこと :2006/08/20(日) 20:09:15.35 ID:dtdqfF1l0
オレンジの空は別の色になりかけている。
もう少し時間が経つと仕事帰りの会社員で溢れかえるのだが、
今は道の端で倒れている男と、それに興味の無い視線を送って通りすぎる何人かの人間しかいない。
男は何も持っていない。
小さかった電車の揺れる音が大きくなってきている。
彼は目と同様に、耳も塞いだ。
その両手を、立ちあがる為に使おうとは思わなかった。
辺りの薄暗さで吐く息の白さがコントラストで強調され、何故か彼に過去を振り返らせた。


666 名前:したいと思うこと :2006/08/20(日) 20:09:51.91 ID:dtdqfF1l0
「宇宙飛行士になりたい」
小学生の時はただ漠然とそう思っていた。
彼はクラスの発表会でスピーチする為に夢を探した。
漫画で読んだ宇宙の本に影響されたのだが、勉強をする努力はしなかった。
彼が卒業する頃には勉強で周りに差をつけられ、こんなことは思わなくなっていった。
「恋人が欲しい」
中学生から高校生にかけてはいつも思っていた。
周りの子供が何人か付き合い始めて、それを自慢しているのを聞いていた。
彼も悔しさから恋人ができることを望んだが、人に気を遣おうとはしなかった。
結局彼はずっと恋人ができなかった。
「金を手に入れたい」
大学には行けず、一人暮ししている時はそう考えていた。
少しだけバイトしていたが、得る給料ははあまりにも少ない。
彼は自分の為にとにかく金が欲しかったが、懸命に働らこうとしなかった。
そして遂に親からの仕送りも途絶え、部屋から追い出された。


667 名前:したいと思うこと :2006/08/20(日) 20:11:49.18 ID:dtdqfF1l0
何時の間にか暗闇から落ちてきた白い雪は、彼の体温を奪い続ける。
電車の音は、次第に遠くなっていく。
沢山の会社員も今はいない。
雪が目に触れ、雫となって流れる。
男は何も持たずに眠ろうとしていた。

突然、静かだった彼の世界に音が戻る。
目の前で、雪に躓いた小さな女の子が倒れていた。
母親が彼を見て大慌てで走ってくる。
その時、男は一つ手に入れた。
女の子はまだ冷たい雪の上に倒れたままで動こうとしない。
手を、差し伸べる。



BACK−告白 ◆XS2XXxmxDI  |  INDEXへ  |  NEXT−夢の果てにて ◆dx10HbTEQg