【 Bombs away!! Bombs away!! 】
◆4RQAzpJruM




504 名前: ◆4RQAzpJruM :2006/08/20(日) 02:07:46.30 ID:/9Hhhpwr0
 顔を上げて汗をタオルでふく。
目の前には青空が広がっていて、そこを雲が駈けて行く。
「雲、か」
 自分にとっての自由の象徴であり、夢が頭上を漂っている。いつかは雲のように世界中を旅する、子供の時の大きな夢が。
「なに上をぽかーんと見てんだ。地面を見てクワを振らんか」
「わかってるよ、親父」
 部活を引退してむかえる夏休みは気が付けば毎日畑仕事だ、バットを振るよりもクワを振る方が巧くなったかも知れない。
「そういえば昨日の甲子園の試合を見て思い出したが、おまえは去年と春は甲子園に行けたのに今回は酷かったな」
「酷くはないだろ。みんなあれさ、夢だった甲子園に去年の夏と春でいけて夢が叶っちまったから目標が無くなったんだ、
今にして思えば当然の結果だよ」
「情けねぇ、強豪って呼ばれるくらいやれってんだ」
 悪態をついた親父は黙々と仕事をこなして行く。
それに習って自分も淡々と作業をする。
 日が中天にまできて汗が一気に吹き出る、それを汚れたタオルで何度も拭う。
最後の夏が部活の時と同じように土塗れの夏を過ごしていることに苦笑している自分に気付く。
「おーし、そっちはもういい、水汲んであっちの野菜に撒いてくれ」
「うぇーい」
 やる気のない返事で答えクワを置いて、バケツを持ってすぐそばを流れる川に向かった。

505 名前: ◆4RQAzpJruM :2006/08/20(日) 02:08:42.92 ID:/9Hhhpwr0
 川についてまず汗と土で汚れた顔を洗う。
顔も頭もさっぱりし、腰をおろして少し自分の過去を振り返る。
 小・中・高と今までの自分は夢を現実にして来た。
だから、あの雲のように世界中を旅するという夢も現実にしなければならない。
「まぁ、こいつは俺の人生をかけての夢だから時間はまだまだある。焦る必要はないんだ」
 自分に言い聞かせるが、胸の中では常に気持ちが逸る。
目を閉じれば目蓋に本やテレビで見た世界の風景が広がり、その景色が自分の目前にあるように思え、目を開ける。
 あるのは川とバケツ。
「今まで夢は叶えてきた。この夢も叶えてやるさ、必ずな」
 再確認するように声を出して自分に誓う。夢を現実にするために。
水をバケツに入れて畑に向かえば待っていたのは親父の一声。
「水を汲むのに何分かかってんだ。亀みたいにのろのろしないでてきぱきと動け」
 親父の叱声を軽く流して柄杓で水を撒く。
撒きながら考える。
―なるほど亀か、鈍重でも一歩一歩確実に前進していく。千里の道もなんとやらだ、焦って急いじゃ駄目だってことだな
「手が止まってるぞ、夕方になっても水を撒いてるつもりか」
 今日、空を見てあの子供の時の大きな夢を思い出した。
一歩のきっかけは今日なのかもしれない、ならば踏み出さねばいけない、夢への道を。
「なぁ親父、話あるんだけどさ」

506 名前: ◆4RQAzpJruM :2006/08/20(日) 02:09:48.37 ID:/9Hhhpwr0
「で、お父さんは許してくれたの?」
「そんな分けないだろ。こっぴどく怒鳴られたよ」
 自分の夢を知っている友達にこの前の事を話した。
怒られたと聞いてクスクスと隣で笑う。
「当然だよね、そんな野たれ死ぬような夢を許すわけないよ」
 当然と言う言葉に少し感情が反発する。
彼女にとってもこの夢はきっと冗談かなにかで言っていると思っているのだろう。
「なぁに、実現させてみせるさ」
 自信を持って言うと、少し驚いたそぶりを見せる。
冗談と思っていたのが本気だと分かったからからだろうか?
「じゃあさ、どのくらいの確立で実現できると思ってる?」
「そうだな……」
 彼女の問いに答えが窮し、空を見上げる。
雲もなにもない空、太陽のまぶしい光で目が眩む。
「明日、あの太陽が東の空から昇るのと同じくらいの確立だよ」
 僅かだが確かに一歩前進した。次の一歩はいつだろう? 明日か、一週間後か、1年後か、5年後かもしれない。
だけど前進していく。あきらめない限り前にいく。のんびりでもいい、休んでもいい。
 夢をあきらめず歩けばいい。
「あのさ、白昼夢を見ながら歩くのは危ないんじゃない?」

  終



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